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【卵が高いとタコが鳴く】

物価高の影響は飲食店を直撃するなあ。ふわっと、明石焼を食べに行ったことを思い出す。卵と出汁と浮粉と、ぷりぷりっな蛸で構成された、丸く黄色いそれらを、たぷんとろんと吸い込んで食べた、次々と。お店屋さんたち、みんな元気にしてるかなあ。ほのぼのとした街なかを、それこそ8本足のタコの手を伸ばすかのごとく、片っ端から捕食していったよ。そして、ゲットオンチュー♪

2020年2月某日
【明石焼きをぞ、食べ比べたらば】
ちゅうちゅうたこかいな、私は急に何を思いついたのか、週末は明石焼きを食べに明石に行ってきた。金曜日仕事上がりに神戸三ノ宮に向かい、サウナ付き大浴場有りのカプセルホテルに泊まる。「たばる坂」の一品料理とおでんで呑む。
翌朝は明石に移動し、一泊二日でひたすら明石焼き行脚を敢行した。私はこれまでそれほど明石焼きという食べ物に興味がなく、人生で5回程しか食べたことがない。なんとなくそれなりに美味しい気はするけど、まあ積極的に食べたくなるものではなかった。明石焼きと、たこ焼きがあれば、きっと、たこ焼きの方に手がのびるだろう。でも、讃岐うどん同様地元に行かないと本質が見えて来ないわからない魅力があるに違いない。そう思い立ったのだった。
どうやら明石焼きは地元では玉子焼きと呼ばれているようだ。銅板の型で焼かれ、1人前15か20個がデフォルトらしい。出汁には、熱い店と冷たい店があり、薬味を何も入れない場合から、葱または三つ葉が入れられる場合がある。さらに好みで、お好み焼きソースをつけて、出汁にダイブして食べたりする。という前知識を持ってのぞむ。梯子しようと思うのだが、半分を持ち帰れるかなあ、と画策する。結果、基本的には残した分の持ち帰りが出来て、しかも出汁をつけてもらえた。クーラーボックスを用意していたから、次々入れて行く。

「ふなまち」(20個・薬味無し・冷たい出汁・甘辛お好み焼きソース)クリーミーで硬い茶碗蒸しの均質さがあり、私史上明石焼き初な旨さ。いの一番に訪れたが、ナンバーワンだ。飛び抜けて佳し。ソース塗ってからの出汁ダイブもグッドだ。
「きむらや」(20個・葱・熱い出汁・お好み焼きソース)おでんがあり、タコと牛スジがでかい。油のまわりかたと、ふわとろ感のバランスが悪くない。
「今中」(15個・三つ葉・熱い・お好み焼きソース)昆布出汁がしっかりたなびき、薄く酸味があり独特で、一玉を持てないほどの柔らかさがある。出汁につけると、するするとほどけるので、ひっくり返して熱を逃がしてから食べる。卵の味や匂いがハッキリしている。
「松竹」(15個・三つ葉入れ放題・熱い・お好み焼きソース)こんがりと焼けたジャンクさはピカイチで、引きが強い。癖になる感じ。
「よふけ」(20個・無し・熱い・お好み焼きソース)寿司屋と同居したディープなお店で、玉子焼きが美味しいだけでなく、追加で頼んだスジ入りそばめし絶品。てゆか、そばめしもきちんと食べ比べんといかんな、と襟を正すほどに美味。テレビを眺めながら、長居したくなる。漬物も古漬けで美味しかった。
「よし川」(10個・持ち帰り)標準的で、冷めても悪くない。というか、店頭で冷ましたものをテイクアウト出来るので、蒸れて味が下がらない。
「よこ井」(10個・持ち帰りは出汁無し)おばちゃんが無愛想だけど、職人的でこだわり有り。焼いてるときには胡麻油のにおいが強かったが、食べるときには気にならず。出汁はつかないが、確かに冷めても味が強く気持ち良い。ちなみにとなりの酒屋がかなりマニアックで好みだ。酒瓶を眺めながら、焼けるのを待つ。食後に地酒を1ダースほど買い込む。
「いづも」(15個・薬味無し・熱い出汁・さらさらソース)お腹一杯だったけれど、食べ進められる勢いがある。ソースがゲルではなく液状でそれはそれでアリかなと。
まあ、そんな感じでとっかえひっかえ明石焼きを堪能したが、夢中になるという体験を久々に味わった。ちなみに「菊水鮓西店」で寿司も堪能した(からのバーもな)。

順位をつけるならば、ふなまち、よふけ、よこ井かなあ。私は職人技の先端部か、妖しさが隣り合わせな店が常に好みなのだ。食べ物に関して経験値が積まれるがままに、予定調和に飽きた予想やら、わかってますよ感が増えて、新鮮な驚きが無くなる。だけど、明石焼きを思い立って良かった。私の生きている世界はまだまだ広い。知らないことを知るために、私は。それなりに生きていく。ドン底なんて知りたくないし、もはや戦争とか滅亡にも会いたくない。だけど、誰がなんと言おうとも、私の世界を私は生きたい。そんな願いがとてものんきで幸せであろうよ。

少し遡り。
2019年6月某日
【ちゅーちゅーたこかいな】
語源は数え唄で、双六用語の「ちゅう(重二・ちゅうじ)=2のゾロ目=」4×2「ちゅうちゅう」=8(蛸の足の数)らしい。イカやタコは、私自身は積極的にはさほど食べないが、亡き夫ぽんがいた頃は、よく食卓にのぼらせた。とくにイカは好物だったからねえ。相方がいなくなると、食生活の偏りの好き勝手さは暴走するなあ。

でも私も幼少時には、やたらと蛸の吸盤が好みだったようで、幼稚園児の私が手足口病(エンテロウイルスやコクサッキーウイルスの感染で口の周りや手足の先に水ぶくれの発疹ができる)に罹患した際に、口の中が痛すぎて、何も食べられなくて、えんえん泣いていたら、何か食べたいものがあったら買ってきてあげるよ、と祖母にたずねられ、「タコ!」と言ったらしい(そんな幸福な記憶は残っておらずとも、口伝されている)。
結局痛くて、茹で蛸を食べられなかったが、食い意地がはった私は、吸盤だけ足から外して、ちゅうちゅうと吸っていたらしい。ああ、目の前の欲望に逆らえないのは、今と寸分たがわず変わらない。

てことで久々に、買ってきてタコ焼きを食べたが、カリッとした芳ばしい外側から歯が刺さり、ぷるんじゅわっと揺れる生地の中のタコ部分にコリッと当たると、やはり嬉しそうにちまちまと転がしながら味わってしまう。なんだか、タウリンを欲しておるのか。当直明けの我が身に沁みる。ふーっ、よくわからんが、しんどいわあ。たまには疲れをこころゆくまで自覚して、ぐだぐだしながら、もてなそう。人間社会でも頑張って軟体動物的に生存しているが、ふと我が巣の中ではさらに形が崩れる。

ちゅーちゅーたこかいな、それで、ちゃんと数えられるかな?私は、あなたとの間にあった年月を、それからのその後を、そろそろカウントできなくなっている。でも、やっぱり、この後はこれっきり数えたくない。あなたの遺影に、ねえ、片手間のチュウを。


・・・やっぱり、明石焼きより、たこ焼きが好きな結論にみえるが、そう単純じゃ無いんだ。

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