パンダ音楽祭のつくり方(2)「はじめに言葉ありき」
なぜフェスをやろうと思ったかについてはきわめて個人的な動機なので割愛しますが、かいつまんで言えば「自分にしては珍しく何かやりたいと思った」そして「その衝動を大事にしたい年頃だった」。2012年の梅雨時。僕はあと数ヶ月で40歳でした。同年代の方ならこの心情わかっていただけるでしょうか。
衝動的にはじまったフェス計画ですが、趣味のライブハウス通いをしている中で、ぼんやりしてはいるけれどこういうのがいいな、というイメージはありました。それは、
・疲れない ・音でかすぎない ・安い ・おもろい ・自由
疲れたおっさんの考えそうなフェスです。でもせっかくなのでこのイメージは大事にしてあげようと思いました。若い頃とちがって自分が大事にしないと誰も大事にしてくれません。
そして、このぼんやりイメージがぼんやりと消えてしまわないよう、その中心にひとつの言葉を置こうと思いました。コンセプトというやつです。コンセプトは憲法のようなもので、これからいろいろ物事を決めていく中で、これに合ってるかどうかいちいち照らし合わせていく大事なものです。いいアイデアが浮かんだとしてもコンセプトに合ってなければ却下、です。
その言葉は僕たちからは発信したことはないのですが、いまではこのフェスを象徴する言葉としてツイッターやネット記事でしばしば目にするようになりました。
「ゆるい」
です。このたった3文字を中心にフェスを組み上げていこうと考えました。フジロックやサマソニ、世の中にはいろんなフェスがあります。みんなかっこいいです。そんなかっこいいフェスがたくさんある中で、新参者のぽっと出の僕らがかっこよさで戦っても勝てるわけがありません。それにおじさんはかっこいいの疲れます。かっこいいよりゆるいがいい。もっと言うと、ゆるいのがかっこいい、そういうのが好きです。
「ゆるい」を中心に、そのまわりを「疲れない」「音でかすぎない」「安い」「おもろい」「自由」が取り囲んでいる。そんなフェスにしたいと考えました。
それを実現するには、そのための会場、出演者、演出が必要です。極上のゆるさのためにはどれも注意深く考えなければなりません。ゆるいというと適当と勘違いされそうですが、多くの人が満足できる極上のゆるさは、計算の上に成り立つものだと思います。ここまではOKというギリギリの線まで自由を尊重する。あるいはこちらの計算や「ちゃんとしてる感」をお客さんに感じさせない。そういうことが大事です。
そして、コンセプト=ゆるいを最も象徴するのが「フェスの名前」です。パンダ音楽祭。じつは当初別の候補もあったのですが「かっこよすぎる」という理由で却下しました。僕らのフェスにおいてはかっこいいというのはまったく要らない要素です。
ちなみにパンダ音楽祭という名前は長野の「りんご音楽祭」のパクリじゃないかと言われたりしましたが、その通りです(りんご音楽祭さんに白状済み)。いやパクリというとあれですがインスパイアというかオマージュというか。ホニャララ音楽祭という名前にしたかった。それで以前同じ会場(上野公園野外ステージ)で奇妙礼太郎くんがライブの合間に「おーいパンダ!聴いとるかぁ!?」と叫んだのを思い出し、そういやここはパンダから近いんだなあということで、合わせて「パンダ音楽祭」という名前にしました。
この名前には狙いがありまして、それは「ツイッターで言いたくなる」「聞くと知りたくなる」ということでした。よくお笑いとかで「単に言いたいだけやろそれ」というネタがありますが、妙な響き、いびつな言葉に人はひかれます。つい言いたくなるんです。そして誰かに突っ込まれるのを期待します。まさにパンダ音楽祭という名前はへんてこで、言いたくなる感じがしたと思います。開催発表後そしていまも時おりツイッターでは「パンダ音楽祭か」「なんやそれ?」というやり取りがあってうれしい限りです。これがもし「上野弾き語りフェス」とかだったらこうはならなかったでしょう。拡散力のあるこの名前は告知に関してずいぶんプラスになりました。
以上、パンダ音楽祭の核となる、大事でゆるい言葉の話でした。
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