iPS細胞が拓く網膜再生医療の未来:高橋政代氏の講演より


はじめに

iPS細胞(人工多能性幹細胞)の発見から10年以上が経過し、再生医療の分野で大きな期待を集めています。特に、網膜疾患の治療においては、iPS細胞技術の応用が新たな可能性を切り開きつつあります。本記事では、理化学研究所の高橋政代氏による講演内容を基に、iPS細胞を用いた網膜再生医療の最前線についてご紹介します。

高橋氏は、理化学研究所で研究室を主宰するとともに、神戸市立中央市民病院と先端医療センター病院で網膜変性疾患の外来診療も行っている、この分野の第一人者です。彼女の研究チームは、iPS細胞を用いた網膜再生医療の実現に向けて、日々研究に励んでいます。

眼球と網膜の構造

まず、眼球と網膜の構造について基本的な知識を整理しましょう。

眼球は、光を通す透明な組織(角膜、水晶体など)と、光を感知する網膜から構成されています。網膜は、眼球の最も内側にある薄い膜状の組織で、いわば「脳が出っ張って入り込んだもの」と考えることができます。

網膜は複雑な層構造を持っており、それぞれの層で異なる役割を持つ細胞が密集しています。光は網膜に到達すると、そこで電気信号に変換され、視神経を通じて脳に伝えられます。

高橋氏の研究チームが主に注目しているのは、網膜の最外層にある以下の2種類の細胞です:

  1. 視細胞:光を受け取り、電気信号に変換する役割を担う

  2. 網膜色素上皮細胞:視細胞を支持し、栄養を供給する役割を担う

これらの細胞は、多くの網膜疾患において障害を受ける部位であり、再生医療の主要なターゲットとなっています。

網膜疾患と視力障害

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