シムカ1200Sクーペ①
自分史でシムカ1200Sクーペの話をした。オレが乗ってきた車&バイクには、それぞれ数々のドラマがあるのだが、このシムカほどのドラマはそうあるまい。
とにかくこんなに惚れ込んだ車は滅多にない。
排気量1200ccであるにも関わらず、当時としては、かなりのハイパワーである82psという直列四気筒のエンジンをリアに積み、フロントにラジェターを持ってきた高性能スポーツカーである・・・と、少なくともオレはそう思いこんでいた。
ギヤ比が高いので、街乗りとかのスタート時には、どっちかというと轟音をたてながらもヨッコラショという感じの出足なのであるが、一旦走り出したら、そのハイギヤードを生かした高速ツーリングは何者にも代え難い快感をもたらしてくれたものである。
エンジンがリアに置かれているため、プラグ交換などは熱くヒートしたエンジンルームの奥まで手を突っ込み、手探りで作業せねばならないので、何度、腕を火傷したかわからない。
エンジンフードを開くと横にプラグが四つ並んでいる友人のミニクーパーなどを見ると、ただただ整備のやり易さに羨ましくなったものである。
そのシムカの最大の魅力は、何と言っても、オレを魅了して止まないそのスタイリングである。後で語る事件にも関係してくるのだが、もともと、シムカというフランスのメーカーは、イタリアのフィアットをフランス国内でライセンス生産していたメーカーで、この1200Sクーペの元になっている1000クーペなどは、どちらかというとフィアットの850クーペの流れを汲んだスタイルである。
そしてこの1200Sのボディの脇には、誇らしげにトリノ・ベルトーネというエンブレムが貼られている。
そう、このスタイリングをデザインしたのはあのベルトーネなのである。
小ぶりながら、このスタイリッシュなクーペをこよなく愛でていたのだが、二年目にして事件は起きた。
ドンッという音と共に、シフトレバーがどこへも入らなくなってしまったのだ。近くのご近所付き合いをさせてもらっているクルマ屋さんの場所を借りて、ミッションを降ろし、バラしてみたら、何とセカンドギアのシンクロリングが砕け散っており、その破片がローギアまで傷つけてしまっているではないか・・・。
これは一大事とばかり、当時、シムカを扱っていたディーラーの国際興業へ行き、ロー&セカンドギアとシンクロリングを注文出来るか?と聞いたところ、そのパーツは2種類あって、どっちかわからないので、両方注文しなければならない、そして注文してもいつ来るかはわからないし保証しかねるという返事を返されてしまった。
とにかく日本で20台しか輸入されておらず、果たしてその当時で10台走っているかどうかという車なので、そういう返事を返されても無理はないのだが、じゃちょっと考えますと答えて、その場を後にし、さぁ、どうしようかと考えたあげく、前述したようにフィアットのライセンス生産をしていたのだから、パーツは、たぶん共通のものを使っているに違いないと思い、今度はフィアットのディーラーをやっていた西武自動車に乗り込んだのであった。
そしてフィアット850の、一速と二速のギアを見せてもらったのだが、まるでうり二つのように見えて、微妙に大きさとかがズレて違うのである。
このときの落胆と言ったら、自分でもかつてないくらいくらいのものであった。
※このテキストは、かつて第一興商の音楽ファンサイト「ROOTS MUSIC」に連載されていた文章に、大幅に加筆修正したものです。