「ROCK飯」PANTAと歩く所沢グルメ街道 第1回 所沢編「山田うどん本店」〜カレーうどんとパンチ、そして真野恵里菜とシャンタル・ゴヤ〜
PANTAの病気が発覚し長期入院を強いられた2021年9月。そこからは医師の徹底した管理体制に置かれる闘病生活が始まる。つまり栄養士がついた厳しい食事制限。それまで好きな時に食べたいものを食べていたロック屋PANTA。あっという間に減量成功。3ヶ月で20キロも痩せ、体調も徐々に復活。
退院となったとはいえ体力はガタ落ちしライブ活動を始めるには「カリオストロの城」のルパンの如く「血がたらねぇ!」状態。まずは飯だ!といことで日々、PANTA、オフィシャルのTマネ、ローディーの亀さん3人でB級グルメを巡る旅が始まった。
すでにショップリストは出来上がっていた。
なぜなら入院中、PANTAは毎日YoutubeでB級グルメ動画を見まくっていたのである。
第1回 所沢編「山田うどん本店」〜カレーうどんとパンチ、そして真野恵里菜とシャンタル・ゴヤ〜
「今日は山田うどんでパンチを食べよう」
とPANTAが言った。
”パンチって何!?山田うどん!?”。
俺は東京は下町育ち。蕎麦は食べるがうどんは食習慣にはない。目を白黒させていると亀さんが言った。
「パンチは所沢のソウルフードですよ」と。
この日はPANTAの部屋の大掃除。肺を病むPANTAが荷物の多い埃だらけの部屋にいるのは良くないだろうと一気に大掃除をすることになった。日本の生けるROCKの伝説(レジェンド)PANTAの作業部屋に足を踏み入れるなど、どんな探検よりも楽しいに違いない。1969年、頭脳警察結成以来の歴史の遺物をその目で拝めるのである。初期の歌詞や音源を見つけられればお宝発見どころではないのだ…などと言う夢は部屋のドアを開けた途端に撃ち破られた。
そうだった。50年の名曲の数々には作られるまでの様々な脇役=余計な物があるのだった。楽器の山とその余計な物との格闘が始まった。(詳細はまた別章で)
余計な物を運び出し選別、段ボール箱20個ほどに詰め込むと昼は大きく回り既に14時を回っていた。ヘトヘトになった俺たちを見てPANTAは言ったのだ。
「今日は山田うどんでパンチを食べよう」と。
さて、パンチとは何か?これ40年前から山田うどんで売られている大人気メニューだそうだ。なんと年間284万食販売されているらしい。これは立派なソウルフードだ。で、何かというともつ煮込みである。
もつ煮込みがなぜパンチ!?
煮込みを食べると元気が出る、力が出るからパンチという説。40年前、煮込みに名前をつける時にパンチの効いたネーミングにしたいと考えたが浮かばなかったのでそのままパンチになった説。と、山田うどんのロゴ=やじろべえのようにどちらに傾いてもどうでもいい説である。
で、肝心の味だが実に普通の煮込み。臭みもなく、もつも柔らかく辛くも甘くもない。うどんの邪魔にならず白飯は逆に進むという逸品。なるほど、サイドメニューでつい一品追加したくなるんだなぁと思ったらなんとパンチ定食もあるのだ!パンチが主役のうどんの座を奪っている。恐るべしパンチの実力である。
PANTAが注文したのは鶏肉の和風カレーうどん。これ定番である。実はPANTAはカレーうどんが大好物。自分はざるラーメン。これつるっと美味しんですよ。亀さんは天ぷらうどん。
そんなうどんな昼食タイム、PANTAがつぶやいた。
「実は俺、山田うどんでうどんを食べていたらテレビの取材をされたんだよ」
「はぁ?いつですか?」
「この間、朝定食食べてたらテレビ局入っていてインタビューされちゃった」
「PANTAさんって気づかれなかったんですか?」
「うん。全然気づかれないで素でインアタビューされちゃった」
この模様は朝のワイドショーで放送され、PANTAに気づいた一部ファンの間で話題になった。
「ところで、話がある」
PANTAの顔が真剣になった。
「真野恵里菜はシャンタル・ゴヤなんだよ」
「はぁ???」
真野恵里菜といえばハロプロエッグ出身で今や女優のアイドル。
シャンタル・ゴヤといえばフランス・ギャルと並び称されるフレンチポップのアイドルだ。
「真野恵里菜に『乙女の祈り』っていう曲があるんだけど、これがまさにシャンタル・ゴヤなんだよ」とここでPANTAはカレーうどんの汁をグビリと飲んだ。昼ビールではない。うどん汁である。実は我々3人は酒が一滴も飲めない。PANTAはロッカーだからバーボンをグビリという面持ちだけれども下戸である。我々二人は過去の過剰飲酒が祟り体を壊し今や一滴も飲めない。見た目は凶悪に呑みそうな3人だが実は下戸である。だから我々もそれぞれの汁をグビリと飲む。一息ついたところでパンチ。いいアクセントだ。
「15歳の時に「夢見るシャンソン人形~Poupee de Cire, Poupee de Son」を唄うフランス・ギャルを知ったんだけど、その可愛さと歌の魅力に夢中になっちゃってさ(笑)。もうフレンチアイドルを中心にレコード屋を漁りまくっていたんだよ。で、その時にゴダールの映画「男性・女性」に出会ったんだ。出演しているシャンタル・ゴヤにハートをぶち抜かれちゃって。いや衝撃の出会いだったよ」
「PANTAさん、その時はおいくつですか?」
「うん、16歳かな」
16歳のPANTAとは想像がつかないけれどフレンチアイドルに夢中な高校生と思うと今とは大分イメージが違う。
「『乙女の涙~Une échape, une rose」という原題は”スカーフとバラ”という曲があるんだけどヴァカンスで出会った彼との甘く切ない出会いと別れを歌った可愛い歌なんだ。それでさ、 映画の中の印象的なシーンで、レコーディングスタジオのマイクに向かう彼女が、”いま日本でフランス・ギャルが1位で、わたしは6位らしいの”という台詞があるんだけど、これがさぁ可愛いんだよ。当時の日本でのフレンチポップの流行も的確に表していて、このシーンは強烈に脳裏に焼き付いてさ。とにかくシャンタル・ゴヤはいままでのキャピキャピしたフランス・ギャルでもなく、しっとりした大人感をふりまくシルヴィー・バルタンでもなく、上唇をとがらせた煽情的なブリジット・バルドーでもなく、無表情で長い髪を頬に絡ませるフランソワーズ・アルディとも違って、音程もリズムもダメな唄を可愛いくアンニュイな雰囲気たっぷりに唄う姿にもう虜になっちゃったんだよ」
と、ちょっとはにかみ気味に語るPANTAの横顔に16歳の高校生の面影がチラリと浮かぶ。
「で、真野恵里菜の『乙女の祈り』なんだけど、これがあの時代感をみごとに再現してくれてるんだ。まずメロディ・ラインと唄の素人臭さが世界観をしっかり踏襲していてさ、実にフレンチポップマニアの心のすみっこをくすぐる仕上がりなんだよ」
日本のアイドルの楽曲の裏に50年前のフレンチポップの影響を嗅ぎ取るとはさすがミュージシャンと言うべきか恐るべきヲタクと言うべきか…。
「しかし、真野恵里菜とシャンタル・ゴヤが結びつくってPANTAさん、さすがですね」
「真野恵里菜の製作スタッフがどれだけシャンタル・ゴヤの世界観を知っていたのかは分からないけれど、聴いたものがそう感じているならばその過程は大した問題ではないよ。自分の汚らわしい身体中の毒素を一掃してくれるような新しいアイドルの存在を期待してたんだけどなぁ」
話がすごいところまでいっている。
「Tマネに連れて行ってもらったロフトプラスワンの男の墓場(現・狼に墓場)のイベントで杉作J太郎さんと話した時に真野恵里菜のことを言ったら猛烈な反応があって(笑)。物凄い真野恵里菜愛を聞かされちゃって、あれから親しさが増したなぁ(笑)」
とここでパンチの残りに七味唐辛子をかける。ちょっと辛味が効いて温度の冷めたパンチの味わいが変わる。う〜っ、このまま白飯にかけてかき込みたいところだけど我慢我慢。
「前にさ、筋肉少女帯の内田が車に同乗した時にシャンタル・ゴヤの曲がかかったんだけど”これ誰ですか?森田童子?”って言われちゃったよ(笑)」
なるほど確かに聴きようによっては森田童子である。森田童子にもフレンチポップの影響はあったのか?パンチの残りをつまみながらふと考える。
さて、この話が基になり、PANTAとおおくぼけいによる「Promenade de Chat」 PANTA et KeiOkubo REIKA FUJISAWAのCDが制作されることになるとは露にも思はない所沢・山田うどん本店のパンチが効いたうどん食の昼だった。
【CD】「Promenade de Chat」 PANTA et KeiOkubo REIKA FUJISAWA
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