【完全解説】意思決定を支える脳のメカニズム - 道徳的判断から公平性まで


はじめに:私たちの複雑な意思決定プロセス

皆さんは日々、数え切れないほどの意思決定を行っています。「今日は何を食べよう?」という些細なものから、「どの大学に進学しよう?」「どんな仕事をしよう?」という人生を左右する重大なものまで、一日中私たちは選択の連続の中で生きています。

しかし、これらの意思決定がどのようなメカニズムによって脳内で実現されているか、考えたことはありますか?特に、理性と感情が対立するような状況では、私たちはどのようにして最終的な判断を下しているのでしょうか?

京都大学こころの未来研究センターの阿部信人先生による講義「意思決定を支える脳のメカニズム - 道徳的判断の研究事例から」を基に、私たちの脳内で起こる意思決定のプロセスについて深掘りしていきます。この記事では、認知神経科学の観点から、特に道徳的判断と公平性に関する意思決定に焦点を当て、最新の研究知見をわかりやすく解説します。

認知神経科学とは:心と脳の架け橋

まず、この研究分野について簡単に説明しましょう。認知神経科学とは、人間の心の働きと脳の働きの関係を研究する学問です。心理学と神経科学のちょうど中間に位置する分野と考えることができます。

研究手法としては、主に以下の2つのアプローチが用いられます:

  1. 脳機能画像法:健康な被験者を対象に、特定の心の働き(記憶、言語理解など)に関わる脳の活動を様々な機器を用いて間接的に測定する方法。特にfMRIという装置がよく使われます。

  2. 神経心理学:脳損傷の患者さんを対象として研究する手法。脳の特定部位が損傷すると、それに対応した認知プロセスがどのように障害されるかを観察します。

この記事では、こうした手法を駆使した研究から見えてきた「意思決定のメカニズム」について解説していきます。特に注目するのは、合理性、公平性、そして道徳的判断の背後にある脳の働きです。

第1部:意思決定における情動の働き

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