テレビ局報道志望者、立ちすくむ
午前10時に起床して、のんびりご飯を食べた今朝。夕方にある大学のゼミまでたっぷり時間があるから、就活の筆記試験対策でもしようとテキストを開いた。
問題を解き始めてから1時間と少しが経った頃。スマホを手に取ってTwitterを開く。すると、「安倍元首相 銃で撃たれる」という情報が一番上に出てきた。場所は大和西大寺駅前。すぐにナビアプリを開いて調べると、自分のマンションから40分程度で行けるらしいことが分かった。だから私は、バッグにメモ帳と財布だけを乱暴に入れて、急いでそこへ向かった。そんな事件のあった場所が、一体どんなところなのかを知ろう。ちゃんとこの目で見よう。ただ、そう思っただけだった。
事件が起こってから2時間半が過ぎた14時頃に、私は大和西大寺駅に着いた。中央改札を出ると、北出口の方に人だかりが見える。早歩きで向かったそこからは、スマホで見た景色が広がっていた。
曇天の下に何人もいる、鮮やかな青色の作業着を着た鑑識課。道路に張り巡らされた黄色いテープ。現場の中継をする報道陣。今までメディアを介してしか見たことのなかったものたちが、確かに私の眼前にはあった。
その様子を見に来る人達で辺りは溢れていて、それがすごく残酷だった。恐ろしいくらいに、皆スマホを構えていた。カシャカシャとシャッター音が四方八方から、聞こえてくる。何枚か撮ると、満足そうにその場から去っていく。
「お、ここだ」
なんて、嬉しそうに駆け寄ってくる人もいた。
「ドラマの撮影みたい」
「確かに。私犯人役やるわぁ」
と女子高生。
「あそこで俺も演説してこようかな」
「やめとけ。射殺されるて」
「いやそもそもお前なんか演説しても人集まらんやろ」
と若い男性3人組。
ここで人の命が奪われたということが、まるで嘘であるかのような会話の数々。
私は約1時間、そんな言葉やシャッター音を聞きながら、現場を見続けただけだった。いつの間にか、視界がぼやけるほどに涙は溜まっていた。
私がそこから立ち去る時も、当たり前に冷酷で無責任な「音」は鳴り響いていた。
大きなレンズを向け続ける報道陣や、小さなレンズを向ける一般人、横目で見て過ぎ去る人々、ただ己の目で見つめ続ける私。正しさが、あの現場にはあったのだろうか。誰も正しいように思えなくて、でも、間違いなのかも分からなかった。
今日知り得たことは、「自分は何も分かっていない」ということだけだ。事件現場にはこんなにも沢山の残酷さが散乱していて、それらに打ちのめされるしかなかった。私はひたすらに情けなかった。
悔しかった。