twitterへいただいたコメントへのお返事。

鈴木大介さんへ。

はじめまして。
記事を拝見した時に、すべての登場人物に共感できるヤバい、と思ったのですが、力点を考えると、3:7で鈴木さんサイドへの共感の方が大きかったので、これははたして私の話で参考になるだろうか?と内心少し悩みました。

まともに内容に向き合ってみたところ、思いがけず長文になってしまったので、noteにまとめ直させていただきました。負担になりそうでしたら、スルーしていただいて結構です。

以下の内容は、こちらの記事を受けての、

https://twitter.com/pandemonic69/status/1264049253669732353

私のツイートにいただいたコメントへのお返事となります。


さて。
聞かれて考えてみたのですが、同じ障害名のつく当事者同士でも、他者のことは『よくわからない』部分が多いような気がします。
脳コワさんの話は、一見同じような要因により誘発される同じような現象でも、具体的になればなるほど、内実はまったく違ったりしますよね。
じゃがいも、人参、たまねぎが煮込み料理になる話をしているから、経験上カレー、違ってもせいぜい肉じゃがかシチューだろうと思っていたら、ボルシチの話だった、みたいな。

「特定食材が出揃いがちな上に、水と鍋が火にかかっているのがデフォルトなので、しばしば煮込み料理が勝手にできてしまう」みたいな共通の『脳コワさんあるある』現象がいくつも存在するわけですが、より具体的に理解しようという段階になると、人によって、調味料も追加の食材も異なり、調理工程も千差万別。
最終的に表出する現象としては煮込み料理だけど、仕上がりも味も出来上がりのタイミングも全然違うし、調理工程も案外共有できなかったりします

こういったややこしさをあえて一旦脇に置いて、『材料が勝手に揃ってどうしようもなく煮込み料理が出来てしまう現象』そのものを捉える視点は、まさに鈴木さんの本領だと思いますが、思考を整理したくてまず自分なりに言語化しました。

どう語っても、私の事例の話になるので、参考にならない可能性も高いですが、それでもよろしければ以下ご覧いただけたらと思います。


記事中からのピックアップになりますが
「衝動性の強さ」(a)
「音読することで記憶を強化する・補助する」(b)
「検索が止まらなくなる」(c)

「脈絡なく疑問が広がって収集がつかなくなる」(d)

という材料というか要因部分。非常に共感します。

結果として生じる現象
「記事の読み上げ」(A)
「言葉の洪水」(B)

これらもよくわかります。

では調理にあたる反応過程はどうなっているのか。
まず、「記憶の強化や補助のための音読習慣」(b)が、私のケースでは「認識の補助のための能動的音読行為」(b‘)に置き換わります。
早速にんじんかと思ったら途中からビーツだった、みたいな話になってきましたが続けます。

私の場合、インプットにせよアウトプットにせよ速度と量が共に、自身の処理能力に対して過剰です。ただでさえ脳コワさんは常時大量の余計な情報がバックグラウンドで動作し続けているのに、好奇心や注意や感情なりが直接反応するような刺激を受けると、情報が意識上でも大量かつ高速に走り始めて洪水になり、1人で勝手に溺れたりします

とりあえず自分に生じる読み上げ現象を整理してみたところ
(1)インプットのための読み上げ
(2)アウトプットのための読み上げ

(3)アウトプットすることによって、インプットを強化する

の3パターンがありました。

(1)インプットのための読み上げ

1-1)興味がなかったりバックグラウンドの情報量の多さによって阻害されているインプットを補助したい場合。

1-2)一度に入ってくる情報量が多く、情報の入力ペースを意識的にコントロールしないとパニックが起こりそうな場合。

いずれも、目に入った情報を処理できなくなっている状態をフォローしようとする、あるいはインプットされる情報の速度を限定的にしようとする、などの目的で読み上げが起こります。
比較的能動的な行為なので、停止も防止も可能ですが、その場合思考も停止するか、暴発します。

「記事の読み上げ」(A)は、自分の場合はここに該当します。
ワーキングメモリが常に圧迫されているのは脳コワさんに普遍的な現象ながら、私の場合は情報量の多さと速さがネックなので、それらが限定される音読は、むしろインプットを意識的に減らす手段と言えます。
あえて音読にフォーカスすることで、出入力される情報の速度と量のコントロールが可能になります。HHDが過熱しすぎて焼き切れないように、回線速度自体を意識的に落とすのと同時に、特定の情報のDLで回線の容量を使い切るようにするイメージです。

(2)アウトプットのための読み上げ

2-1)面白かったり興味があったり、強く感情が動いたりする情報に触れることによって、そのことでワーキングメモリがいっぱいになり、とにかく出力しないと他の行動や思考や認識に支障をきたす場合。

自分の場合、「言葉の洪水」(B)状態になるのは概ねこのケースでしょうか。「記事の読み上げ」(A)の側面も持ち合わせているのですが、アウトプットにフォーカスされた段階で、勝手に内容を要約したりまとめ直しながら読み上げることが多いです。
誰かに聞いてもらうことにより、(聞いてもらった情報については)出力が完了しますが、聞き流されるといまいち出力できた感じがしません。

「衝動性の強さ」(a)
「検索が止まらなくなる」(c)
「脈絡なく疑問が広がって収集がつかなくなる」(d)

の各種条件が、この『インプットした情報を声に出して説明し続ける状態』を強化することは言うまでもありません。
(d)については、スマホを使うようになって以来、他人に質問しつつ自分で調べるようになったので、(c)と(d)が繰り返される永久機関みたいなことになりがちです。
「ある程度納得するまで終われない」のも強力な要因かと思います。



(3)アウトプットすることにより、インプットするための読み上げ

3-1)勝手に走った挙句あっという間にどこかに消えて無くなってしまう思考を捕まえておきたい場合。

書き留めればいい話ですが、速度が追いつかないのでとりあえずに声に出します。
アウトプットからインプットに移行させたかと思いきや、そのまま忘れる場合もよくあります。
これは意識的にコントロールが可能なので、このケースは主旨からは外れますね。

こうして具体的に書き出してみると、インプットにしても、アウトプットにしても、大なり小なりワーキングメモリの問題と不可分なようです。

ワーキングメモリが圧迫されればされるほど不安と焦燥感は増しますし、不安や焦燥感が増せば増すほど、ワーキングメモリは圧迫されます。
逆に、安心感はワーキングメモリの余裕を生みます。
安心感も、受け止めることによって言葉の洪水が止むメカニズムの一部を担っているかもしれません。

というわけで、ご質問に最も沿った回答部分は(2)になるでしょうか

独り言の習慣化が為されていないせいか、私の場合は、ある程度無闇に話せる相手がいない環境では、2)の声に出すアウトプットは成立せず完了しません。

結果として気が済むか、気が逸れるか、ある程度疲れるまで、ずっと脳内で同じ内容に関する情報や感情の洪水が溢れ続けます。
脳内の情報量をうまくコントロールできないので、なんらかの形でアウトプットをしないとしんどい、というのは確かです。

記事を読む限り、一人で迷走して不要な情報のカットすらなかなか自力ではできない私に比べたら、理解も対処もずいぶんできているのでは…と思われます。
簡潔に記述できなかったため、ほんの一言に対するお返事が、こんなにも長大になってしまい恐縮です。



ここから先は主旨からすると完全に蛇足なので、読んでいただかずともまったく差し支えないのですが、この機会に、ご著書への感想というか思いの丈を述べさせてください。

以前より記事や本を拝読していたのですが「いつも読んでるしこれも買ってみるか」という流れで購入した『脳が壊れた』はものすごく衝撃でした。

私は、一言で言えないのが厄介ですが
「元々発達障害特性を持ちつつも自覚的にはまったく困っていなかった人」が、二次的な問題によって脳コワ度が上がり
「ある時から人生がひっくり返ったが如くものすごく困るようになった上に『もしかして発達もあるのか…?』と気づいて調べたら本当に診断がおりた人」
です。

いささかイレギュラーな経緯なので、発達障害サイドの発信も、高次機能障害サイドの発信も、一部には共感しながらも全体としてはピンとこない、という経験を繰り返してきました。
それゆえに
『そもそも脳に由来する困りごとには、けっこう共通点があるかもしれない』
という指摘はめちゃくちゃ刺さりました。

『自分と同じ状態の人』は見つからなくとも、『共通する経験を持つ人はめちゃくちゃたくさんいるかも』という認識に至ったことは、自分にとってかなり大きなターニングポイントでした。
自分の回復作業に、発達障害という要因を組み込んで考えることが不可欠だと自覚し、診断にも繋がりました。

そういうわけで、ADHDに由来するあの暴走する情緒のおかげで、脳コワさんシリーズは、全作おいおい泣きながら読ませていただきました。
『脳は回復する』に至っては、読んだいきおいと衝動のままに、全文に感想とコメントをつけた巨大な感想文を書くという異常な作業をしてしまうところでしたが、途中で力付きたおかげでことなきを得ました。
『「脳コワさん」支援ガイド』は昨今の流通事情でまだ入手できておりませんが、非常に楽しみにしております。

以上、どさくさに紛れて感想文を付記させていただきました。いつも最高の本をありがとうございます。

イエモリヒコヤ

金銭を与えると確実にえさ代になります。内訳はだいたい、本とコーヒーとおやつです。