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REVIVE  第二章

第二章 地元の人に「ありがとう」を言う
  
 鶴見さんの助言を受け、拓真は亀岡市内の隠れた「宝物」を探し始めた。まず、ノートパソコンを開き、グーグルで「亀岡 名産品」と検索した。画面には、「京丹波・亀岡ブランド」として認定された数多くの特産品がずらりと表示された。

その中で、「アクティブかめおか推進会議」という団体が認証していることを知り、興味を引かれた。彼は認証制度の概要をさらに調べてみた。「亀岡のよさ、亀岡らしさ、亀岡ならではの逸品」が、亀岡の恵まれた自然環境の中で育まれた素材から作られていることが分かり、その価値を改めて実感した。

「さお舟、酒伝鬼ころし(原酒)、にんにく醤油、子宝 鳥貝ずし、ふる里のみそ汁、タケモの京むらさき醤油…これらは、ただの商品じゃなく、亀岡の宝物なんじゃないか。」

画面に映し出される特産品の数々は、地元の職人たちが丹精込めて作り上げたもので、地域の自然や文化を象徴していた。モーツァルトの音楽を取り入れた「モーツァルトが醸した醤油」、そして地鶏の旨味が詰まった「丹波黒どり炭火焼」――これらすべてが、亀岡の自然の恵みと人々の技によって生まれた宝物だった。

さらに、かめおか霧の芸術祭やそこから生まれたHOZUBAG、みずのき美術館、亀山城跡など、地域に根ざした魅力が数多くあることに気づいた。

「これだけ多くの宝物があれば、街をもっと活気づけることができるはずだ。」

拓真はそう確信し、それらを基にしたビジネスプランを練り始めた。彼はこれらの特産品を活用し、都市部の消費者に向けたマーケティング戦略を構築し、亀岡市の独自性を前面に押し出すアイデアを出した。

まず、地元の商店街や市場を訪れ、店主たちに「売らせてください」と熱心に頼み込んだ。彼は、自分の提案が地元の活性化に役立つと信じ、誠心誠意を込めて説明した。しかし、返ってくる言葉は彼が期待していたものとは程遠かった。

「悪いけど、亀岡商工会議所に任せてるから、そこでお願いしてくれないか」

「商工会議所と同じことをするんか?」

「そういう地域貢献とかいう話は、うちではちょっと…」

拓真は愕然とした。自分がいかに真剣に考えたかを伝えようとしても、それが地元の人々にとっては通じていない。東京から帰ってきたばかりで、突然地域貢献を口にしながら特産品を販売させてほしいと頼む彼に対して、店主たちは警戒し、不審感を抱いていた。

何度も提案を試みたが、その度に「商工会議所に任せている」という言葉で断られたり、表面的な回答ばかりで、彼は深い無力感を覚えた。

夜、部屋に戻った拓真は、これまでのプランを見直しながら、自問自答を繰り返した。都会の成功モデルを持ち込むことで、地元を活性化できると信じていたが、その考えがどれほど浅はかだったかに気づき始めた。

「本当にこれでいいのか?俺は何をやろうとしているんだ?」

彼の頭には、商店主たちから言われた「商工会議所に任せてるから」という言葉が何度も蘇ってきた。自分が提案したビジネスプランが、亀岡商工会議所が精力的に取り組んでいることと重なっているだけで、自分が改めて行う必要がないことに気づいた瞬間、拓真は一瞬にして力が抜けた。

「商工会議所がこんなに一生懸命やっているのに、俺がわざわざ同じことをする意味があるのか?結局、俺のプランは何の新しさもなく、地元にとっても必要のないことなんじゃないか?」

彼は考えを巡らせるうちに、さらに深い疑問にぶつかった。「地元の宝物」は、果たして名産品や特産品だけだろうか?本当に大切なのは、そうした物質的なものではなく、地元の人々との繋がりや、彼らに感謝される存在になることではないか?しかし、それが具体的にどういうことなのか、彼は答えを見つけられずに悩んでいた。

「でも、それってどういうことなんだろう…?」

答えが見つからないまま、拓真はもやもやとした気持ちを抱え続けていた。そんなある日、拓真は偶然、H商店街で鶴見さんと再会した。鶴見さんは変わらずにこやかな表情で、拓真に声をかけた。

「おや、また会ったな。最近どうだ?」

その問いかけに、拓真は自分の抱えている悩みを正直に打ち明けた。「物質的なものではなく、地元の人々との繋がりが大切だと思うんです。でも、それが具体的にどういうことなのか、自分にはまだ分かりません。」

その問いかけに、拓真は自分の抱えている悩みを正直に打ち明けた。「物質的なものではなく、地元の人々との繋がりが大切だと思うんです。でも、それが具体的にどういうことなのか、自分にはまだ分かりません。」

鶴見さんは拓真の話をじっくりと聞き、少し考え込んだ後にこう言った。

「お前さん、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』って本を知ってるか?」

拓真は首をかしげた。「名前は聞いたことがありますが、内容までは…。」

「その中に、『信頼残高』という概念があるんだ。これは、銀行口座にお金を貯めるように、人間関係において信頼を貯めていくという考え方だ。コヴィーは信頼残高を増やすために、6つの方法を紹介している。まず、1つ目は『相手を理解すること』、2つ目は『小さなことを大切にすること』、3つ目は『約束を守ること』、4つ目は『期待を明確にすること』、5つ目は『誠実さを示すこと』、そして最後に6つ目は『誠意をもって謝ること』だ。」

鶴見さんは一呼吸置いて続けた。「この6つの方法はどれも大切なんだが、今のお前さんにとって特に重要なのは、1つ目の『相手を理解すること』と、2つ目の『小さなことを大切にすること』だと思う。」

拓真は興味深そうに耳を傾けた。

「まず1つ目の『相手を理解すること』についてだが、これは信頼の基礎になる。お前さんがどんなに良かれと思って何かをしても、相手がそれを喜ばなければ意味がないんだ。だから、相手が何を大切にしているのか、何を喜ぶのかをしっかり理解することが大切なんだ。」

鶴見さんはさらに説明を続けた。「次に、2つ目の『小さなことを大切にすること』だ。小さな親切や心遣いが、信頼を築くうえでとても大きな意味を持つ。逆に、小さな無礼や不親切な行動が、信頼を失う原因にもなる。地元の人々との信頼関係を築くためには、日常の中でできる小さな親切や気配りを意識して積み重ねていくことが大切なんだ。」

拓真は深く頷いた。「じゃあ、まずは相手を理解することと、小さなことを大切にすることから始めればいいんですね。」

「そうだ。それがどんなに小さなことでも、相手を理解し、心からの親切を示すことで、自然と信頼が築かれていく。そして、それが本当の意味での『繋がり』を作るんだよ。」

鶴見さんの言葉は、拓真の胸に深く響いた。信頼を少しずつ積み上げることの重要性と、まずは小さな行動から始めるべきだという考え方が、自分の状況にぴったりと合致していると感じた。

つづく


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