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REVIVE  第九章

第九章 地元で一日中歩いてみる

拓真と美香が考えた「地域活性レシピ」は、彼らにとってこれまで学んできたことの集大成だった。二人は地域の特産品や観光資源を最大限に活用し、地元の人々が自らの手で地域を再生するという新たなビジョンを描いていた。その中には、亀岡市の特産である京野菜を使った農業体験ツアーや、地元の職人たちと協力して工芸品を作るワークショップなど、実際に地元の魅力に触れながら新しい価値を生み出す体験型プログラムが盛り込まれていた。特に、鶴見台や桧山のような歴史的な場所を巡るツアーは、過去と未来をつなぐ試みとして二人が最も力を入れていた部分だった。

「これならきっと地域も活気づく!」と自信満々の二人は、まず商工会議所に足を運んだ。亀岡市は観光資源に恵まれているとはいえ、近年は観光客が減少傾向にあったため、二人のプランはまさにタイムリーな解決策だと考えていた。

しかし、その自信は会議室に入った瞬間から少しずつ揺らいでいった。担当者たちの表情は硬く、プランを説明する間も無表情で、期待していたような反応はまったく得られなかった。そして、ついに担当者が口を開いた。

「その手の体験ツアーは、これまで何度も試みられています。しかし、残念ながら大きな成果が出たことは一度もありません。」

その言葉は、まるで鋭い刃のように拓真の胸に突き刺さった。さらに追い打ちをかけるように、他の担当者が冷淡に言葉を続けた。

「新しいプランと言いますが、実際には今までのものと大差がないですね。私たちも何度もアイデアを出しては検討してきましたが、成果は出ていません。そんな簡単に成功するとは思えません。」

「正直、今さらこのプランを提案されても、何も期待できませんよ。」

拓真はその場で言葉を失った。何も言えず、ただ無力感に包まれていた。美香も同様に、ショックを受けた顔で黙っていた。

会議を終えた後、二人は無言で市役所を出た。拓真は、頭の中で何度もプランの内容を振り返りながら歩き続けたが、自分の思考は迷路に入り込んだかのようだった。美香は、拓真のすぐ後ろをついて歩いていたが、彼にかける言葉が見つからなかった。二人の周りを流れる静かな秋風が、彼らの心の中の空虚さをさらに強調しているかのようだった。

「拓真、大丈夫?」美香がようやく口を開いた。

だが、拓真は返事をしなかった。ただ、重い沈黙が続くだけだった。自分が考え抜いて作り上げたプランが、まったく新しいものではないと知り、彼の心は挫折感と無力感でいっぱいだった。

「俺たちが考えたプランなんて、結局何の価値もなかったんだ…」と、拓真はつぶやいた。

その言葉に、美香は心が痛んだ。彼がどれだけこのプランに情熱を注いできたかを知っているだけに、どうしても慰める言葉が見つからなかった。しかし、美香は懸命に言葉を紡いだ。

「そんなことないよ、拓真。私たちは一生懸命考えたんだから、きっと他にもできることがあるはずだよ。」

だが、その言葉は今の拓真には響かなかった。

「もういいんだ。どうせ俺には、何もできないんだよ…」と、無力感を隠しきれずに吐き出すように言った。美香に対する感謝の気持ちも込められていないその言葉に、美香は黙り込み、拓真に対してどのように接すればいいのかわからなくなっていた。心の中では彼を支えたいという気持ちがあったものの、逆に自分が彼に迷惑をかけているのではないかという疑念が頭をよぎっていた。

二人は、何も言葉を交わさないまま別れた。拓真は、一人で自分の気持ちを整理しようとしていたが、頭の中は混乱し、何も浮かんでこなかった。ただ、挫折感と無力感が渦巻いていた。

その時、ふと目の前に鶴見さんが現れた。

「お前さん、何をそんなに落ち込んでるんだ?」と鶴見さんが尋ねた。

拓真は、驚きつつも、自分たちのプランが否定されたことを正直に話した。鶴見さんは、それを静かに聞いた後、こう言った。

「まあ、そんなこともあるさ。でもな、拓真、お前さんが見落としていることがあるんじゃないか?」

「見落としていること…?」拓真は、鶴見さんの言葉に疑問を抱いた。

鶴見さんは、続けてこう言った。「地元のことを知りたいなら、ただ机に向かって考えてるだけじゃダメだ。実際に街を歩いてみるんだ。たとえば、篠町や南つつじケ丘のような場所を、普段の生活の中では気にかけないだろう。でも、そこでこそ、この街の本当の日常が見えてくるんだ。特に路地裏や、観光客がほとんど来ないような場所を歩いてみろ。目的もなく歩く中で、何か新しい発見があるかもしれない。そして、その中にこそ、お前さんの本当のアイデアの源が眠っているかもしれないぞ。」

その言葉に、拓真はハッとした。「歩く…」彼は静かに呟いた。

「そうだ。何も考えず、ただ歩いてみろ。目に入ってくるものを見逃さずに、感じるんだ。新しい発見がきっとあるはずだ。」鶴見さんのアドバイスは、まるで霧の中に光が差し込むように、拓真の心に新たな希望を与えた。

その言葉を胸に、拓真はもう一度自分のプランを見直すために、そして新たな発見を求めて、亀岡の街を歩いてみる決意をした。


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