じぃちゃんのおもひで③
母方の祖父は、学は無い。しかし、やたらスペックが高かった。ちまちま小金を貯め続けてひと財産築く計画性と継続性、衛生兵時代に培った自己流の傷病治療、手習いを受けていないのに達筆、習っていないのに弾ける算盤、なぜかできる半田付け、自己流で磨いてのど自慢にまで出た八木節、その辺で拾った竿を直し、その辺に落ちていた鳥の羽で毛針を作っての渓流釣り、細い体のくせに強い喧嘩、いつからやっていたのか畑仕事、変電所で落雷食らっても生き延びた強靭な肉体…etc。
このスペックをひとりの人間が持っていた、と思うと、自分がいかに貧弱かがわかる。
器用貧乏…とも言えるのだろうか。
残念ながら、このスペックをひとりの人間が受け継ぐことは難しく、我々一族は分担して受け継ぐ形となった。
ちまちま小金…なぜか父(血縁関係なし)
傷病治療…各々
達筆…従兄弟、従姉妹、母
算盤…母、私
半田付け…ヘビの叔父、私
のど自慢…ヘビの叔父、私、妹
リユース、リデュース、リサイクル…ヘビの叔父、従兄弟
畑仕事…❌
喧嘩…各々(血の気の多い一族…)
強靭な肉体…今までに5回九死に一生をえたクギ踏み抜きの叔父
とまぁ、誰かしら何かしら受け継いでいる。一族共通で言えることは
『誰も何もじぃちゃんから教えてもらっていない(そして、誰からも習っていない)』
お金をかけずにスペックを磨く我が一族。
この『お金をかけずに』というのがミソである。
何事も『お金をかければ』否が応でも身につく…と私は思っている。そう思わせるのは、やはりケチひとすじのじぃちゃん譲りかもしれない。
友人が料理教室に通いたい、と私に相談してきたときのこと。
私「料理なんて金払って習うもんなの?生きてりゃ大概できるようになるもんでしょ?」
友人「お金払って通った方が緊張感出るじゃん!」
私「アホらし。料理本とかクッ○パッドで見りゃいいもんを。無駄な金だね。」
泣き出しそうな友人の顔を見ながら、ふとデジャヴった私。
どっかでこのやりとり聞いたような…。
思い出した!
従姉妹が習字教室に通いたい、とじぃちゃんに詰め寄っていたときのことを。
爺「あ?習字?んなもん人に習わんでも書けるようになるべ」
従姉妹「お金払って通った方が緊張して頑張れるもん!」
爺「バカか!おみー。字なんぞ、上からなぞって書けば、そのうち上手くなるべ」
従姉妹号泣。
うわ…あのときのじぃちゃんと同じこと言ってる。染み付いてんなぁ…。
でも、確かあのとき、従姉妹はとにかく習い事に憧れていて、一番月謝が安かった習字ならじぃちゃんの許可が出るだろう、というどーしようもない理由だった。正直にプレゼンしても、スポンサーの援助は受けられなかっただろう。
さて、真っ向から否定してしまった友人に意識をもどそう。この友人も底浅い考えの持ち主なので、大層な理由なんぞ無いと思っていた。
私「で?まさか彼氏から『お前の料理くそ不味い』とか言われたの?」
友人「…」
図星かい!
私「で、まさか大学生にもなって、親の金で料理教室行こうなんて考えて無いだろうね?(注 この友人は親が厳しく、バイト禁止令が出ていた)」
友人「…」
私「まさか…私と一緒に通うってことで説き伏せる気だったんじゃなかろうね?」
友人「何でそこまでわかっちゃうの?」
ほらみろ、底浅い。
私「ごめん、私、料理教室通うくらいなら、船舶免許取るわ」
友人「うわーん(泣)」
ちなみに、その後彼女は叔母の援助を受けて本当に料理教室に通い始めたが、肉じゃがの出来は相変わらず悲惨なものだ。当時の彼氏…すなわち現在の彼女の旦那曰く
「金かけても、センスは買えないっすよね」
うん、激しく同意。
きっと、じぃちゃんが従姉妹に言いたかったことかもしれない。
前言撤回。『お金をかけても』どうしようもないこともある。
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