リッケンバッカー360/12
PANTA&HALの頃から公私に渡り懇意にしていただいている日本IT業界の重鎮K氏にはずいぶんとお世話になっている。
その昔、大蔵省が我々の言うことを聞いてくれていれば、コンピューターの世界でアメリカの一歩も二歩も先んじられていたのにと苦言を呈していたことがいまも強く記憶に残っている。
そんな彼がある日、「今度、サンフランシスコのシンポジウムに顔を出すのですが、ちょうど楽器フェア(NAMM Show?)をやっているようなので、何か欲しいものはありますか?」と聞いてくれた。
それならばと遠慮というものを知らない自分は、即座にリッケンバッカー360/12を指定リクエストさせてもらった。
ただでさえ左利きでギターの選択など出来ない当時の日本の状況の中、まさか自分があのジョージハリスン、バーズのロジャーマッギンと同じリッケンバッカー360の12弦をリクエスト出来るなど半信半疑の夢見心地の中、何か月か忙しく活動にいそしんでいたある日のビクタースタジオに、部下に黒いケースを持たせたK氏が現れたのであった!!
この時の嬉しさは言葉に出来ない。いまなら、あっ、いまはコロナだから駄目だが、思い切り飛びついてK氏を抱きしめたい思いだった。
話を聞いてみると会場に足を踏み入れ、リッケンバッカーのブースに行き、中にいた男に、機種を指定し、これのレフティーが欲しいと言うと、
「何本欲しいんだ」
K氏が
「一本だ」
と返すと、
「一本じゃ売れない」
と一歩も譲らなかったらしい。
それはそうだ。業者同士の楽器市なんだからと話を聞いていても相手に同情してしまう状況の中、K氏が、じゃ社長を呼んでくれと強気に出ると、オレが社長だと返されたらしい。それからどういう経緯でリッケン360のレフティを手に入れたのかはわからないが、そんな苦労をかけながら、サンフランシスコから運んでくれたK氏なのだから、一生足を向けて寝られまい。
その後、ファンには悪評の「KISS」などで使わせてもらい、自分的には大満足だった360だったのだ。
「KISS」騒動後のライヴでもスタッフには他の音と混ざらないとさんざんこき下ろされ、お蔵入りになっていたリッケンバッカー。
ピーナッツバター再結成でまた陽の目を見ることとなり心から嬉しい限り。
いまは療養中であるが、再起動の折には、また思い切りエッジの効いたリッケンのサウンドをかき鳴らしたいものだ。