スタートアップから大企業の経営の未来は「創業者モード(Founder Mode)」にあり?Airbnb創業者の提言
最近、「創業者モード」(Founder Mode)という言葉が注目を集めています。この概念は、Airbnbの創業者でありCEOであるブライアン・チェスキー(Brian Chesky)によって提唱されました。元々は2023年に彼が打ち出した考え方ですが、最近ではスタートアップアクセラレーターYC(Y Combinator)の創業者ポール・グレアム(Paul Graham)のブログ記事によってさらに注目が集まり、SNS上でもさまざまな議論が巻き起こっています。
では、この「創業者モード」とは具体的に何を意味するのでしょうか?そして、なぜ今、この経営スタイルが注目されているのでしょうか?この記事では、「創業者モード」の概要とその背景、さらには日本の企業や起業家がどのようにこの概念を取り入れるべきかについて考察します。
Paul Grahamのブログ記::
創業者モード(Founder Mode)とは?
「創業者モード」とは、会社の創業者が経営の第一線に立ち、積極的に日々の業務や重要な意思決定に関与する経営スタイルを指します。この考え方は、大企業における伝統的な「マネージャーモード」(管理職主導の経営スタイル)とは対照的です。
創業者モード:創業者が現場に深く関与し、細部まで把握・決定する。
マネージャーモード:プロの管理職に経営を任せ、上層部は全体の方向性を指示するのみ。
ブライアン・チェスキーは、Airbnbが急速に成長した時期に、外部から有能な管理職を雇い、彼らに大きな裁量を与えました。しかし、このアプローチは会社を危機に瀕する結果を招いたといいます。特に2020年のコロナ禍の際、会社の業績が大きく落ち込み、経営の問題が露呈しました。これを受けてチェスキーは、自ら再び日常業務に積極的に関与するようになり、このスタイルを「創業者モード」と呼ぶようになりました。
創業者モードと成功の鍵
創業者モードの一例として、チェスキーはAppleのスティーブ・ジョブズを参考にしたとされています。ジョブズもまた、重要な決定から日常業務に至るまで、会社の細部にまで目を光らせていました。このように、創業者が直接経営に関与することで、企業はより一貫したビジョンを持ち、機動的な意思決定が可能になるというメリットがあります。
「越境会議」の導入:創業者モードでは、従来のヒエラルキーを無視して、創業者が直接現場とコミュニケーションをとることが重要です。たとえば、ジョブズはAppleの最も重要な100人の社員を集め、幹部だけでなく様々な階層の社員と連携していました。
ナノマネジメント:イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグも、創業者モードの代表的な実践者です。彼らは新入社員の採用から、具体的なプロジェクトの進行まで細かく管理し、権限を下に委譲することを避けています。
マイクロマネジメント:Amazonのジェフ・ベゾスは、ウェブサイトのデザインに至るまで全てのディテールをチェックし、顧客からの苦情メールを「?」マークだけで担当部署に転送し、迅速な対応を指示するエピソードも有名です。
創業者モードの課題と限界
とはいえ、創業者モードにも課題は存在します。特に、創業者が会社を去った後、企業がそのモードに依存しすぎていると、経営の一貫性が失われる可能性があります。また、創業者が過度に関与しすぎることで、ミクロな管理が逆効果となり、現場の柔軟性が損なわれるリスクもあります。
創業者の離脱後の問題:どんなに優れた創業者でも、いずれ引退や退任の時が訪れます。その際、創業者モードに頼り切っていた企業が、安定した経営を維持するのは難しくなります。
成長と分業のバランス:会社が大きくなるにつれ、全ての業務に創業者が直接関与するのは現実的でなくなります。特に、大企業では各部署が専門性を発揮し、それぞれの管理が重要になります。
結論と今後への示唆
ブライアン・チェスキーが提唱する「創業者モード」は、伝統的な経営手法を根本から問い直し、特にスタートアップや急成長企業にとって大きなヒントを提供しています。AIや自動化が進む現在、企業の層が薄くなり、人間が介在する意思決定の重要性が変わる中で、創業者の深い関与と素早い意思決定力が、これまで以上に競争優位をもたらすでしょう。
成長企業に向けた重要ポイント
成長期にある企業にとって、「創業者モード」は特に次の3つの点で価値があります。
スピードと柔軟性
経営環境の変化に即応するためには、従来の「計画-実行-評価」のサイクルを短縮する必要があります。創業者が直接関与することで、全体の方向性を素早く調整し、必要なリソースを迅速に再配分することができます。これにより、競合他社よりも一歩先んじた動きが取れるようになります。ビジョンの共有と一貫性
企業が成長する中で、組織全体にビジョンを浸透させ、一貫した行動を取らせることが難しくなります。ここで、創業者の直接的な関与が重要になります。創業者モードでは、創業者がビジョンを現場に直接伝え、社内の一体感を高める役割を果たします。これは、特にイノベーションが必要とされる局面で、組織の方向性を正しい軌道に保つために効果的です。迅速な意思決定
現代の経営における最大の競争力は「意思決定のスピード」です。AIやデジタル化の進展により、データ駆動型の意思決定が求められる一方で、人間が介在し、瞬時にリスクを取り判断する力は依然として重要です。創業者モードでは、この「瞬発力」が大きなアドバンテージとなります。マネージャーを経由せず、創業者が自ら意思決定を行うことで、余計なプロセスを省き、状況に即応できるのです。
バランスと未来の経営スタイル
しかし、創業者モードには課題もあります。特に、企業が大きくなるにつれ、全ての業務に創業者が関与することは現実的ではなくなります。ここで必要になるのが、「戦略的な分業とマイクロマネジメントのバランス」です。MBBのコンサルタントがよく指摘するように、組織をスケールさせるには、各部門が独自の目標を持ちながらも、全体の戦略に整合する形で運営されることが求められます。
具体的には、次の2つの要素が重要です。
自律的なチームの育成
創業者モードであっても、全てをトップダウンで管理するのではなく、自律的に動けるチームを育てることが求められます。これにより、現場は迅速な対応が可能になり、創業者は本当に重要な決定にフォーカスできるようになります。つまり、創業者モードのエッセンスを保ちながら、マネージャーモードの効率性を部分的に取り入れた「ハイブリッド型の経営スタイル」が必要となるでしょう。AIとデータの活用
さらに、AIツールの進化によって、これまで人間が介在していた業務や分析のプロセスを大幅に自動化できるようになっています。創業者モードの「素早い意思決定」と「現場への深い関与」は、AIによるデータ分析と組み合わせることでさらに強力な武器となります。これにより、経営層はより正確で迅速な意思決定を行い、競争優位を獲得できるでしょう。
今後の展望
今後、多くの企業が「創業者モード」を一時的、あるいは部分的に導入しつつ、規模拡大の中で柔軟に「マネージャーモード」とのバランスを模索することになるでしょう。これは単なる一時的な流行ではなく、AI時代に適応した新しい経営モデルとして、特にスタートアップやテック企業において主流になる可能性があります。
つまり、経営層に求められるのは、短期的なパフォーマンスにフォーカスするだけでなく、常に変化し続ける環境に適応できる柔軟な経営スタイルを築くことです。そのためには、「創業者モード」による現場感覚とスピード感を活かしながらも、AIやデジタル技術を活用したデータ駆動型の意思決定を組み合わせ、企業全体が機動的に動ける仕組みを構築することが必要です。
参考動画
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