ランプ、タバコ、線香、蝋燭、如雨露
天井のライトは消えていて、部屋全体の様子はよくわからない。
誰かが長いこと泊まっている安ホテルのような、かすかな生活感。
足元は少しふかふかしてるから、カーペット敷きなんだと思う。
2人で向き合えるくらいの小さなテーブルの上にシェードランプ。
その暖色のあかりだけが、部屋にぼんやりひろがる。
シェードランプの脇に、使い込まれた真鍮の灰皿。
そこに茶色の紙巻きタバコが1本、糸のような煙。
タバコの形を保っている灰。
誰かが火をつけてそのままなんだろう。
足もとで、バレーボールを半分に切ったような形に束ねられた、カーキ色の線香に火がつきはじめている。
少し焦りながら、手の届くところにあった白い箱にそれを入れて蓋を閉じる。
いま使う必要はない、
誰かの物なら使わずにしておきたい、
箱に入れれば酸素が減って消えるだろう、
と思ったから。
様子が気になって、箱の蓋を開けた。
火は消えてなかった。
もわんもわん、ぼわんぼわん。
真っ白な煙が上半身を覆って、燃えつくした。
箱の底に残ったモサモサとした灰が、ジュワジュワと液体になっていく。
クリーム色の、溶けた蝋だ。
灰が蝋になっていく。
「そうそう、それってそうなるのよね」
と、横にいるRちゃんが言う。
鍾乳石のようにもりもりと、蝋は塔になっていく。
太さ15cm、高さ70cmほどの、ワインレッドの蝋燭になった。
蝋燭は、大きな如雨露になった。
その如雨露を両手に持って、石づくりの建物に囲まれた、朝もやの中庭にいる。
如雨露は蝋燭と同じワインレッドの、透明なガラス製。
でも石畳に落としても割れそうにない。
首が鶴のように長くて、まっすぐで、見た目のバランスは少し良くない。
でもきっと、水を入れたら丁度良い。
おわり