3Dスキャンは一般人に流行るのか
Scaniverseが3D Gaussian Splattingに対応したこともあり、ここのところ私のタイムラインでもスキャンしたものを見かけることが増えてきた。
そんな状況で前々から色々想いが募っていたことを吐き出してみようかと思う。
私と3Dスキャン
まずはどういう人がこの記事書いているんじゃ、ってことで私と3Dスキャンの関りを書いてみたいと思う。
私の3Dスキャンの前史として、2020年夏にフォトグラメトリを学び、当時フォトグラ向けで最適と言われたα7R4を個人購入し諸々試したのが入口だったと思う。この頃は仕事の関係もあり、静岡県が公開している点群データや、Unityも触り始めているなかでiPhoneでのLiDARも触りはじめた。
研究者や技術者ではないので、ビジネスに何か役立つかな、という観点からである。
仕事として2016年から360度動画生配信などはやっていたものの、本格的にこの分野を仕事でやりはじめたのは2020年くらいからなのでキャリアとしては非常に浅い。
特殊なことをやっているので身バレをしないように書くのも一苦労ではあるが、3Dスキャンに関してはビジネスの狙いどころ(これは企業秘密なので言えない)が掴めたので、現在業務の一つとしてそこそこ成り立たせることはできている。全国への出張もこれの依頼が多い。
個人的なスキャン活動としても2022年にはclusterのワールドに旅中の部屋スキャンを置いてみたり、ちょこちょこと。
先に結論を言ってしまおう
仕事にはしているけれど研究者でも専門家でもない、という言い訳を先にしながら先に結論を言ってしまおう。
Quest3のカラーパススルーやVisionProの登場など、MR(Appleに言わせれば空間コンピューティング)時代が到来する中で3Dコンテンツ、そして3Dスキャンは確実に需要が伸びる。
ただ、個人が3Dスキャンをする時代がすぐ来るかと言われると少し疑問が残る。一言でいえばコスパ・タイパが悪すぎるし創造じゃなく作業になってしまうからである。
3Dスキャンだと定番はまず建物だが、確かに旅行中にとっても素敵な部屋に泊まったとか、家を引っ越す前の想い出に、などの場面ではわかる。
私もしょっちゅう「部屋撮り」はしている。だが、よほどのケースでない限りはあとから振り返ろうとか、メタバース化して入ろう、とまではならない。そこまでモチベ高くスキャンする人がどれだけいるだろうか。
先日買収が発表されたMatterPortが2024年シーズンにある程度開発するといっているように、スキャンデータを綺麗にクリーニングしてくれるAIなんかはすぐにでそうなので、アバターで入れたりクオリティ高いMR体験ができるようになれば個人撮影も増えるかもしれないけれど、そもそもよほどのことがなければ、今まで写真でさえ出先のホテルの部屋を撮っていなかったことにも留意しなければならない。
次によく撮るのは食事だろうか。慣れてくればiPhoneでもチャチャっと撮れるが、スキャン中にラーメンはのびるし周りからは怪訝な目で見られるし、写真一枚で終わるところ、そこまでして残すモチベは何だろうか。
自分事にするためには
ビジネスチャンスは大きい。先述のようにMRが普及していく中で3Dコンテンツはますます必要となるので、制作スキルがあれば仕事を受注できるかもしれない。コンサル的なビジネスも生まれるだろう。観光関連や考古学などの学術案件もすでに多数ある。
ただそれ以上に重要だと思うのは、部屋をスキャンされて嬉しいのは宿泊施設であり、部屋をスキャンされて嬉しいのは不動産屋であり、食事をスキャンされて嬉しいのは飲食店だという点だ。
ひとつには他人のビジネスに役立つことは無料でやらずにビジネスにしていこうよ、人様のビジネスボランティアで紹介して悦に浸ってるのはどうよ、ということもあるのだけどそれは写真などでも一緒だし、それ以上に言いたいのはみんな自分のビジネスの為に3Dスキャン使っていこうよ、である。
3Dスキャン簡単にできるのだから、ホテル従業員たちはPR用に部屋をスキャンしてサイトに載せればいいし、不動産屋はPRのほかに退去の際に経年劣化や入居者責任の不具合なのか元からあった不具合なのかわかりやすくするために、入居時には3Dスキャンをしておいてデータベース化する、などもできるかもしれない。飲食店は写真の物撮りと同じように質感や光でおいしく見せるのが難しかったり、業種によるが特に小規模な事業者にとってはチャンスなのである。
3Dスキャンに意思は反映されるか
身も蓋もない言い方をしてしまえば、個人により3Dスキャンされたものをみても「だからなんなの?」と思ってしまうコンテンツが多い。もちろん自分がもう慣れてしまったこともある。最初の方こそ、すっげー!と目を輝かせたけれど、その熱が冷めたら、だからなんなの?で終わってしまう。
それは私がXRやメタバースや関連技術に首を突っ込んでるから飽きちゃったのでは?と思うかもしれないけれど、私のようなエコーチェンバーに陥っている訳ではない一般人の方がもっと早く最初の熱が冷めるのが早いと思う。
3Dスキャンは一般人に流行るのか、という題に戻り、すぐには流行らないだろう、と私が思っているもうひとつ大きな要因は、スキャン自体はその人が「スキャンしただけ」のものであって、対象となるものをその人自身が創ったものではない、という点だ。ましてやスキャンにはコツやスキルはいるがそこに創意工夫があるわけではない。うまくスキャンできるかできないかの違いだけで、写真や映像にあるような撮り手の意思やセンスは反映されない。写真や映像は全てが撮れないからこそ、アングルや画角などにも意識無意識を問わず撮り手の意思が反映されるが、3Dスキャンに求められる意思は「何をスキャンするか」の1点なのである。
まして自分のビジネスに役立つものではなければ、やる側も見る側も冷めてしまう。例えば陶芸が趣味の人がいて、自分の作品を3Dスキャンするような場合であっても、その作品への賛辞は造られた陶芸作品に対するものであり、スキャンの良しあしに対する賛辞ではないはずである。
ライフログとしての3Dスキャン
しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、じゃあインスタグラムに無数に上がってくる食事写真には「だからなんなの?」以上の意味があるのか、ということだ。
私は結構なライフロガーで、ホームページやブログ、SNSなど形は変われど20年以上そのときどきの気持ちを残してきた。最近はアプリで席を買うことも多くなったしICカードがメインになって減ってはいるけれど、電車に乗ったら乗車記念に切符をもらい100枚以上はコレクションして今も続けている。学生時代なんかはこれに加え旅先のレシートや、海外で買ったペットボトルのラベルまでも残していた。余談だがどこかの旅先で誰かがO型にこのタイプが多いと言っていた。
生きた痕跡を残したいのかもしれないが、これらは他人から見たらどうでもいいものだ。(とはいえ、とある人のドキュメンタリーを制作する際には人となりを知るためにストーカーのごとくその人の10年分のブログを読み込むなどの経験はあるので一概に無駄とも言えない)
話を戻すと、人から見たら「だからなんなの?」でも、自分にとってはライフログだったりするわけで、そう考えれば個人の3Dスキャンだってライフログでいいわけである。(ロビン・ウィリアムズ主演の「ファイナル・カット」よろしく、振り返れない過去をなんでも記録することがよいことなのか、というまた別次元の課題は置いておいて)
まとめ
研究者、開発者、技術者などの人々は、このアプリがすごいよ!この技術がすごいよ!を喧伝するのだけど、それで集うのはギークばかりである。
ギークコミュニティ内で広がっていけばそれでいいのかもしれないけれど、ギークじゃない人たちを創り手に変えていきたいし、3Dスキャンを当たり前にするには「3Dスキャンの技術はいいよ」「こんなものが創れるよ」ということばかり言っていても仕方ない。
言ってしまえば被写体という一次創作物のある二次創作物だし、写真や絵画と違い「一部を切り抜けない」難しさはあるが、創作性を出すとしたらいかに面白いものを被写体としたか、という着眼点かな。そういうワークショップなりイベントなりはやってみたいかも。2018年ごろだったか神社の狛犬をひたすら実測してまわってた人とかもいたけれど、そんな視点は面白かった。
まとめとしては「3Dスキャンビジネス」という視点のほかに「マイビジネスに3Dスキャンを活かす」広め方が重要だし、タイトルの【3Dスキャンは一般人に流行るのか】に戻ると、ライフログとしての楽しみ方を提唱した方がいい、ということ。技術は日進月歩なのでスキャンするのも、それの楽しみ方もどんどんアプデされていくと思うし、やってみる楽しさを広める工夫は必要だなと。