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ビジョンなき迷走が招いた降格:鹿児島ユナイテッドFC 再起への課題 前編 (組織編)

鹿児島ユナイテッドFCの2024年シーズン、J3への降格という結果は、単なる戦術的な失敗や選手のパフォーマンス不足だけでは説明できません。むしろ、その背景にある組織的な問題やクラブ全体のビジョンの欠如が主な原因であると考えるべきです。クラブが長期的な成功を収めるためには、まずビジョンが必要であり、そのビジョンに基づいて監督を選び、選手を補強し、戦術を作り上げるべきです。しかし、鹿児島ユナイテッドFCには、この基本的なプロセスが欠けていました。

クラブにとってのビジョンとは、単なる言葉の羅列ではなく、日々の活動の指針となるべきものです。ビジョンが定まっていない状態で、一時的な成功を追い求めても、それは砂上の楼閣に過ぎません。苦しい時に立ち返るべき「羅針盤」がなければ、立ち直るには時間がかかります。今シーズンの鹿児島ユナイテッドFCは、そのひつとの例です。特に中断期間明けからのチームのパフォーマンスの低下は、このビジョンの不在と組織的な課題が現場に直接影響を与えた証拠といえます。

中断明けの試合を見て、「これは降格するな」と感じた瞬間がありました。その理由は、中断前よりも明らかにサッカーの質が落ちていたからです。クラブが戦うべき方向性が見えず、指導者が交代することでチームの安定感が失われ、選手たちも自信を失っていました。監督を交代することで、一貫性を欠いたプレーが続き、選手たちは自分たちが何を目指しているのか分からなくなってしまったのです。

今年、鹿児島ユナイテッドFCでは珍しいことに、試合後にサポーターが声を荒げる場面が何回かありました。これは連敗したことで、不満が爆発したというよりは、進むべき道が見えない状況にイライラしていたのだと思います。

大島監督を解任したクラブの判断は理解できます。勝ち負けはともかく、シーズン当初からの課題、守備面が脆い部分の改善が進んでいなかったからです。だから守備面の課題の修正を狙って監督を交代した判断は、その時点では間違っていなかったといえます。ただ、守備面の改善を目指して契約した監督が、それを達成できなかっただけです。

鹿児島ユナイテッドFCは、選手補強に多くのエネルギーを注ぎましたが、それよりも必要だったのは監督を補強することでした。良い監督は、選手たちの能力を最大限に引き出し、チームとしての一体感を作り上げます。しかし、そのためにはクラブとして、監督の役割を理解し、適切に評価する人材が必要です。練習を見れば、良い監督かそうでないかは分かります。しかし、その違いが分かる人がいなければ、監督選びは単なるギャンブルに終わってしまいます。

また戦術面でも優れ、チームビルディングにも長けている、能力の高い監督がいればよいですが、そんな監督は探すのが難しく、予算の限りのあるクラブに来てもらうのも困難です。それであるならば、監督が足りない部分を補佐するヘッドコーチなりを置いて、監督の負担を減らすことも必要だったと思います。

今シーズン、シーズン途中にレンタル移籍で加入した選手たちの多くが期待されたパフォーマンスを発揮できなかったことも問題の一因でした。有田稜選手や稲葉選手は一定の活躍を見せましたが、それ以外の選手たちは怪我の影響もあり、チームに大きな貢献ができませんでした。これは選手の能力の問題だけでなく、チームとして彼らをどう使うかという戦術面での問題も含まれています。結局のところ、クラブとしてのビジョンがなく、そのビジョンに基づいた補強が行われなければ、選手個々の能力が発揮されることは難しいのです。

シーズン当初のメンバーでも、十分にJ2残留を果たすだけの力はあったと思います。実際に、ボトムハーフのクラブと鹿児島ユナイテッドFCとの戦力差はそれほど大きくなかったにもかかわらず、勝ち点差は大きく開きました。この差は、単に選手の質や戦術の問題ではなく、組織的な課題が試合に影響を与えていたことを示しています。クラブとしての方向性が定まらず、監督が交代し、戦術が迷走する中で、選手たちは何を目指してプレーすれば良いのか分からなくなってしまったのです。

来シーズンに向けて、鹿児島ユナイテッドFCはまずクラブとしてのビジョンを明確にし、そのビジョンに基づいた体制を整える必要があります。監督や選手の契約の前に、クラブがどのようなサッカーを目指し、どのようなスタイルで戦っていくのか、その方向性をきっちりと定めることが最も重要です。それがなければ、J2に復帰できるかどうかは運次第であり、また何年もかかることになるでしょう。※これは監督が発表される前に、書いています

有能な監督を連れてくれば、全ての問題を解決して昇格できるということは考えてはいけません。どんな優れた監督が来たとしても、組織がしっかりしていなければ結果を残すことは難しいです。短期的には結果を残せたとしても、中長期的には必ずうまくいきません。だからこそ、時間を掛けてもいいから、きっちりと組織の基礎を固めて、じっくりと成長し、昇格して、次は1年で降格しないクラブにして欲しいと思っています。全ての問題を解決してくれる魔法の杖はどこにもないのです。※相馬監督がだめと言っているわけではありません。念のため

また、J3降格という厳しい結果を経験した今だからこそ、クラブ全体で立て直すチャンスでもあります。JFLからのJ参入を目指すクラブが増えている今、J3最下位は降格のリスクが現実のものとなっています。この状況下で、クラブとしての方向性を持ち、組織的な課題を解決することができなければ、再び同じ過ちを繰り返してしまうでしょう。

結局、組織の課題が現場に影響を与えるのはどの業界でも同じことです。例えば、ソニーが画期的な製品を出せなくなった時期や、Appleが一度倒産しかけた時も、問題は現場のパフォーマンスではなく、組織全体のビジョンと方向性の欠如にありました。鹿児島ユナイテッドFCも同様に、クラブとしての方向性を再確認し、それに基づいて現場を支える体制を整えることで、再びJ2復帰への道を切り開いていく必要があります。

鹿児島ユナイテッドFCが再び成功を手にするためには、まずクラブとしてのビジョンを確立し、それを全員で共有することが不可欠です。監督や選手の選定は、そのビジョンに基づくべきであり、全ての決定が一貫した方向性に沿って行われなければなりません。ビジョンがあれば、苦しい状況に直面しても、そこに立ち返り、道を見失わずに前進することができます。例え一日一歩しか進めなくても、1年後には365歩、今より前進できます。今シーズンの教訓を糧に、鹿児島ユナイテッドFCが再び昇格の道を歩むことを期待したい。それがすべてのサポーターの願いだと思います。

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