「おうちでパンダ音楽祭」のつくりかた〜配信フェスをリアルな感触のものにする方法〜
パンダ音楽祭初のオンライン開催(無観客有料配信)となった「おうちでパンダ音楽祭」。1100人を超える方々が視聴し、「配信だけどほんとのフェスみたいに楽しかった」「誰も想像できないほどにパンダ音楽祭らしかった」「この形もあり」と高評価をいただきました。手探りの中、結果的に自分でも納得のいく配信フェスになったと思います。
今回僕が目指したのは2つ。リアルなフェスの楽しさをいかに配信で再現するかということと、配信ならではのフェスのあり方・可能性を追求するということ。リアルなフェスと配信フェスは別物です。リアルにはリアルの魅力があり、配信で同じことを目指しても叶わない。一方で配信には配信にしかできないことがあります。いずれにしてもいちばん大事なのは「お客さんの体験」をどうやったら最大化できるかということ。距離を超えて一体になれる。状況を忘れて没頭できる。理性を抜きに感情的になれる。そんなことを今回本気で考えました。
いま、いろんな人がいろんな制約の中でよりよいものを生み出そうとがんばっています。ライブやフェスに限らずセミナー、ワークショップ、カンファレンスといった配信イベントをやろうという人にとって少しでも参考になればと思い、「おうちでパンダ音楽祭でやったこととその意味」をここに記そうと思いました。
なぜおうちDJはツイートを紹介したのか?
なぜスナックコーナーは生まれたのか?
なぜくだらないリストバンドをおまけにつけたのか?
なぜこの終演時間だったのか?
割と長いです。
「パンダ音楽祭」を知ってますか?
そもそもパンダ音楽祭を知らないという方もいらっしゃると思いますので簡単に説明します。パンダ音楽祭は2012年、上野公園の中にある野外音楽堂(キャパ1212席)でスタート、以来毎年5月に同じ会場で開催しています。弾き語りを中心とした爆音知らずのフェスで、ベンチシートに座って半日(13時から19時まで)まったりと楽しむことができます。大きな特徴が「飲食物持ち込み自由」で、観客は好きなお弁当やおやつ、おつまみ、お酒などを用意して、食べ飲みしながらピクニック気分で音楽に浸ります。リピーターが多いため年々チケット争奪戦が激しくなり、昨年は1時間でソールドアウトしました。ちなみになぜパンダかと言うと上野といえばパンダ、というただそれだけの理由です。
仕方なく「おうちでパンダ音楽祭」になった
今年もいつも通り上野で開催する予定だったのですが、コロナウイルスの影響で早々に会場が閉鎖になってしまいました。東京都の持ち物なので仕方ありません。ふつうに考えたら中止ですが、そう決める前に「無観客有料配信」の可能性をとことん探ってみようと思いました。無料でやるという選択肢はありませんでした。お金が取れるクオリティのものをつくりあげて、集まったお金を出演者やスタッフに分配する、それが大目的でした。僕はフェスについては素人ですが配信に関してはド素人だったので、配信のやり方、やってくれる会社、有料配信のプラットフォーム、そして会場探しとひとつひとつ勉強しなければいけません。いつでも中止になるリスクがありつつ3月、4月と準備をすすめ、最終的に開催を決定したのはゴールデンウィーク明け。開催まで2週間を切っていました。
果たして有料配信にお客さんはお金を出してくれるのだろうか?ネット配信は無料が当たり前と思われないかな。閑古鳥だったら出演者に申し訳ないな。。。ひさしぶりのドキドキを味わいました。が、最終的に約1100人の人がこのフェスに参加してくれました。ご家族やカップルで見ている方もいたので、実際に見てくれた人は2倍くらいいたんじゃないでしょうか。上野開催の時より多いかも。ホッ。
配信フェスに必要な3つの要素
さて、ここからが本題。リアルなフェスと配信フェスの違いはなんでしょうか。アーティストと観客が同じ場にいない。画面を通して見る。声援や拍手が届かない。ひとりで見る。フェス飯がない。。。書き出してみるとだいぶ違いますね。でもこれらは言わば「物理的な隔たり」の話です。配信である以上仕方がないし、お客さんも理解しています。問題はこれら「物理的な隔たり」によって「心理的な隔たり」が生まれてしまうこと。つまり、楽しくない、盛り上がれない、心に刺さらない、そんな醒めた状態になってしまう。これは主催者として絶対に避けないといけません。アーティストがどんなにいい演奏をしても、フェスの構造上の問題でお客さんが醒めてしまったら申し訳なさすぎます。僕はどうしたら物理的隔たりを越えてお客さんにのめり込んでもらえるか?を考えました。そして視聴者をとりまく3つの要素に注目しました。
1)離れた会場(アーティスト)とつながっている感覚
2)自分以外の大勢の観客といっしょに見ている感覚
3)オンライン+リアルな感覚
この3つ。方向はそれぞれ違いますが、ひとことで言うと「配信だけどこれはリアルなんだ」と感じる要素です。人はリアルなものにはリアルな感情を持ちます。オンラインだけど画面の向こうにはリアルなアーティストがいる。その向こうにはリアルな観客が大勢いる。そう感じることでリアルな感触のある配信フェスになると考えました。
視聴者につながりを感じてもらうために
1)と2)のつながり構築のために、今回Twitterをフル活用しました。観客に #おうちでパンダ音楽祭 のハッシュタグをつけてメッセージや自分の様子などをツイートしてもらうと、ステージに置かれたiPadでアーティストが読んで応えてくれたり、転換中のDJタイムで司会の藤岡みなみさんが紹介してくれる。昔のラジオ番組のような感じですね。ひとりで見てるけどひとりじゃない。アーティストともつながってるし、いまこの瞬間たくさんの人が自分と同じように体験している。そんなつながりを感じながら視聴してもらう。外出自粛でずっと家でひとりという人も多かったと思います。配信とはいえフェスに参加している時はそれを忘れてもらえたらいいなと。
このTwitterの活用は出演者の協力なしには成立しませんでしたが、拍手や声援が届かない配信でも観客の反応を感じられるということで彼らにも好評でした。
1)の出演者とのつながりについてはもうひとつ「リクエスト企画」というのをやってみました。 #おうちでパンダ音楽祭 #リクエスト の2つのハッシュタグをつけてツイートすると、アーティストが選んで1曲歌ってくれるというもの。これはリアルなフェスではなかなかできない生配信ならではの試みだと思います。自分のリクエストが選ばれたお客さんはものすごく喜んでました。
はじまるまでは見ながらちゃんとツイートしてくれるか不安だったのですが、開演と同時に出演者やイベントに対する感想、声援、メッセージ、食べてる物飲んでる物の画像、そしてリクエスト、とものすごい数が寄せられました。もう運営も追いきれないくらいのツイートの嵐。ちょいちょいTwitterのトレンド入りもしました。
これらはTwitterをやっていない人、あるいはやっていてもツイートしたくない人は参加できないのでベストな方法ではないかもしれません。パンダ音楽祭の場合はふだんからTwitterで情報発信をしたりファンと交流したりしていたので相性がよかったのですが、ほかのやり方もあるかと思います。いずれにしても観客が見るだけでなく能動的に参加できる仕組みが配信フェスには必要だと感じます(もちろんただ見るだけでも全然よくて、参加の仕方は個人の自由です。大事なのは選択肢があること)。
転換時間=醒める瞬間をいかに乗り切るか
今回の構成を考えている時、Twitterでつながりをつくったとしても観客と会場の間に距離ができてしまう時間が発生してしまうことに気がつきました。出演者と出演者の間の転換時間です。
パンダ音楽祭はステージが1つなので出演者が入れ替わりセッティングを変える等の時間がどうしても発生します。上野での開催時はいっしょにいる人とおしゃべりしたり買い出しに行ったり食べたり飲んだりと結構やることがあるので退屈しませんが、ひとりでモニターの前にいる配信の場合はそういうけにもいかない。「準備中」の画面がただ延々と映し出されたら見る方のテンションも下がってしまいます。その状態のまま次の出演者へバトンを渡すわけにはいきません。
だったら転換時間を楽しくすればいい。ということで2つ企画を考えました。ひとつは前にも書きましたが司会の藤岡みなみさんの「おうちDJコーナー」。観客のツイートを紹介したり、視聴者代表として感想を言ったり。出演者アンケート「好きなおつまみは何ですか?」の結果発表なんかもありました(ちなみに藤岡さんは数年前にある雑誌の「好きなラジオDJランキングAM部門」で第1位にもなったこともありトークはお手の物)。
そしてもうひとつの企画が「スナックコーナー」。今回の出演者・関取花さんと眉村ちあきさん扮するスナックのママが、画面越しにお客さん=視聴者の相手をするというもの。
ふたりともMCが天才的に面白いのと、たまたま配信会場(日暮里「元映画館」)にバーカウンターがあったので思いついた企画です。内容に関してはほぼおまかせ。それぞれの持ち味が発揮されて、かなり楽しい時間になりました。お客さんからは「短い!」「もっと見たい」「このスナック行きたい」という声多数。これだけで配信コンテンツになりそう。
こうして魔の転換時間を楽しい時間に変え、フェスのテンションを保ったまま次の出演者へバトンを渡すことができました。
ネットで伝えられない「五感」をどうするか
3)のオンライン+リアルな感覚の話をします。これは仮説ですが、人は五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)の種類が多い体験ほど、深くこころに刻まれる傾向があると思っています。見るだけ、聴くだけの体験よりも、いろんな五感が混じり合った体験のほうが印象深くなる。ある知人は、画面の文字を読むよりも本を読む方が記憶に残りやすいのは視覚に加えて指先で紙を触りページをめくるという触覚が伴うから(さらに紙の匂いもある)と言いました。4Dの映画なんかもそれを狙っているのかもしれません。
人はフェスでも五感をフルに使っています。ステージを見て、音を聴き、風を肌に感じ、緑や土や汗のにおいをかぎ、フェス飯やビールを味わう。これらがごちゃまぜになって記憶に深く刻まれていきます。みなさんも昔行ったフェスをにおいや風、味(フジロックのラムチョップとか)といっしょに覚えているんじゃないでしょうか。
けれど配信フェスではそうはいきません。インターネットが伝えられるのは映像と音声、つまり視覚と聴覚に訴えるものだけです。それ以外の感覚をどうやったら動かすことができるか。ここに挑戦しました。
答えから言います。伝えられないものは「現地調達する」。つまり観客自身に用意してもらいました。どういうことか。
前に書いたようにパンダ音楽祭の特徴のひとつに「食べ物飲み物持ち込み自由」があります。観客は好きなおつまみやお弁当、おやつを会場に持ち込んで、それらを味わいながら音楽を楽しみます。気合の入ったパンダのキャラ弁をつくる人。好きなおつまみを並べる人。お隣さんとおやつを交換する人。パンダ音楽祭の記憶に食=味覚・嗅覚はかならず刻まれています。配信でも、いや配信であればなおさらここは守りたいと思いました。そこで「パンダ音楽祭は(配信でも)食べ飲みしながら楽しむもの」というメッセージをTwitter公式アカウントから、司会者から、出演者から、積極的に発信しました。そういうムードをつくりました。
(↑この人すごい。お子さんがメニュー表つくってくれたみたい)
9年の蓄積のおかげか、心配せずともみなさん用意周到でした。思い思いの食べ物飲み物をしっかり準備して参加してくれたのです(この模様は最後の動画でご覧ください)。
これで「視覚・聴覚・味覚・嗅覚」4つが揃いました。
五感の残る1つは「触覚」。これも現地調達です。お客さんが手で触れるものをつくりました。この「しおり」です。
タイムテーブルのほかにTwitterのやり方、投げ銭の説明等が載っています。これを公式サイトにPDFで格納。おうちやコンビニ(ネットプリント)でプリントアウトして実物を手に参加してもらうという趣向です。
いちばん下は「リストバンド」になっています。フェスといえばリストバンド。プリントアウトして切って腕に巻けば気分が上がるんじゃないかと考えました。実用性はまったくゼロなんですが。
当日予想以上にたくさんの人がつけてくれました!こんなアホなことに乗っかってくれるみんなサイコー!Twitterに投稿された画像を見ながら、ちょっと感動しました。
オンラインでも視聴者のまわりはリアルな世界
リアルな感触のためにやったことの最後のひとつは「上野で開催したときと同じ終演時刻にすること」。パンダ音楽祭は毎回13時半に開演します。日差しが強い昼からだんだんと夕方に向かい、やがて風がそよそよ吹いてくる。トリ前の奇妙礼太郎さんで夕暮れになり、大トリの曽我部恵一さんになるとすっかり暗く、星も見えはじめる・・・これが19時終演というクライマックスに向けての基本的な進行です。一度でも上野に来てこの流れに身を置いたことがある人ならば身体が覚えているはず。そして今回、奇妙さん、曽我部さんの時刻を上野と同じにすることでこの記憶が蘇るのではないかと考えました。たとえオンラインであったとしても視聴者のまわりはリアルな世界です。ふと画面から目を外した時に感じる日差しや空気。あ、いつの間にか暗くなってきたな。。。それらも含めたすべてが見る人の体験です。使えるものならモニターの外のものも使ってしまおうという現地調達。
ちなみにステージのスクリーンに投影される画像も時刻に合わせて地味に変化しています(青空→夕暮れ→星空)。室内だけど野外のような雰囲気を感じてもらえたらと。
まとめますと、こんな感じになります。
配信フェスも送り手と受け手がいっしょにつくるものだ
フェスやライブは観客がいっしょになってつくるもの、ということをよく耳にします。それは配信フェスでも同じだと今回学びました。お客さんが教えてくれました。インターネットはリアルには勝てません。伝えられないものがたくさんある。けれど見る人が補ってくれることで結構いいとこまでいける。うちから出られないという状況下であっても、楽しもうという気持ちがあればそこはフェス会場になる。今回お客さんがパンダ音楽祭をフェスにしてくれました。
僕が考えたいろいろな企画も乗っかってくれる観客がいなかったらすべて無意味でした。おうちから参加してくれたすべての人にあらためて感謝したいと思います。みんな自分で楽しむ天才だなー。
これから先どうしていこうか
見る人の立場になってみると、Twitterもいいんですけどやっぱり拍手や声援といったフィジカルな反応を伝えたいんじゃないかと思います。いまは音声認識の精度もかなり上がってますし、声援を分析してそれをフェス会場(それぞれのおうち)や出演者にフィードバックする仕組みとかできたらいいですね。それが技術的に少々ハードルが高いとしたら、たとえば2つのボタンをめっちゃ連打すると拍手になるとか(ハイパーオリンピックみたいな。わかります?)。ボタンひとつでいいね!とかって軽すぎる。やはりフィジカルなことにしか得られないものをオンラインでも大事にしていきたいです(それにしても拍手ってめちゃくちゃよくできてる表現手法だなと今回思いました)。
今回、配信ということに関して「地方に住んでてふだんなかなかライブに行けないのでうれしい」「身体の具合が悪くて家から出られないのでありがたい」という声をいただきました。思えばコロナの前から動けない人、コロナが収束しても動けない人は、たくさんいます。仕方なく考えた配信でしたが、そういう人たちのためにも「リアルかオンラインか」ではなく「リアルもオンラインも」というのが当たり前の世界になるといいなと思いました。
お読みいただきありがとうございました。ここまで読んだ人は何かしらフェスまたはオンラインに興味関心のある人だと思います。もしあなたが自分でも何かしらやってみようと考えていて、でも悩んでいたり困っていたりして、パンダの意見でも聞いてみようかなと思ったらご連絡ください。大したことは言えませんがもしお役に立てば。こんな時代ですのでみんなで力を合わせて乗り越えていきましょう。
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