ドイツ、達磨大師、ウズラのゆで卵

念願だったドイツに留学できている、らしい。
同じ学校に通う赤髪の女性が、ペダルセンに似た自転車で学校を出る。
自転車で通えるんだから僕も自転車で通おう、と思う。
僕はまだ免許がないくせに、90年代製の紺色のBMWに乗ってるから。

学校を出て、車を取りに向かう。

街中に、寺の重厚な山門。
その右に、寺が持つコンクリート2階建ての、奥に細長い建物。
建物に入ると、Bちゃんが辺りをきょろきょろ、何やら困っている。
声を掛けると、葬式の仕方が分からないと言う。
「そこの角を右に行って、突き当りの左にある窓口で教えてもらえるよ」
と話す。

建物の地下にある駐車場にある車を取りにいく。
窓口で話しているBちゃんの後ろを通る。
Bちゃんも僕と同じようにお金に困っていて、シンプルな葬式にするだろうと思ってたけど、彼の手元にある手続き用紙にはオプションがずらりと手書きされ、総額は50万円ほどだった。
無理をしていないだろうかと心配になった。

駐車場への通路は、寺の参道側にある。
通路にひろがる陽の光はふかふか温かい。
黄、赤に色づき始めた参道の樹々の葉が、ガラスサッシ越しにきらきらしてる。

通路を少し歩くと右の壁に、マンションの管理人室にありそうな小窓がある。
ここで駐車券を見せるらしいけど、駐車券を持っていないことに気づいて、小窓の奥にいる人と目が合う。
彼は何も言わず、身振り手振りで、小窓の脇にあるドアから入ってくるよう促した。

中に入る。
さっき通路から覗いた小窓の前に、不思議な人が座っている。
臙脂色の厚手の衣を頭からかぶってる。
首から下もその衣でくるんでいて、顔だけが見える。
おでこが異常なほどに張り出している。
そのおでこの下から細い目で、じりじりと僕を見ている。
おでこと比べると鼻は豆粒くらい。
でも小鼻が横にぐいんと広がってて、空気をたくさん吸えそう。
への字口で、下あごが上を向いてる。
達磨大師としか思えない。

彼の右に、同じようないで立ちで、ハナコの岡部さんにそっくりな、頭に精気が充満してそうなお付きの人がいる。
岡部さんは、僕が左手首にしていた革のブレスレットを見て、達磨大師にひそひそと耳打ちし、僕に言う。

「それが一時的な祈願のためでなく、常日頃身に着けているものであるならば、あなたは"くじ"を引くことができる。」

答える暇もなく、達磨大師が、甲を上にして握った右手の拳を差し出した。
僕はそこから何かがこぼれそうに思えて、水をすくうようにしてその下に両手のひらをあてがう。
手が達磨大師の拳に近づくと、指や手のひらがビリビリして、思わず右手を引いた。

気づくと左手のひらに、殻の剥けたウズラのゆで卵がひとつ。
それがポコッと割れる。
そこから5~6個、ウズラのゆで卵が出てくる。
そこからさらに5~6個ずつ、ウズラのゆで卵が出てくる。
そこからさらに、出てくる。
ポコポコポコポコ、とめどない。
ポッコポコポコ、ポコポッコ。

引いた右手を戻して、増える卵を両手で受ける。
顔を近づけそれをほおばる。
おいしい!
だいすきなうずらの卵、おいしい!!
どんどん出てくる!!!
おいしい!!!
次から次へとわんさか出てくる!!!!!


おわり

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