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転先生 第4話

 自転車を漕ぐ足は家から最寄りのコンビニに向かう。何だか眠れない気がした僕は酒を買いに行く。すると、コンビニすぐ横の店明かりが目に入った。懐かしいな。先生になりたての頃、よく足を運んでいた文具店である。
 気づけば店に吸い寄せられる様にガラス戸に手をかけていた。店の中には懐かしい教具が並ぶ。昔はこれを見るだけで何故か心が踊っていた。しかし、今の僕にはただの古臭いガラクタに感じてしまう。漫ろに歩く僕は申し訳程度に自由帳を一冊買った。店を出て数本の酎ハイも忘れずに買った。
 家に着いた僕は酎ハイを一気に口に流し込む。アルコール混じりの溜息が出た。重たい腕をビニール袋の中へと伸ばし、酎ハイ片手に買ってきた自由帳を開く。とりあえず、そこに一学期の僕を殴り書いてみる。特に意味はない。寝付けの悪い夜の暇潰しである。
適当な時間。何だか筆を進めるうちに笑が溢れてきた。自由帳に出来た僕。それはもう我ながら酷い「先生」であった。思わずもう一本の酎ハイ缶に手が進む。

(ほろよいにしなくて良かったな)

ある程度書き終えた僕はページ片隅に千鳥腕な右手で

(クズ先生レベルMAX)

と書き足してみた。まるでクズな僕はRPGの中のキャラクターにでもなったみたいである。自嘲気味なページに僕は楽しくなってきた。ふと悪戯な考えが頭を過ぎる。

(どうせクラスの児童の事が怪物に見えるのである。だったらいっその事、モンスターとして捉えてみてはどうだろうか) 

楽しい事でも閃いたかの様に無邪気に鞄を弄る。そして、児童名簿を取り出した。僕はそこに書いてある児童の名前をあ行から順にノートに一ページずつ書き記していく。名前の横に 

(児童A   いじっぱり男 レベル五、児童B  嘘つき女 レベル五) 

と書き足す。途端に児童等は何処にでもいるNPCへと様変わりする。

「だいぶ酔ってきているな……」

しかし、手は止まらない。僕は寝る事も忘れてただひたすらに筆を進める。

(児童A   いじっぱり男 レベル五 称号 嘘つきの卵 スキル 虚言レベル一 激怒レベル一 泣き声レベル一 扇動レベル一……)

気づけば真新しかった自由帳はぼろぼろに。僕はページを一番初めのページに戻した。
ページの片隅に書かれた

(クズ先生レベルMAX)

その横に言葉を書き足す。

(クズ先生レベルMAX→転生しますか?)

勝手に伺う疑問文。酔ったその手で転生という文字に僕は太く、太く丸で囲む。
 一日の疲れがアルコールと共に体を巡る。鉛筆を床に放り投げた。そして、中身のない酎ハイ缶を口に押しつける。缶の中からは仄かな酸味が口に広がった。
窓を開けると、どうやら今日は檸檬な夜であった。

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