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REVIVE  第八章

第八章 自分だけの「地域活性レシピ」を作る

拓真が鶴見さんの家を訪れたのは、地域活性化に向けた具体的なステップを模索するためだった。これまで学んできたことや蓄積した知識はあるものの、それをどう形にしていくかについては、まだ漠然とした部分が多かった。そんな中、鶴見さんの家で考えを整理しようとしていたところ、美香がやってきた。彼女の訪問は予想外だったが、自然と話題は二人が共有する地域への想いへと移っていった。

「最近いろんなことを学んだんだけど、それをどうやって地域のために活かせるか…」
拓真はぼんやりとした思いを言葉にしながら、美香に視線を向けた。美香は一瞬考え込むような表情を見せたが、その後、目が輝き始めた。

「例えば、地元の食材や伝統工芸をもっと発信することができないかな?」
その提案に美香がすぐに反応した。

「それ、すごくいいわ!ただ発信するだけじゃなくて、訪れた人が直接体験できるようなツアーに組み込むのはどう?例えば、観光客が地元の魅力を実際に手で感じ取れるような体験型の企画。そうすることで、この街にもっと興味を持ってもらえるんじゃない?」
美香の言葉に、拓真も感化され、さらにアイデアが膨らんでいった。

二人の熱意は徐々に高まり、身を乗り出して話し合う中で、ふとした瞬間、拓真が説明をしようとしたとき、美香が顔を少し前に出してきた。その瞬間、二人の顔は思いがけず数センチの距離にまで近づいた。

「え…」
拓真は息を飲み、言葉が一瞬詰まった。彼女の優しい香りがふわりと鼻をくすぐり、その香りに思わず胸が高鳴った。彼女の顔があまりにも近く、その無邪気で魅力的な笑顔が目の前に広がっていた。拓真の心拍は一気に速くなり、耳の奥まで響くような感覚に襲われた。

美香はそんな拓真の動揺に気づくことなく、話を続けた。「確かに!それなら、地元の農家や職人たちに協力をお願いして、訪れた観光客と一緒に何かを作り上げる場を提供できるかも。そして、そのあとでみんなで地元の食材を使った料理を楽しむ、っていう流れもありだね。」

その言葉の途中、二人の手が偶然触れ合った。ほんの一瞬の出来事だったが、拓真の心はその一瞬で最高潮に達した。彼の意識は完全に美香に集中してしまい、彼女の言葉が次第に遠く感じられた。

「ごめん!」
美香はすぐに手を引いたが、拓真は動揺していた。美香の言葉はもう耳に入らず、彼の心は彼女の存在だけにとらわれていた。何を話していたのかすら思い出せず、頭が真っ白になる感覚に襲われた。

「…え?さっき何て言った?」
焦って問い直す拓真に、美香は不思議そうに首を傾げ、微笑んだ。「何か変なこと言った?」
その無邪気な笑顔が、拓真の心をさらに乱れさせた。「いや、何でもない。ただ、ちょっと考え事してたみたいだ。」
そう言いながらも、拓真は美香に対する気持ちがこれまでとは違うものに変わり始めていることに気づき、その混乱に動揺していた。

二人の間で次々とアイデアが飛び交い、気づけば話し合いは大規模なプロジェクトの形になっていた。農業、伝統工芸、アート、観光を組み合わせた「地域活性レシピ」と呼べるほどのプランが生まれつつあった。このプランは、外部からの訪問者だけでなく、地域の人々にも新たな価値を提供し、地域の魅力を最大限に引き出すことが目的だった。

「これ、絶対にうまくいくよ!」
拓真は自信に満ちた表情でそう言った。その表情を見て、美香も同じように興奮していた。

「そうね。私たちが考えたプランなら、きっとこの街をもっと活気づけることができるわ。」
美香も力強く頷いた。

鶴見さんは、その二人の様子を静かに見守っていた。二人が夢中でアイデアを出し合い、次のステップを練るその姿は、まるで子供が新しい遊びを思いついたときのようだった。しかし、鶴見さんは何も言わなかった。
ただ、彼の口元にはニヤリとした微笑みが浮かんでいた。それは、二人が自分たちの足で立ち、地域の未来を切り拓いていく力を見守るような微笑みだった。

二人が次のステップに向けて具体的な計画を立て始めると、鶴見さんは静かにその場を去った。彼の心の中には、地域の未来を託す思いと、若者たちがどのようにしてその未来を描いていくのかという期待があった。

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