医学教育研究の理論的基盤を探る:研究フレームワークの重要性


はじめに

医学教育研究は、医療の質の向上と次世代の医療従事者の育成に不可欠な分野です。しかし、その研究手法や理論的基盤については、まだ十分に理解されていない部分も多いのが現状です。本稿では、九州大学大学院医学研究院の菊川誠教授による講演内容を基に、医学教育研究を行うために必要な基本的理論的観点について詳しく解説します。

研究とは何か?

まず、「研究とは何か?」という根本的な問いから始めましょう。Oxford English Dictionaryによると、研究は以下のように定義されています:

「ある目的における注意深い考慮また考察することによって何らかの事実を発見することを目的とした体系的探求、そして一連の科学的調査」

しかし、この定義は必ずしも全ての研究アプローチに当てはまるわけではありません。特に医学教育研究のような社会科学の分野では、「発見」だけでなく、「理解」や「改善」を目的とする研究も多く存在します。

自然科学と社会科学の違い

医学教育研究は、社会科学の一部として位置づけられています。長年、自然科学で用いられている研究手法が教育研究にも適していると考えられてきましたが、1970年代頃から、この考え方に疑問が投げかけられるようになりました。

その理由は、研究対象の違いにあります。自然科学が物質やものを対象とするのに対し、社会科学は人間を対象とします。人間を対象とする研究では、研究対象の主観性や複雑性を考慮する必要があり、自然科学の手法をそのまま適用することが適切でない場合があります。

理論的観点の重要性

ここで重要になってくるのが「理論的観点」です。理論的観点とは、研究方法論の背景にある哲学的なスタンスのことを指します。これは主に以下の二つの要素から構成されています:

  1. 存在論(Ontology):物事の存在の本質に関する考え方

  2. 認識論(Epistemology):知識の本質や獲得方法に関する考え方

これらの理論的観点の違いによって、研究のアプローチや方法が大きく変わってきます。

主要な理論的観点

医学教育研究において重要な理論的観点には、以下のようなものがあります:

  1. 実証主義(Positivism)

  2. ポスト実証主義(Post-positivism)

  3. 構成主義(Constructivism)

  4. 参加型アクションリサーチ(Participatory Action Research)

  5. 混合研究法(Mixed Methods)

それぞれの特徴について、詳しく見ていきましょう。

1. 実証主義

実証主義は、客観的な現実が存在し、それを科学的な方法で観察・測定できるという考え方です。主な特徴は以下の通りです:

  • 客観性を重視

  • 因果関係の解明を目指す

  • 仮説の検証を重視

  • 量的研究手法を多く用いる

実証主義に基づく研究の目的は、現象を予測し、コントロールすることです。医学教育研究では、例えば新しい教育方法の効果を測定する際に、この approach がよく使用されます。

2. ポスト実証主義

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