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REVIVE  第六章

第六章 十人の若者に「戻ってきて」と声をかける

亀岡市での生活が安定し始めた拓真だが、心の中には常にモヤモヤが残っていた。街に訪れる人々は祭りやイベントの時だけ多く、その後はいつも元の静かな日常に戻ってしまう。地域を盛り上げるために頑張っているが、人々がこの街に定着することはほとんどなかった。

「どうして、みんな戻ってこないんだろう…」
拓真は一人で考える日々を過ごしていたが、何かを変えるためには自分から動くべきではないかという思いが徐々に芽生え始めた。しかし、実際に行動に移す勇気が出ない。自分から「戻ってきて」と声をかけることに対して、どこかためらいを感じていたのだ。
 
そんな時、高校の同窓会が京都駅近くで開かれることになった。地元を離れて東京や大阪で働いている旧友たちが一堂に集まる機会に、拓真はどこか心が落ち着かないまま参加することになった。

同窓会の会場では、懐かしい顔が揃い、みんなそれぞれの生活を楽しそうに語っていた。その中でも、特に目立っていたのは松本美香だった。彼女は高校時代、クラスの隅で静かに本を読んでいるような存在だった。あまり友人と群れることもなく、目立たない生徒だったが、今日はまるで別人のようだった。

今では、都会的な洗練されたスタイルで場の注目を集めていた。美しい髪型やファッションセンス、堂々とした立ち居振る舞いが、まるで別の世界から来たかのように見えた。周囲の男子たちは彼女に自然と目を向け、何人かは積極的に話しかけようとしていたが、彼女は控えめな微笑を浮かべながらも、誰に対しても落ち着いて丁寧に対応していた。かつての内気な姿はどこにもなく、その変貌ぶりに、拓真は思わず彼女をじっと見つめてしまった。
 
「美香さん、亀岡に住んでるんだ?」
昔の彼女とのギャップに戸惑いながら、拓真は驚きを隠せずに尋ねた。彼女は変わらぬ落ち着いた微笑みを浮かべて、
「そうなの。都会で働いてたけど、やっぱり地元が一番落ち着くって思って戻ってきたの。今は美術館でキュレーターをしているの」
と話した。拓真は、地元に対して同じような愛着を持つ彼女に親近感を感じた。同窓会が進むにつれて、二人は自然と話す機会が増え、地元の未来について熱く語り合った。
 
同窓会が終わり、二人は一緒に亀岡へ戻ることになった。京都駅から亀岡駅までの電車の中、二人はしばらく高校時代の思い出話を交わしていたが、拓真は少し照れくささを感じながらも会話を切らさないように気を使っていた。時折沈黙が訪れると、少し緊張してしまう。それでも、美香との会話が途切れるのが嫌で、つい他愛もない話を続けた。
 
「最近、亀岡で祭りとかイベントをやってるんだけど、どうしてもその時だけしか人が集まらないんだよね。」
拓真はふと愚痴っぽく言ってしまった。美香に向かって話すうちに、自分の中にあったモヤモヤが少しずつ言葉として溢れてきた。
「盛り上がっても、その後はいつも静かになっちゃう。正直、地域を盛り上げたい気持ちはあるんだけど、どうしても自分ひとりでできることには限界があるって感じるんだよ。」
「SNSとか使えば、もっと広がるんじゃない?」
「そうなんだけど、何か怖いんだよね。『戻ってきて』なんて言っても、誰も反応してくれなかったらどうしようって思っちゃうし…」
言いながら、拓真は少し照れくさくなってきたが、言葉は止まらなかった。
「それに、自分が発信したところで、本当に変わるのかなって…。」
 
美香は黙って聞いていたが、優しい微笑みを浮かべて拓真を見つめていた。
「わかるよ。でも、何かを変えたいなら、まず自分が行動しなきゃダメだよ。」
亀岡駅に着き、二人は降りると、改札で別れることになった。
「また、どこかで話そう。」
美香の笑顔を見送ると、拓真は自分が何をすべきかを思い返しながら、一人で駅を後にした。
 
翌日、拓真は美香が働く美術館を訪れた。美香は、展示されている作品を案内しながら、自然と前日の会話の続きを切り出した。
「昨日、拓真が言ってたこと、よくわかるよ。地域を盛り上げたいのに、自分ひとりでできることには限界があるって思うよね。」
拓真は頷きながらも、どこか迷いが拭えない表情をしていた。そんな彼の様子を見て、美香は少し微笑みながら、やさしく言った。

「清沢哲夫先生の「道」って知っている?『この道を行けば どうなるものかと 危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。ふみ出せば その一足が道となる その一足が道である。わからなくても 歩いていけ 行けば わかるよ』って。
何かを始めるのに悩んだり怖がったりするのは当たり前だよ。でも、結局は踏み出さないと何も始まらないの。たとえわからなくても、まず一歩を踏み出すことが大事なんだよ。」

その言葉が、拓真の心に深く響いた。美香の力強い言葉に背中を押され、彼はようやく決心を固めることができた。
「そうだな…やっぱり、自分が動かないとダメだよな。」
美香の言葉がきっかけとなり、拓真は行動に移す勇気を得たのだった。
 
その日、拓真は早速SNSに「地域活性化を一緒にしませんか?」というメッセージを投稿した。具体的な行動に移した瞬間、彼の中で何かが変わり始めた。

小さな行動の積み重ねが、やがて大きな変化を生むと信じていた。そして、美香という心強い仲間と共に、亀岡市を再び活気のある場所にするための一歩を踏み出したのだった。

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