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さよなら、パリピ銭湯
2024年11月26日パリピ銭湯3というDJイベントを行った。
yocchan5さん、RECOさん、音鳴つむぎさん、uMeさん、咲文でんこさん、至日レイさん、ニッケさん、こはださん(MC.Yammyさん)、霜月おはぎさん、W@さん、と各々がcluster史に残るイベントを持つ大活躍をされているプレイヤー10名に集まっていただいた。
手前味噌だがパリピ銭湯はこれまでも開催の都度多くのお客様に集まっていただいているイベントであり、客集めや数字集めが目当てであれば、これほどまでのメンバーをお声がけする必要はなかった。
人を集めたいわけじゃなく、パリピ銭湯を壊すにはこれほどの熱量が必要だったのだ。
なにより、このDJたちに最後のパリピ銭湯に立ってほしかった。一緒に夜を迎えたかった。同じ時代を戦ってきている戦友のような気持ちもどこかにあるからだ。もちろん、10人以外にも立ってほしかった人は多くいるけれど、時間にも限りがあるのでしかたない。
そう、私はパリピ銭湯を一度、壊そうと思ったのだ。
本記事はcluster民と開演する非公式 Advent Calendar 2024 12/22の記事です。前日はhkさんのChatGPT×Unityの記事でした。大変参考になります。
ちなみに私は非公式 Advent Calendar2021において、hkさんにとんでもないバトンの渡し方をしたことをここに懺悔します。
パリピ銭湯の歴史を紐解く
前史としてかかせない「幸甚亭」
歴史を紐解くうえでは、私自身やでんこさんなど多くの人が口にする『幸甚亭』は無視することができない。いつまでもその名を出していても…という思いもありつつ、パリピ銭湯には欠かせないので仕方ない。その場所がどんな場所であったかは、つい最近もこちらの記事に書かれたりして垣間見れるのだが、パリピ銭湯の歴史を語るうえで、私視点で少し書き残そうと思う。
clusterイベント史において、DJイベントという試みはあるいは他にも存在していたのかもしれないが、『幸甚亭』は時代の転換期であり先駆者だったのだと思う。だが、これほどまでに語られるのは、ただの先行者特権ということに留まらない。
あの時代のclusterの空気感がそこに濃縮されていたように思えてならないのだ。あくまで個人的な肌感覚として―と前置きを置くが、当時cluster全体的に音楽に精通している人や踊ることが好きな人はむしろ少数派で、テクノロジー黎明期ならではのエンジニアやクリエイター気質の人が多い印象だった。その、音楽が主戦場ではない人たちが音楽というものを通して輪となり、マグマのような沸々とした熱気を生み出す。それこそが私の視点からの『幸甚亭』だった。「clusterでこんな夜が味わえるなんて」がそこにあったのだ。
アフター幸甚亭時代
2021年夏が過ぎ、幸甚亭としてのイベントはなくなり、でんこ生誕祭や七種あきのさんの年越し、続く2022年の幸甚亭海底ライブ(幸甚亭の冠が付く最後のイベント)などにマインドが引き継がれ、イズムみたいなものはニッケさんや至日レイさんに流れたが、いつのまにか猫は海底に引きこもり、幸甚亭主催の謎部えむさんの活動も別の形になり、あのカオスという形容ともまた違う夜は味わえなくなっていた。ワレシラズオドルなどの単発イベントも試みられたし、その手前では2021年6月にOPEN THE WATBOXというまた新たな文脈の狂宴が始まり、いずれももちろん十二分に楽しかったのだが、「あの夜」とはまた違う気がしていた。
当然人それぞれ感じ方は違う。ただの踊り子だった私と、実際プレイしていた人との立場の違いでも見た景色は違うであろう。だが、異なる才能同士が音楽の上で踊りあう熱狂、熱狂としか言い表せられないもの。それが私にとっての「あの夜」すなわち『幸甚亭』であった。陰キャ陽キャなどと二分化することはできないわけだけど「陰キャって実はめっちゃ陽キャだよね」であり「陽キャ同士のパーティー」とはまた一線を画すわけである。
あの夜を自分に作れるのだろうか
「あの夜」をもう一度味わいたいと思った。自分でやればいいのでは?というのが、ふと、頭をよぎった。布石はあった。2021夏の盆踊りは『幸甚亭』のエッセンスを勝手に引き継ぎながらある程度の成功を収めた。まさに節度あるカオスなイベントで、空気感としてずれがなかった。そして、21年10月22年1月と2連続でお題企画大賞をとり、ワールド制作にもそれなりに自信はついていた。盆踊りの時点で「あの夜」はある程度味わえたのだけれど、それは盆踊りというリアルなイベントとの乗算であったし、真にDJイベントというものに手を出すのには躊躇いがあった。自分にそんな技術力はないし、音楽への造詣も深くないからだ。
パリピ銭湯前夜「テルマエ」
転機となったのは火星銭湯に「テルマエ」を設立したことにあった。これも不思議な縁の連続でclusterオフ会旅から色々と繋がって火星銭湯という私の原点であり代表ワールドにローマ風呂「テルマエ」をオープン。その記念に2022年5月26日お風呂に入るだけイベントを開催した。
お風呂イベントは2021年4月から不定期にやっており、本当にお風呂に入るだけの緩いイベントである。この日もただローマ風呂に静かに入るだけ…のつもりだったのだけれど、YoshiRockさん、とみ→さんたちMetaJackメンバーを中心に盛り上げてもらい、flutewaveさんやえねこさんが歌う展開になった。その姿を見て、これはここで「あの夜」がつくれるのでは?と思い至ったわけである。実際には5/26時点でスーパーパリピモードくらいは実装されていたので、あの形を創った時点でどこかでそういう意識はあったのかもしれないけれど。
アニメーション知識ゼロからの挑戦
この時点ではビームライトの制御方法すら知らなかった。BoolのONOFFくらいしか扱えていなかった。6月15日には想月亭もあり、この時期アニメーターでの演出制御をゼロから覚えた。BlendTreeはおろか、アニメーションにおけるレイヤーの使い方すらわかっておらず、えらい遠回りしていたことがこの時期分かった。1か月ほどだったかしっかり向き合うことで演出の幅を広げることができた。いまならビームライト演出であれば小一時間もかからず創れる。
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2022.6.26
かくして2022年6月26日、1回目のパリピ銭湯が幕を開けた。
時代背景的にはMETA JACKオープンマイク全盛期でもあり、
5月30日 sakaguchiさん初イベント
6月1日 ClubNOVA、Empty. Place
3日 mXizm ep.02 House Musicで音鳴つむぎさんがゲスト出演
-mXizmまだ水曜定期ではなかったし音鳴つむぎさん初clusterでもあった。
4日 W@さんのTHEWATBOXES
9日 ヒロ。さんロックの日
10日 RECOさんイベントの原点ともいえる湯源苑まーにゃさん主催TheDarkMoon
12日 おはぎさんのゆにぱ2回目
パリピ銭湯前日にはDJSHARPNELさん初イベであるランニング☆オールナイトッが開催、なお26日当日は夕方にDining Bar Andanteの毎週開催定期コンサートが最終回を迎えるという時代の変化もあった。
この春は新たな顔ぶれによる音楽イベントの芽が多く咲き、新たな時代の到来期だったようにも思う。
パリピ銭湯1回目は私がMCで入った2021-2022年越しイベントで出会った、ボイパくんのパフォーマンスで始まった。
演出と音楽とお客さんの駆け引きを楽しもうと思った4時間だった。1曲1曲、一人一人に合わせた演出だけでなく、全体の流れも創ることを心掛けた。この演出は終盤まで我慢、この人の時はこの系統多めで、壁を壊すのは最後まで温存…。
そんな中、特に印象深かったのは4番手で出演してくれた茉莉奈さんが「clusterでこんな夜が味わえるなんて思わず涙出てる」と言ってくれたコメントだった。それはまさに「clusterでこんな夜が味わえるなんて」とあの夜自分の感情と同じだったのではないかと思う。ああ、成就した。私の想いはあの夜の想いとシンクロしたのだ。
パリピ銭湯はなぜファイナルなのか
時代を戻してパリピ銭湯3。パリピ銭湯で行う主催イベントとしては、モコピ銭湯、年越しパリピ銭湯を含めると5回目である。ではなぜ3かというと、マイルールで大きな追加をしバージョンアップをしたものだけナンバリングイベントとしてカウントしていたからである。だから3と銘打った。
かくして、パリピ銭湯3ファイナルとなった。
―なぜファイナルなのか。
ネタ切れ
一番大きな理由はネタ切れである。先述の通りナンバリング=バージョンアップであるが
バージョンアップさせるネタがもうない。いや、演出アイデアなどはなにかで急に降りてきたり、日常の些細な事象との掛け算で生まれはする。しかし、あのローマ風呂という制約の中では付け加えられるネタがないと思った。3ではかろうじてVJシフトで、スクリーンを7種つけることでバージョンアップを図ったが、会場の大きさ的にもメモリ的にももう余裕がない。
そして、大きさを変更してしまったり、いままであった演出と差し替えるのも違うと感じてしまったのである。
私の音楽造詣の低さ
次に自分自身の音楽的造詣の低さがある。私はかなりおおざっぱなので音楽のジャンルがどうというより音を楽しめればいいじゃん!みたいなところがある。しかしながらそれでは限られたパフォーマンス時間のなかで物語を描いてくれるパフォーマーに対する誠意が足りていないのではないか、という気がしている。もちろんそれは考えすぎで、音楽に精通していなくても音楽イベントは主催できる。でも、例えば現実世界でスポーツの大会を主催する側がそのスポーツに精通していないことなどはありえない。主催側に入っている人たちやスポンサー企業はプロモーターとしての立場で、協議に精通していないことはあるが、そっち側の人と同種になるのがどうにも気味が悪かった。音を楽しむことが一番なのだけど、わかっていないくせに主催をしているというのは結局人集め数集め主義の主催者と同じなのではないかという葛藤があった。
cluster DJイベント全体の変容
3つ目にclusterにおけるイベント全般的な変容。DJイベントが本当に多くなった。あの日自分が見たかった「あの夜」はもう多くの人が創り体験している。その時点でもうお役御免である。
あるいはもう求めているものが違うのだとも思う。ワールドのギミックより、純粋に音だけがよければよくて、そういった意味では本当の音好きというか、興味関心のプライオリティがワールドよりも音そのものにある。
新しくclusterをはじめた人々が見たいものはエフェクトゴリゴリのEJ×DJによるイベントではないのではないか。それを証拠に巷には演出さえないDJイベントやもはやイベントでもないスペースが溢れていて、きっとそれは日常に溶け込んだDJという正しい形であるのだとも思うが、その中で自分がやりたいことはないし、自分がやっていることは化石に近くなっているのだと思う。いやむしろ、ずいぶん前からそう感じていたのだけど、気持ち的に「3」まではやりたいというのが開始時点からあったので、無理に延命をしたようなところもある。
なので、個人的には幸甚亭から続いてきたワールド演出×音楽という基盤がある文化自体がもう終わろうとしているのではないか、と思うし、今でもわずかにEJがいるDJイベントはあるけれど、実のところEJ文化自体がもう一時代前になっているのかなとも思う。
あの夜から感じていた美学がもうそこにはないのだ。
DJを含む音楽イベントはとにかく軽いワールドであればそれでよくて、演出なんぞは二の次三の次だと考える主催者やワールド作者、参加者が増えた。そんな時代の中で、パリピ銭湯は現実世界の銭湯と同じように、もう役目を果たしたのである。
音源周りの事
最後に音源周りの問題。
リアルでもDJをやっている人たちはそのあたりのフェアユースの感覚はあるし、著作権フリー音源で構成してくれていたりもする。そもそも著作権は申告罪なので第三者がとやかく言うことでもないが、現時点ではおおっぴらにできないのも事実だ。収益化を避けるためにギフト辞退なんていうのも法律上は何の効力もない。
そんなことを言うと今まで出演してくれたDJを裏切ってしまうことになると思うかもしれないけれど、そうではなくて、パリピ銭湯においては万が一何かあっても自分が負うという覚悟を持ってやっていたわけだし、DJイベントに育てられ、DJイベントが好きなので、他のDJイベントを責めてるなどと早とちりはしないでほしい。音源の直接権利者でもないんだからそんなことにピリピリしてる暇があったら自分のことをやりなさい、とも思うし。
とはいえ、熊猫土竜というのは自分が思っている以上には望む望まないにかかわらず少しだけ大きくなってしまった。けして影響力があると思ってない、偉ぶるつもりもなければ模範となるつもりもないが、ダブルスタンダードでいていい存在ではなくなったようには思う。
この辺は音源検知からのフェアユースなどAIが何とか解決してくれるような気もするので、システムが暖まるのを待つばかりである。
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これから
かくして、パリピ銭湯は終わるわけだが、だからといって私が失速するわけではない。むしろ逆だ。公式の音楽イベントが始まった時、勝手に「普通の音楽イベントは運営側がやるから、あなたは次のフェーズに行きなさい」と言われた気になった。ここでしか味わえない面白いものを創りたい。それは義務感ではなく、頭の中に溢れ出るものを誰かの笑顔に変えたい衝動。そう、次の誰かに「clusterでこんな夜が味わえるなんて」と思ってもらえるような「あの夜」を創るだけの話なのだ。
センターステージ、見せるEJ、ダンサーエリア、とパリピ銭湯で見せた幸甚亭システムは完璧なので、全ての要素を排除はできないだろうが、幸甚亭という親元からもまた離れる時期なのかなとも思う。新たな歴史、新たなスタンダードを自ら創造してみたい気持ちもあるのである。
-とはいえ、諸条件が整ったとき、時代がまだ求めてくれるのならば、いつの日かパリピ銭湯は帰ってくるかもしれない。
Memory
2022.6.26 パリピ銭湯
ボイパくん、uMe店長、くまクマー、茉莉奈、とみ→、謎部えむ、ニッケ、でんこ
2022.11.26 パリピ銭湯2
歌神神音、音鳴つむぎ、霜月おはぎ、謎部えむ、W@
2023.4.29 モコピ銭湯
とみ→、早川あおせ、uMe店長、ニッケ、でんこ、KasSis、W@、至日レイ
2023.12.31-2024.1.1 年越しパリピ銭湯
シュナ、音鳴つむぎ、よる、桃山れんか、でんこ、こはだ、Yukii、uMe店長、ニッケ
2024.11.26 パリピ銭湯3
yocchan5、RECO、音鳴つむぎ、uMe店長、咲文でんこ、至日レイ、ニッケ、こはだ、yammy、霜月おはぎ、W@
警備 HOMURA、石灰
Respect 七種あきの、幸甚亭
cluster民と開演する非公式 Advent Calendar 2024 明日はあるあるさんの記事です!