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REVIVE  第十章

前回のお話


第十章 「一緒にやろう」と言ってみる

拓真は、地元の商工会議所や市役所から受けた厳しい現実に打ちのめされていた。自信を持って提案した「地域活性レシピ」は、ことごとく否定され、彼の心はズタズタになっていた。しかし、鶴見さんの言葉が心に残っていた。
「地元のことを知りたいなら、ただ机に向かって考えてるだけじゃダメだ。街を歩いてみるんだ。」
そのアドバイスを受け、拓真は亀岡市をくまなく歩いてみることにした。目的もなく、ただ街を感じるために歩き続けた。いつも通らない道や、目にしたことのない路地裏を進むと、彼がこれまで気づかなかった世界が広がっていた。
「こんな場所があったんだ…」
拓真は、街のさまざまなエリアで異なるコミュニティが形成されていることに気づいた。商店街の中には、地元の人々が集まり、日常の買い物やおしゃべりを楽しむ場所があった。公園では子どもたちが元気に遊び、近所の住民たちが見守る姿が見られた。さらに、古い民家を改装して開かれたカフェには、若者たちが集まり、新しい文化を作り上げていた。
それぞれのエリアは、独自の特徴を持っていて、そこで暮らす人々の生活が色濃く反映されていた。拓真は、その多様性に驚き、同時に感動を覚えた。
「この街には、すでに多くの魅力がある…それを活かすためには、どうすればいいんだろう?」
拓真は考え込んだが、答えはすぐには見つからなかった。ただ、ひとつ確信したことがあった。それは、自分一人で何かを成し遂げるのは難しいということだった。これまでのプランは、地元の人々との協力をあまりにも軽視していた。
「この街を変えるためには、一人ではなく、地元の人たちと協力して進めるしかない。」
その思いを確かめるように、拓真は駅前のミスタードーナツに足を運んだ。そこで鶴見さんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる姿を見つけた。拓真は少し緊張しながらも、鶴見さんの向かいに座った。
「鶴見さん、少し相談があるんです。」
鶴見さんは新聞から顔を上げ、拓真に視線を向けた。
「どうした?何か考えがまとまったのか?」
拓真は、地元を歩き回った結果、自分が感じたことを素直に話した。さまざまなコミュニティが既に形成されていること、そしてそれを活かしてプロジェクトを進めるために「一緒にやろう」と呼びかけることを考えていることを伝えた。
鶴見さんはしばらく黙って聞いていたが、やがて静かに口を開いた。
「なるほど。お前さん、やっと本質に気づいたようだな。地元の人たちと協力することは、大きなメリットがある。彼らの知識や経験を活かせば、外から見ただけではわからないような問題や、解決策が見つかることもあるだろう。」
拓真は頷きながら、鶴見さんの言葉を受け止めた。しかし、次の瞬間、鶴見さんの表情が少し険しくなった。
「だが、忘れるなよ。地元の人たちと一緒にやることには難しさもある。彼らはそれぞれ異なる価値観や意見を持っている。特に、外から来た者が何かを提案することには、時に抵抗を感じることもあるだろう。だからこそ、信頼関係を築くことが大切なんだ。」
「信頼関係…」
「そうだ。彼らに信頼されるためには、お前さん自身がこの街の一員として受け入れられる必要がある。それは時間がかかるし、すぐに成果が出るものでもない。だが、一度信頼を得られれば、彼らも協力的になり、共に歩んでいけるだろう。」
拓真は、鶴見さんの言葉の重みを感じた。協力を求めるだけではなく、まずは自分自身が地元の人々に信頼される存在になることが必要だということを痛感した。
その時、鶴見さんが優しく笑って言った。
「お前さん、まずは『一緒にやろう』と言ってみるんだ。地元の人たちが何を考え、何を求めているのかを聞き出しながら、共に歩む姿勢を見せるんだ。そうすれば、自然と信頼もついてくるだろう。」
その言葉に、拓真は深く頷いた。
「分かりました。焦らず、地元の人たちと向き合いながら、信頼関係を築いていきます。そして、彼らと一緒にこの街を盛り上げていきます。」
鶴見さんは満足げに頷き、再びコーヒーを一口飲んだ。
「それでいい。お前さんならきっとやれるさ。だが、無理はするなよ。疲れたら、またここに来て、コーヒーでも飲んで休めばいい。」
その言葉に、拓真は少し笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、鶴見さん。」
その後、拓真は再び街へと出かけた。今度は「一緒にやろう」という気持ちを胸に、地元の人々と向き合いながら、信頼関係を築くための一歩を踏み出す決意を固めた。

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