【自己紹介 ひとりじゃないのよ、涙は】
1995年に19歳の私は、34歳の夫と出逢い、 2005年に結婚。
2015年に夫は肺癌にて亡くなる。私は看取り、専ら未亡人で精神科医だ。
これが対外的な可視化でき私の輪郭を規定するプロフィール。
それでもって、下記のような雑談と雑念を書き散らかした断片を、我がFacebook記事からサルベージしてみるのが、暫定的もくろみである。
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・・・2019年12月某日
【生とエロスの混浴~長寿館・法師乃湯~その1挑戦までの助走編】
先週末に群馬県でSST学術集会があり、ついでに代休を利用して、足を延ばして温泉宿「長寿館」に出向いた。玉城乃湯(露天風呂と内湯)、長寿乃湯(足下湧出の内湯)、法師乃湯(混浴)と3ヶ所の温泉があり、中でも法師乃湯は純度100%の源泉が、下に敷き詰めた玉石の間から湧出し、4つの浴槽は38~41度と異なる湯温をたたえている。
以前から足下から湧出する温泉に憧れてきたが、かつ、しかもタオルを浴槽につけてはならぬというハードル高めな混浴だ。なんだか、楽しみであるよ。
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上毛高原駅で降り、関越交通バスに乗り込み、猿ヶ京で町営バスに乗り換える。猿ヶ京は、温泉宿が何軒かあるが、ぶらっと入れる店はなく、タクシー会社も今は営業していないので、早く着いてもすることはないので、乗り換えをしっかりチェックしておく必要がある。送迎がないのは、町営バス存続のためらしい。
ぐんぐんと山道を進む。シンと静かな林の中に、古めかしい宿が出迎える。さあ、これから2泊する。小脇に「死とエロスの旅」壇密著を携える。
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宿に着くなり、早速温泉の時間割りを確認した。とりあえず女性の時間帯になっている玉城乃湯へ行く。こちらはシャンプーリンスボディーソープが使えて、一応シャワーがあるので、ガンガンお湯出しボタンを押しながら洗い、まずはひとっ風呂浴びる。露天風呂があるから、外気の清々しさの中、浮かぶ紅葉と戯れた。とはいえ、やはり入りたいのは、混浴・法師乃湯だ。一応、20~22時は女性のみの専用となるとはいえ、待てないやん。
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入り口の脱衣所は男女に別れているものの、中はひとつだ。女性脱衣所のカゴ達は、空っぽで誰もいない。まあ、そうだろうな、おっちゃん達ばっかりだろうよ、まあとっとと素っ裸になって、小さいタオルだけ持って、それなりに意を決してガラッと扉を開けた。その2に続く。
【生とエロスの混浴~長寿館・法師乃湯~その2開帳編】
さて、ガラッと開けた法師乃湯は、なかなかに広く薄暗く、桶(オケ)のあるゾーンは、四つある浴槽の田圃状の真ん中に位置する。えーっ、そこまで遠いよ。だがしかしまあ、がんがん歩み進んで、ざっくりと桶を取り、ざばっと湯をかけて、空(す)いていた女性脱衣所からみて手前の浴槽に入る。ぐるっと見渡すとおっちゃんとおじいちゃんばかりで、それぞれ定点に浸かってフワーッと吐息をついている。ここは洗い場は無いに等しいので、基本的に湯に入っているしかない。
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たまたま入ったのは、手前の熱湯(あつゆ、とはいえ41度)で、お尻の下からポコポコと泡と共に湯が出てくる。うわー気持ちよいなあ。男性達は思い思いに静かに湯に沈んでいる。にしても、女性は私だけだし、なのにざわめかれもせず、ちょっと寂しいなあ。
温泉自体はとても良いので(少し硫酸塩系なので、のちに温泉皮膚炎症状は出たが)、わざわざ混浴に女性目当てで来るわけでなく、ピュアに温泉好き達が多いのだろうが、やはりラッキー女体も求めているだろうよ。なのに、シラーッとしておる。
これが関西ならば、おっちゃん達の間で、じゃんじゃん会話がなされていそうだが、皆シーンとひたすら浸かっている(いわゆるワニと称されるがごとくだ)。ムッツリ感が半端ない。
また、恐らく関西ならば、混浴場に、どやさどやさとおばちゃんやおばあちゃん達が入ってきて、見たやろ~ほな一千万円!とか言いそうだが、とか、逆に品定めをしはじめて男性陣に圧をかけそうだが、そんなことのない関東の山間部である。その3に続く。
【生とエロスの混浴~長寿館・法師乃湯~その3こだわり編】
さて、混浴にしばし浸かっていると、基本的には皆さんジェントルマンで、こちらを見ないかのごとく振る舞う。
でも若干一名、ものすごく見てくる視線があり、それをとてもこちら側はキャッチする。風呂に浸からず、淵に座り、じーっと見てくる。うむむ、まあ見てもらってハッピーラッキーな気分になってもらうのは良いが、粘着感があり困る。そのおっちゃんは、その後も、熟年夫婦やカップルで来られた若い女性にも、ねちっこく視線を飛ばしていたので、やはり見方にも作法があるよと思ったのだった。
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まあ日帰りタイムのことだから、そのあとは、かのおっちゃんは夜間は居なくなったので、気持ち悪さは薄れ良かったけれども、なんとなく気の毒になってしまった。たぶん、他の常連客からしても、そんな風に振るまわれると、さりげなく下心を同居させつつ入る心地よさを奪われがちで嫌がられるのじゃないのかなあ、などとその人の有り様が可愛そうになった。ま、この良い湯の中で、のびのびと私は手足を伸ばしたいだけなのだけれども。
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夕飯までに合計3時間風呂で楽しみ、さて次はご飯だ。食事処は他のお客さんとは顔を直接合わさなくても良いように工夫されている。箸袋にはちょいと艶かしい歌が記されている。
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「法師の宿」作詩・星野哲朗
(二番目)
雨が止みました、いい月ですよ
みて下さいと、窓をあける女(ひと)
湯上がりなのか、黒髪の
甘い香りに、ふりむけば
一輪のカトレアが
夜風に白く、咲いていたよ
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ロマンチックな男の夢は、だいたい多くは振られてしまうだろうよ。だけどなんだか解らなくもなく、わかるでもなく。というか、妻からしたらば、そこはきっちり言語化しろや、と思う。亡き夫ぽんは、態度として私に対して、かそけき愛を常に足下から湧出するごたる流していたものだ。それで、それが大好きだったしなあ。
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以下は、あまり食事に関しては期待していなかったが、想定外でたいそう美味しかった夕飯。
先付・菊花胡麻和え、しめじ、ムカゴバター
吸い物・茸汁、つみれ、三つ葉
造り・ギンヒカリ、トロ湯葉、岩魚昆布締め
煮物・高野豆腐、蕗、にしん
鍋物・赤城鶏、豆腐、春菊、長葱、白菜、白舞茸、おっ切り込み
焼物・岩魚塩焼、はじかみ
酢の物・木耳煮こごり、雪割茸五色巻、雪輪大根
揚げ物・ナマズ、蓮根はさみ、獅子唐
ご飯・南魚沼産コシヒカリなどを佳き日本酒と共に。
その4に続く。
【生とエロスの混浴~長寿館・法師乃湯~その4戦略編】
食後は(20~22時)女性タイムなので、法師乃湯に、老いも若きも女性達が入ってくる。暗い明かりのなか、さまざまにくつろぐ。ところが、きゃあ、あちらからこちらをおじいちゃんが覗いているわ!窓を閉めましょう、と向かいの部屋に牽制をかけるおばちゃん達が動く。
私はここぞとばかりに、お湯の表面を見つめ、湧出の溢れる泡のあたりを探る。そして、3ヶ所ばかりピックアップして、マイポジションを定める。
それから、後から来た女性陣に、こちらはぬるいですが、あちらはぬくたいですよ、と温泉について案内してもいる。ここはそれ、泡が出ているとこが狙い目ですよ、とか。最終的にはベストスポットを、お祖母ちゃん、お母さん、娘の三世代で来ていた家族に譲ることにした。ねえ、いい湯だなあ。
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私が試したかったのは女性タイムが終わったあと、さらに私が、混浴ど真ん中湧出ポイントに、この白っぽい体の私がいたらば、男性陣はどこにどう布陣を敷くのかを見定めたかったのだったが、たいそう眠くなり、風呂から上がることにした。
布団に倒れ込み、ぼんやりとテレビをみながら、やたらきつい暖房にさらされながら朝を迎えることにする。私の部屋は浴場の唯一間近だから、出入りの有無は簡単に把握できるのだ。ああ、早朝に潜ろう。
その5やら6に続く。
【生とエロスの混浴~長寿館・法師乃湯~その5つくづく編】
で、びっくりしたのは、翌日もひがな一日ひたすら混浴にいたのだけれど、女性が来ない!夜に高齢(80歳くらい)の女性の方が覗いて、え、やだ?男性もおられるの?!と去って行ったのであった。結構私よりも年上の女性が何人か同士で宿泊しに来ているが、結局女子会で来るには、やっぱり混浴は厳しい。ああ、単独だと気にならないけれど、男性サイドの品位のある心意気は必要かもしれない(いや、無くていいから、ちょいとは色めき立てや)。むむ、それから意外と皆、股間を隠して来るのだな。
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私は身体が白いので、ぱっと見で、女性とわかってしまうが、おっぱいも足も尻もどうぞどうぞ(見たかったらな)だが、なんとなく、混浴には混浴の、作法や有り様があると思う。すごく見るのはいかがなものか(せめてノンバーバルでも断りを入れるとかねえ)。あと、考えてみたけれど、やはり知り合いとは行きたくないわ~(恥ずかしや~まんじゅう怖い~)。
うっかり熟年夫婦の旦那さん側と、がっつり目が合ったけれども、気まずそうながら、ちゃんと我が乳やらみている感じとかなあ。まあ、それは反射的本能感で実に良いのですが(こちとら、視覚レベルで男性の肉体への反応は薄いのだよ、だってミケランジェロをずっと見ていたいわけないしな、詳しくはウェブへ?)。
混浴とは、命を永らえ、なにがしかのエロスのエキスを求めてくるのかも知れぬ。以前にうかがった秋田の玉川温泉では、放射線で悪性腫瘍に対して、命懸けで浸かり浴びに来ていた「死と再生の湯治」であったが、今回は「生とエロスの混浴」であったなあ。二日目の夕飯は、また異なるものが供され、朝御飯も趣向が違い、宿の気配りが細かくてたいそう良かった、終わり、終わるのか?、とっぴんぱらりのぷう。気が向いたら、その6蛇足。別注でソーセージの話とか。
【生とエロスの混浴〜長寿館・法師乃湯〜その6蛇足編】
今回泊まった部屋は本館1階の浴場に一番近いところで、入浴するためには部屋の前の廊下を必ず人々は通るので、寝静まったあと誰もいない時間帯を狙える。古い建物だから壁は薄く、天井から2階で廊下を歩く音もかなり響く。
朝3時半に目が覚めて、まったくシーンとしていたので、そのまま法師乃湯へ向かった。脱衣所前にスリッパはなく、一番乗りだ。独り占めできるなんて、なんて嬉しいことよ。揺らぎながら湧出するお湯とプクプクと上ってくる泡に身を委ねる。頭を浴槽の淵に置いて、渡されている丸太に足を載せたり、存分に浸かり気持ち良い。
途中うとうとして、朝5時くらいに次の客が入ってきた。ここまで来ると、混浴も平気の平左(へいざ)で、結局7時まで湯船でゆらゆら過ごして朝御飯にゆく。朝御飯も美味しかった。そして、また入りにゆく。寝ては入り、ご飯を食べては、また風呂へを繰り返し、もはやジャンキーのように湯に惹かれている。
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二日目の夕飯は別注で、地元産ソーセージの5種盛りを頼んだら、ココット鍋の湯の中で、プカプカと5本が浮かんでいた。色合いや太さや味わいがそれぞれに異なり(ニンニク、ワインとハーブ、辛味など)、とても美味しい。パリンとした皮に歯をあて、中から肉汁がジュワと溢れ出る。にしても、この宿でのこの注文はエロいなあ、というのが中学生レベル妄想の私の感想だ。はい、これがこの旅マックスの我が下ネタである。クラフトビールで欲が進む。カジカ酒も良い。ただ酔い、漂う。お湯に漂い、それからまた、ただ酔う。善きかなよきかな。
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限定日本酒も各種あり、宿の売店で大人買いする。ちなみにカードは使えないので、要注意。宿泊費はカード払い可能だった。水も旨いし空気もキレイだ。身体の中が一回転代謝した感じがする。
「草まくら 手枕に似じ 借らざらん 山のいでゆの 丸太のまくら」与謝野晶子
官能的な歌を詠む彼女の句をなぞりつつ、私はエロスを後にした。さようなら、今度逢う日は、もっともっとと。
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