見出し画像

「キックス~Kicks」PAUL REVERE & THE RAIDERS


アニマルズ「朝日のない街」のイントロのベースのフレーズに、カッコいいと叫び声をあげたのは自分だけではなく、世界中のミュージシャンに衝撃を与えた。
ザ・バーズ、ママス&ザ・パパス、そしてレイダースのプロデューサーであるテリー・メルチャーも例外にあらず、「朝日のない街」を書いたバリー・マンとシンシア・ワイルにこんな曲を書いてくれと依頼し、出来たのがこのキックスという1966年に全米4位となった曲だ。イントロのギターのフレーズが、実に「朝日のない街」のベースのイントロをなぞっているのが微笑ましくもワイルドな曲である。
このレーダースというグループ、常に独立戦争時代のコスチュームに身を包み、ともすればコミックバンドかと思えるようなパフォーマンスでエンターテインメントに徹底したグループなのである。
音楽的内容はその辺のリズム&ブルース、ロックンロールなど足下にも及ばないほど素晴らしいもので、音楽内容、そしてリードヴォーカルをとるマーク・リンゼイの歌い方ともども、ずいぶんと影響を受けながら育ってきた自分がいる。
スタンダードで摩訶不思議な歌「ルイルイ」をはじめとして「グッドシング」「ハングリー」「グレートエアプレーンストライキ」「ステッピンアウト」などなど大好きな曲をあげたらキリがないほどだが、彼らが後期に放った大ヒット曲の邦題「嘆きのインディアン」原題はそのまま「 インディアン居留地~Indian Reservation (The Lament Of The Cherokee Reservation Indian)凄すぎる。

アメリカ開拓時代の黒歴史をそのままタイトルにして、それが全米のヒットチャートを駆け上がるなんて日本では考えられない出来事だ。もし日本だったらレコーディングも出来ないし、発表、そして放送も出来ないだろう。頭脳警察が言うのだから間違いない。
曲のなかで「チェロキーピープル」と印象的なフレーズが繰り返し叫ばれる。オクラホマに強制移動させられた1万五千人のチェロキー族のインディアンたちが過酷な移動の途中、四千人にまでなってしまった涙の道と呼ばれる死の行進。後の太平洋戦争で日本軍のアメリカ・フィリピン捕虜を歩かせた「バターン死の行進」を責められるのかと言いたいところだ。
それはともかく、そんなチェロキーピープルと叫ぶ歌をヒットさせてしまうアメリカの音楽業界、そしてそれを受け入れる国民性は改めて凄すぎる。そして先のエリック・バードンがいまインディアン居留地に住んでいると言っていた話がここでもリンクし、大好きなレイダースが、コミックバンドのようなレイダースが、こんな歌をヒットさせてしまうことにちょっと感動を覚えたのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?