隙間風は突然に
肌寒くなり始めた季節、突然隙間風が胸の内に入り込んできた。
すすきをざわつかせるようにこころを揺さぶる。
ゆれる、ゆれる、ゆれる。
唐突に入り込んできた隙間風はひと駆けして過ぎ去ることはなく、吹いて止まない。
鬱陶しいな、邪魔だな、僕に入って来ないでよ、自分だけの世界に唐突に侵略されるのは苦手だ、不快だ、居心地が堪らなく悪くなる。
でも、その時だけはなぜか、ずっと止まないでほしいな、そう思えた。
彩色鮮やかな太陽に照らされて、時に穏やかに時に激しく吹き晒すその風は、あっという間に僕を席巻した。
何をしていても胸に住み着いた風を眺めていると、僕自身も穏やかになったり、たまにうるさいな、なんて思ったりもして、その風を眺めることで色んな気持ちになれることを知ったのだ。
突然入り込んできて、未だびゅうびゅうと吹いているその隙間風はいつの間にか、僕の中で大きくなって萎む気配が全くない。
困ったことになった。僕の気持ちなんて関係なく吹き荒れ続けるこの隙間風をどうしたらいいのか。
だけれど、この隙間風を胸の内に留め続けているのもまた、僕自身なのだ。僕の気持ちなんて関係なく吹き続けるその風を、追い出さずじっと眺めている今の僕が、正にその証左だ。
だからきっと僕は、ずっとこのまま居てくれるなら何もせず甘んじて受け入れ続けるだろう。
そう思えるくらいある日突然、僕に入り込んできた隙間風は、今ではとても愛おしく思えるようになった。
ずっと僕を揺さぶり続けるその風は、いつまで居てくれるのだろう。
ある日突然入り込んできたように、ある日突然消えてしまったりするのだろうか。
そう考えたら、なんだか寂しい。
果てしなく深い鉢底にこころがすり潰されて落ちていくような、そんな気持ちになる。
しかし、そんな僕をお構いなしに四六時中吹き荒れる隙間風は、僕のこころを揺さぶり続けるのだろう。
美しく、儚く、切ないこの風音が止む日が訪れなければ、このまま僕の中にずっと居てくれたら、眺め続けられれば、こんなにしあわせなことはない。
だから、せめて今だけはじっと風音に耳を澄ませていよう。
ある日突然吹き止んでいなくなってしまっても、また思い出せるように。
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