日曜日の気まぐれ
「太郎なんて名前、絶対バレちゃうよ」
「だから、逆にいいんだろ?偽物っぽいし」
何やらちょっと悪いことをしようとしてるな、と隣のテーブルに座る小学5.6年生くらいの男の子二人の話に興味が湧いた。
チェーン店のファミレスとは言え、小学生の子どもが二人で入るには、小遣いどうしているんだろうなどと、余計な心配をしてしまう。
僕も歳を取ったものだ。
「おまえは太郎だとして、俺は名前どうするんだよ、決めてくれよ」
「うーん、そうだな、ボンド!」
「おい、それスパイファミリーの犬の名前だろ!なんで俺は犬なんだよ!」
「え?バレた?とりあえずそれでいこうよ、とりあえずな」
なんだよそれー、と言いながら呼び合う練習をしてるのがおかしくて、もう1杯だけコーヒーを追加することにした。
聞き耳立てるなんて悪い趣味だが、これは面白い。
ボンドってジェームスボンドから来てるわけだろうから、あながち作戦に使う名前としては合ってるんだよな、とか一人で納得するところも、歳取ったなと自分にがっかりした。
トイレから戻り、ホットコーヒーが自席に来た時には、呼び合いは終わったらしく、次の作戦の話になっていた。
「やつはこのルートを必ず使うから、どこに置くかだよな」
「それなら、ここに置けば、多分見つけて止まるから、その時にボンドが撫でながら時間を稼いでくれれば、後ろから逃げられないようにネットを広げられる」
「行けそうな気がしてきたな」
「だろ?昨日の夜に考えたんだよ、ちょっと不安だったけど、大丈夫だよな?」
「問題は餌だよなー、何にする」
…えっとルート?ネット?餌?
動物なのはわかった。鳥とかでもなさそう。
犬か猫なのか?ハムスターとかじゃないだろな。でも撫でられるなら、その時捕まえられないか?なんて疑問を真剣に考えてる自分にも笑ってしまう。
「皿とか割ったら怒られるし、猫缶にしない?」
わかりやすい!(笑)
猫なんだな。でも猫捕まえるなんて、野良猫なのか飼い猫なのかどっちなんだろう。野良猫なら、捕まえるのはかなり難しいはずだ。
「猫缶いいね、洗わなくていいし。」
「よし、じゃあ家に戻って、俺が物置のネット取って、猫缶買ったら、作戦実行だな。」
「猫缶どこで買うの?」
「コンビニで売ってるの見たことあるから、きっとあるだろ?」
「それっていくらするの?」
「え?あれ高いの?」
「わかんない、調べてみる。あ、200円くらいぽい」
「やべえな、ちょっと足りないかも。おばちゃんにもらったお金を先に使ってる場合じゃなかったかもな、ミニチョコサンデーは、やりすぎた」
「だから、言ったじゃんかー、先に使うのはまずいってー」
なんとなくわかってきたな。猫はおそらく、たまにあるという短期間の家出をしたんだな。
それをきっと依頼主のおばちゃんはわかっているけれど、二人にお小遣いのつもりで依頼として、渡したわけだ。
話を聞いていると、ボンドのほうが堅実タイプっぽいな、さてどうするんだろ。
「どうするかー、200円くらいなら、落ちてねーかな」
…落ちてないだろ(笑)
「落ちてねーよ」
さすがボンドだ、冷静なツッコミ。
「わかった!200円ならきっといけるはずだ、俺天才かも」
お、なんだ?太郎、何をしようとしてるんだ?気になるなー
「何やってんの?」
「よし、これでOK!PayPayあるだろ?あれで送ってもらえるように募集するんだよ、猫作戦に必要なんですって」
「Xにもスレッズにも募集かけたから、どっちかでもいいから、来れば成功」
えげつない方法で募集するじゃねえか。
でも小学生とは思えぬ大胆さだな。
「んー、来ないなー。すぐ来ると思ったんだけどなー。」
そりゃそうだ、200円だとしても、知りもしない意味わからないやつに送るわけない。
…じれったい…猫作戦か、検索してみるか。
あった、こいつか。面白い話聞かせてもらったし、初回だけサービスにしてやるか。
今日だけだぞ!
「あ!来た!来たー!すげえ、ほら!ほら!」
「やばっ!天才じゃん、マジかー」
おおはしゃぎする二人を見ながら僕は伝票を持ってレジへ行くついでに、隣のテーブルの伝票も取って二人へ言った。
「もう1回だけサービスな」
あっけにとられる二人を横目に、店を出た途端に暑さが襲ってくる。
5月だってのに、もう夏じゃねえか。