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昨日の敵は今日の友

17年も前の話になるが、僕は大学に入ると同時にダンス部に入った。その部活は少し体育会気質なところがあったので先輩後輩の上下関係がある程度存在していたものの、学年の垣根はあまりなくみんなで仲良い部活だった。地味な田舎から東京にきた僕は「新歓」というイベントが肌に合わず、最初に行った新歓が楽しければその部活もしくはサークルに入るという、事前に設定した謎ルールに従い、ダンス部に入部することにした。

1年生の時はとにかく先輩と接するのが楽しくて、田舎から出てきた人間にとっては全部が刺激的だった。元来、自分より年上の人間と接するのが好きだったところもあり、先輩たちの後ろをくっついて回るような学生生活を充実していた。年齢=弟、という人生を歩んできたせいか、人の後ろをくっついて行動するのは得意、性格の奥底までに染み付いていたものだった。

2年生になると当然後輩が入ってくる。ここで問題が発生。僕は後輩と接するのが得意ではなかった。高校でロクに部活動をしていなかったせいで、高校三年間で後輩と接したことはなかったのだ。後輩ができる、というイベントは実に中学生ぶりの出来事だった。

中学生ぶりの出来事の蓋を開けてみたところ、そこに現れたのは中学とは違い、髪を染めていたりパーマをかけていたり、異性と普通に話せる、自分よりイケてそうな1年生たちがそこにはいたのだ。その1年生たちに嫉妬のような感情を抱いていたと同時に、舐められてはいけないと思い、相手が男女問わずいつもツンとした態度を自然ととってしまっていた。

さて、そんな人との接し方が下手な自分にも彼女がいた。 彼女はとにかく明るい性格で誰に対してもフレンドリーで接していた。当然後輩たちにも。世の中には似たような人間が存在するもので、僕と同じように彼女の明るい性格や積極的に話しかけてくるところに惹かれる1年生がいた。

彼はハリー・ポッターに似ていた。彼はスラッとした体型とおしゃれなパーマ、そしてダニエル・ラドクリフのような顔立ちをしていた。ハリーはハリーポッターよりも明るい性格であり、よく僕にも話しかけてきた。僕がツンとして斜に構えたような、よく分からないことを言っても、ハリーは先輩のそういう大人な考え好きっす、と言ってくるような男だった。

ハリーは僕の彼女に好意を寄せていた。彼女はまんざらでもない感じで、ハリーは私のことが好きだと思う〜、と嬉しそうに僕に(僕以外にも)話していた。
僕は何も言えなかった。何かリアクションをとると、負けた気がした。 俺だけを見ろよ。きっと内面がかっこいい男ならこんなセリフを言えてしまうのだろうけど、そんな自信は皆無。田舎から出てきたばかりの大学生だからではなく、それは恐らく今でも変わらないだろう。

そんなある日、ハリーが彼女の家に泊まったらしい。ただ、何もなかったらしい。

それを他の後輩たちから聞いた僕は、片足を闇に突っ込んでしまったような不安に駆られると同時に不機嫌になった。というかこの気持ちをどうしたら良いのかわからなくなっていた。
その気持ちを抱えたまま、ダンスの練習に向かう。しかしそのことばかり考えてしまい、練習室の隅にある椅子にずっと座っていた。

そんなこっちの気持ちを知らずにハリーがいつも通り先輩〜と話しかけてきた。こいつ罪悪感とかないのか?と思いつつ、相変わらず爽やかなハリーに嫉妬と悔しさが混ぜ合わさった感情を抱いていた。

あのさ・・・、勇気を出して件の話をしようとする。僕がハリーが彼女の家に泊まった事を知っていると予想していなかったのか、もしくは僕が口は重々しく一方で瞳孔は開いた状態での話ぶりが怖かったのだろうか、ハリーは先輩、階段で話しましょう、と提案してきた。

ハリーは泣きながら謝った。 僕は悪いのは一年生に好意を寄せられて浮かれてそういうことをした彼女だ、と彼女に全責任をふっかけていた。僕も泣いていたかもしれない。 予想外だったのは、ハリーは最後にこれからも仲良くしてもらえますか、と言ってきたことだ。
客観的に考えて僕よりもハリーの方がモテるだろうから、僕から彼女を奪うことは彼にとってはもはや王手の状態だったはずだ。ハリーは彼女ではなく僕をとったのだ。

なお、その2ヶ月後くらいに、別の男絡みの事件で彼女とは別れた。そっちの方は救いようがなく悲惨な出来事だった。彼女と別れたおかげか、ハリーとの遺恨は消え去り、かえってハリーとの絆は深まったかもしれない。

あれから17年経った。ハリーとの関係は親友の域に達した。今は僕とハリーは違う国に住んでいるため、頻繁に会うことはできないが、時折電話でお互いの悩みを相談しあったり、未来について語り合ったりする間柄になっている。 彼は僕を頼りにしてくるし、僕も彼を頼りにしている。

当時の僕がハリーに対して抱いた感情は、とてもネガティブで嫉妬が入り混じった複雑な感情だったが、一つの出来事や時間の経過で、敵が友になることがある。漫画でよく見かけるような展開は、実は僕の身の回りでも起きていたのだ。

そう何度も起きるわけじゃないだろうけど、今、そして将来、僕が直面する人間関係でも同じようなことが起きてくれるといいな、と思う。

都会に沈む太陽

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