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REVIVE  第十八章

第十八章 「続けること」の力を信じる


前回までのお話

 



夜の静寂のブルワリー

拓真は京都府亀岡市のブルワリー内にオープンしたカフェ&バーで、閉店作業を終えていた。夜の静けさに包まれた店内で、彼は一人考え事をしていた。窓の外には満天の星空が広がり、その美しさに心が少しだけ癒される。
 
彼の頭には、東京で夢を追いかける恋人、由香のことが浮かんでいた。遠距離恋愛を続ける二人だが、最近はお互いの忙しさから連絡も減り、心の距離も感じ始めていた。
 
「由香、元気にしてるかな…」
 
スマホを手に取り、彼女の名前を眺める。しかし、メッセージを送ろうとするたびに言葉が見つからず、ため息をついて画面を閉じた。

突然の来訪者

その時、店の扉が開き、美香が顔を出した。
 
「拓真、まだ店にいたの?」
「美香、どうしたんだ?もう遅いよ」
「うん、ちょっと資料を忘れちゃってね。それに、少し話せるかなって思って」
 
彼女の親しげな笑顔に、拓真の心が少し軽くなる。
 
「もちろん。コーヒーでも淹れようか?」
 「ありがとう!」
 
二人はカウンターに座り、温かいコーヒーを手に取りながら話を始めた。美香は新しい美術展の企画と、それを地域活性化にどう繋げるかについて熱心に語った。拓真も彼女のアイデアに共感し、意見を交換する。
 
「最近、プロジェクトが思うように進まなくて」
と美香がぽつりと言った。

 「確かに、あまり結果が出ないね。でも、ここで諦めるわけにはいかない」
 「そうだね。続けることが大切だよね」
 
彼女はカバンから一冊のノートを取り出した。
 
「これ、地元の人たちからのメッセージを集めたの。見てみて」
 
拓真はノートを受け取り、ページをめくった。そこには感謝や応援の言葉がびっしりと書かれていた。
 
「『新しいカフェ&バーのおかげで街に活気が戻ってきました』『美術展、楽しみにしています』…」
 
彼の胸に暖かい感情が広がる。
 
「みんな、こんなにも俺たちの活動を見てくれてたんだな」
 「そうだよ。だから、私たちが続けていくことが大事なんだと思う」
 
拓真は深く頷いた。
 
「美香、ありがとう。君のおかげで大切なことに気付けたよ」
「私だって、拓真がいるから頑張れるんだよ。だって…」

言葉を飲み込んで、 二人は笑い合った。

突然の電話

その夜、帰宅した拓真はベッドに横たわりながら、由香のことを考えていた。突然、スマホが鳴り、画面には由香からの着信が表示された。
 
「もしもし、拓真?」
 「由香!久しぶりだね。元気にしてた?」
 「うん、元気。でも、話したいことがあるの」
 
彼女の声はどこか緊張しているようだった。
 
「何かあったの?」
 「実は、海外赴任の話があって…ニューヨークに行くことになりそうなの」
 「え、本当?すごいじゃないか!」
 「ありがとう。でもね…」
 
突然、由香の声が震え始めた。
 
「本当は、行きたくないの…」
「もう待てない。拓真、なんで結婚しようって言ってくれないの?」

 彼女は泣きながら言葉を続けた。
  
「由香、俺は…」
 
「もういいの。ごめんね、急にこんなこと言って。でも、これが私の本当の気持ち」
 
彼女の声は涙で詰まっていた。
 
「お互い、夢に向かって頑張ろうね」
 
「待って、由香!」
 
しかし、電話は切られてしまった。拓真はスマホを見つめ、深い溜息をついた。

自分の道

翌日、拓真は公園のベンチに座り、一人で考え込んでいた。すると、どこからともなく、鶴見さんがやってきた。
 
「おやおや、こんなところで何を悩んでおるのかな?」

 拓真は顔を上げて驚いた。
  
「実は、恋人から結婚を迫られていて。でも、自分の夢もあって、どうすればいいのか分からなくて…」
 「なるほど、それはなかなかの難題じゃな」
 
鶴見さんはベンチに腰を下ろし、遠くの景色を眺めながら話し始めた。
 
「大切なのは、自分の心に正直であることじゃよ。自分が本当に何を望んでいるのかを見つめ直すことが必要じゃ」
 
「でも、何が大切かわからなくて」
 「そうじゃな。ならば、どちらも諦めずに続けてみてはどうかね?」

 「続けること…ですか?」
 「そう。続けることには大きな力がある。一歩一歩前に進んでいけば、思いもよらない道が開けるかもしれんぞ」

此の道を行けば どうなるのかと 危ぶむなかれ
危ぶめば 道はなし
ふみ出せば その一足が 道となる その一足が 道である
わからなくても 歩いて行け 行けば わかるよ

「この言葉は、プロレスラーのアントニオ猪木が引退式の時の詠まれた詩真宗大谷派の住職、清沢哲夫氏がかかれた詩なんだ」

「終わってみないと、今が正しいなんてどうかわからない、今この瞬間を大切にするか、そして、一歩一歩踏み出して、振り向いたら道が出来ているのだよ。」
 
「ありがとうございます、鶴見さん。少し道が見えてきた気がします」
 
そう言って、鶴見さんはいつの間にか姿を消していた。拓真はその不思議さに戸惑いながらも、彼の言葉が胸に響いていた。

続けることの意味

その後、拓真はプロジェクトにさらに熱心に取り組んだ。美香やチームの仲間たちと共に、地域活性化のために全力を尽くした。その中で、自分が本当に大切にしたいものが少しずつ見えてきた。
 
数日後、彼らが企画した美術展とカフェのコラボイベントが開催された。多くの人々が集まり、イベントは大成功を収めた。地域の人々からの感謝と笑顔に、拓真は「続けてきて良かった」と心から思った。
 
イベントの後、美香が声をかけた。
 
「拓真、今日は本当にお疲れさま!」
「美香もお疲れさま。君のおかげで成功したよ」
「そんなことないよ。みんなの力だよ」
 
彼らは夜空を見上げた。星が美しく輝いている。
 
「続けてきて、本当に良かったね」
 「うん。これからも頑張ろう」
 
美香が微笑むと、拓真の胸が少し高鳴った。しかし、その感情を深く考えることは避けた。
 
「次はどんなことをしようか?」と美香が楽しそうに尋ねる。
「そうだな、もっと地域の人たちが参加できるイベントを考えたい」
「いいね!一緒にアイデアを出し合おう」
 
二人は笑顔で未来を語り合った。その関係が友情以上のものに発展するのか、それとも…。
 
拓真の心はまだ揺れていたが、「続けること」の力を信じ、前に進む決意を固めた。

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