第1回架空選評句会
【はじめに】
むかし句会後のお酒の席で逆選評句会というのをやっていました。
最初に架空選評を語ってもらい、その選評に寄せた俳句をつくるというものです。そのときは面白いなぁ〜くらいだったんですが、これって2つの点で俳句のトレーニングになることに気がつきました。
① 俳句を作るための構成力
② 選評の理解力(俳句に限らず大事な能力)
今回、思いつきで募集したところたくさん俳句が集まったので自分なりに解釈をしていきたいと思います。知り合いやそうでない方の俳句もあるのですが、一旦、作品の中身だけで好きなことを書いてみようと思います(【はうじめに】を各段階では評を書いていないので辛辣になったらごめんなさい)
【このゲームのポイント】
この逆選評句会形式のこのゲーム。もしかしたら17音の長い歴史の中で「天狗俳諧」みたいな名前が付いているかもしれませんが、ここでは【架空選評俳句】と便宜的に名付けておきます。
このゲームはただ、「完成度の高い俳句」を決めるのではなく、強いていうならば、その接頭語に「選評にぴったりな」をつける必要があります。
今回のお題となる選評を見てみましょう。
【今回のお題】
白と敢えて言うことで背景の黒が強調されている。白は当たり前なので言わなくてもいいのだけれども、白を抽出することで清潔さや健康的な象徴になっている。それ以外にも大小だったりコントラストが効いている。
今回のお題で大切なのは次の通りです
①敢えて使われている白
②白と黒のとコントラストがある
③白から清潔や健康的を抽出してイメージを強化するように使っている
④コントラストは他にも大小みたいなのがある
今日は、集まった俳句の中で一番架空選評に近い作品、「架空賞:を決めていきますが、まず前提として「白」が使われていないとダメです。今回の俳句ではすべての作品に「白:が使われているので最低限のルールは汲み取っていただけたようです。次に最も重要な点は「白いものに敢えて白を使い、白から清潔や健康的を抽出してイメージを強化するように使っている」ということです。ここが選評の分かれ目になると思います。
【さっそく選評】
さっそく選評をしていきます。忌憚なく書きますが川嶋ぱんだという、ひとつの視点ですので反対意見も重々受け入れたいと思います。コメント欄にどうぞ。では架空賞以外の俳句について評をつけていきます。
爽やかや一時間目の白チョーク 岐阜大学俳句会
爽やかから閉め切った部屋ではない、風通しの良い感じがあります。1時間目の白チョークなので中学校か高校の教室のイメージでしょうか。気持ちがいい感じがします!この句では、白という言葉を敢えて使うことで際立ってくるイメージは少ないような気がします。また、「爽やか」と「チョーク」が連想ゲームとしては飛躍が少ないので、予定調和な感じがあります。うまく世界観が描けているのですが、川嶋ぱんだ的には、そこに存在し得ないモノを置き、世界をねじ曲げたくなります。
白百合の輪郭白きピアノかな ひうま
白百合の輪郭が白いということで、影のない世界を想像しました。均一にどこからも光が当たる世界で黒いグランドピアノが置かれている。まるでドラマや映画のワンシーンに出てくる世界観です。ピアノと白百合の置き場所がこの句からは判別できないので、コントラストが効いているのかどうかが判断がつきませんでした。構成としては1枚の絵に収まっていることが分かるように描けると、「読み」のなかでコントラストが意識されるかなと思いました。
夏闇の二人に白き握り飯 赤野四羽
夏の闇は明るいのでしょうか。判別できませんが、夏の闇なので深夜遅く蛾が飛んでいそうな時間帯を連想しました。暑さはマシになっているのでふたりで出かけたというのは想像がつくのですが、白い握り飯の立ち位置がイマイチつかめません。あまり清潔感という感じではないのは作者が意識してそのように描いているのかもしれませんが、手掛かりになる具体物から強調したい意図が汲み取ることができませんでした。
谷朧首をたたんで山羊の白 星野いのり
角川の歳時記的には「谷朧」という語はなかったので、谷に出る朧と解釈しました。大景でまず谷の朧を提示し、山羊が首をたたむという動作を丁寧に示し読者になにか汲み取らせようと仕向けています。そういった読みをコントロールしようとしている点で、完成度が高い気がします。架空選評と照らし合わせると、山羊の白に清潔感があるか、朧ってめちゃめちゃ暗いのかな?といった点で合致しているの微妙かなとおもいました。
潮焼を釜いつぱいの白き飯 なかやまなな
潮焼を(して)釜いっぱいの白い飯(に対峙している)と解釈しました。
潮焼で焼けた肌と白飯は生きているという実感が沸き、健康的そのものだなと思いました。お米の白が健康的というより、潮焼が健康的なイメージで、俳句の全体として架空選評の解釈に近づけていたり、要素の多い架空選評に対して要素の多い句材を使いながら合致した俳句を創造する舵取りがなされています。潮焼けと白き飯でうまくバランスが取られているのですが、「白き飯」の表現に異質感(敢えていう必要ある?感と置き換えてもいい)がないので、「白」をもう少し異質に扱えたような気もしました。
吾子悼む列眺め月蒼白む 水嶋いみず
我が子が亡くなり弔問の列に月が蒼白んでいるよという俳句。
読者の読みは吾子を悼むという思いに引き付けられるので鑑賞しやすく、蒼白む月が象徴的なできごとのようですが、お題の架空選評からは遠い印象です。
花火の間ふと笑う彼の歯白し 知念帆意
花火と花火の間に途切れる間があったと解釈しました。何かを話して彼が、はにかんだ瞬間に花火がなったらドラマのワンシーンのようです。「花火の大と歯の小」だったり「彼との距離と花火の距離」だったり遠近感も意識されています。ただ語順だったり選んでいる語だったりテニオハだったりがゴツゴツしている印象で口に出すと少し歯に何か挟まったような言いにくさがあります。世界観はバッチグーなので完成度としてまだまだ高められるような気がしました。
夏蒲団白ブリーフの蠢きぬ Sho SAKAI
夏用の布団の上にブリーフが蠢いているという光景。白と書いているので洗濯したものでしょうか。なぜ蠢いているのか(虫がブリーフの中にいる???)確定できませんが、怪しく怖い感じがするようなしないような。
白といってもブリーフだからめっちゃ清潔感があるというイメージもなくお題の架空選評からは少し離れすぎている印象があります。
蝉穴の迷路の先や白き闇 仙波美保
蝉の穴の迷路の先は白い闇だという俳句。蝉の穴という見えない物を迷路に例えたり、その中は白い闇というのは飛躍していて面白味の要素を含んでいます。ただ、白いモノを白い表現するのが今回の架空選評句会のミソで闇を白と表現するのは架空選評から逸れています。
照らしたら泣いてた白い雪兎 寺津豪佐
(ライトを)照らしたらということなので、夜なのでしょう。「泣いてた」は、溶けていたことの例えだと想像がつきます。句の様子が表現から想像しやすく、易しい言葉で描かれていて、「夜」や「溶けている」という俳句の文字上に現れない背景まで読ませるところがうまいです。白い雪兎が健康的なイメージかと言われると少し選評に合致しているとは言いにくいかもしれません。
【架空賞な一句】
今回、選評に最も近かったのは、、、
夜は蛸食んで奥歯の白くあり いぬぼし
夜は蛸を食べて奥歯には白い歯があるという句意ですね。たしかに歯を「白くあろ」と表現するのは敢えて感があるのと同時に白い歯には清潔感もあります。また奥歯の存在する口腔内には暗さがあり今回の架空選評に一番近い感じがしました。川嶋ぱんだ的には「白くあり」と最後に説明的にするのではなく「真っ白く」とやりすぎなくらい異質感を出してもいいかなと思いました。
【投句一覧2020.8.6】
爽やかや一時間目の白チョーク 岐阜大学俳句会
(https://twitter.com/gu_haiku)
白百合の輪郭白きピアノかな ひうま
(https://twitter.com/hiumahiuma)
夏闇の二人に白き握り飯 赤野四羽
(https://twitter.com/AkanoYotsuba)
谷朧首をたたんで山羊の白 星野いのり
(https://twitter.com/kT7Jrvhnsq58RhA)
潮焼を釜いつぱいの白き飯 なかやまなな
(https://twitter.com/lypFoDgermoWgDS)
夜は蛸食んで奥歯の白くあり いぬぼし
(https://twitter.com/inuboshi_seijin)
吾子悼む列眺め月蒼白む 水嶋いみず
(https://twitter.com/Imi_Mizu)
花火の間ふと笑う彼の歯白し 知念帆意
(https://twitter.com/hocazehoihoi)
夏蒲団白ブリーフの蠢きぬ Sho SAKAI
(https://twitter.com/shosakai)
蝉穴の迷路の先や白き闇 仙波美保
照らしたら泣いてた白い雪兎 寺津豪佐
【次回のお題】
本当の景色ではあり得ないけど想像はつく。登場人物は蛇と文字上には現れていないけど1人の人だけ。聴覚でなく耳に触れられるようなぞぞぞとした感覚がある。
【告知】
8月から毎日新聞社の俳句アプリ「俳句てふてふ」で芝不器男の俳句の解説を書かせていただいています!ぜひアプリをダウンロードしてください!!
そして8月からFM愛媛で松野町の魅力を芝不器男の俳句とともに迫る番組「森の国俳句ウォーク」の担当をさせていただいています。毎週木曜日午前11:40〜11:55です!
radikoから全国どこからでもご視聴できます!
https://www.joeufm.co.jp/matsuno_haiku/