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ショートストーリー? 転生したら女子高生の人面瘡だった件 第17話

何事もない学校。初めての登校から1週間程が経過した。あれから永見は彼女にべたべたと関わる様になった。あの男の後ろめたい気持ちはあからさま過ぎて気持ち悪い。
しかし、それ以外は特に取り留めもない日常。
すっかり人面瘡として学校に行く事にも慣れてしまった。この前なんか、世界史の授業で僕が一番初めに答えがわかってしまった。IQ高い系人面瘡。

    キーンコーンカーンコーン

寂しげにチャイムの音が鳴り響く。梅雨の放課後には生徒達は寄り付きはしない。我先にと教室を出て行く生徒達。いつのまにかの二人だけの教室。
教室には梅雨の空気が溢れんばかりに充満していた。雨を孕んだ机は少し沈むスポンジの様な感覚を手に伝える。指先に伝う感覚に僕は静かに震える。
静かな教室。彼女は勉強をする。こんな時期に学ぶ彼女を物珍しそうに窓辺から蛙の声が聞こえてくる。

くわっくわっくわっ

彼女のシャーペンの芯が進む音に合わせ、梅雨の小さな合唱コンクールが奏でられる。
贅沢な時間。

吉田さん、起きてる?

起きてるよ

ずっと黙ってるから寂しいじゃない

勉強の邪魔なんて出来ないよ

実はこれ、ペンを動かしてるだけだよ

くすくすと悪戯に笑う彼女。
取り留めもない会話を彼女はずっと欲してたんだろう。

ね、吉田さん。ずっといてくれてもいいんだよ?

初めて女性に言われる好意の言葉。でもそれは辛い現実から出た淡い言葉。
ずっといるよと返す僕の言葉は梅雨の雨に流され、土にゆっくり沁み溶けていく。

ガラガラ

束の間の幸せに終りを告げる音。
強ばる彼女。窓辺の蛙も逃げ、残ったのは不快な雨の音だけ。

すたすたすた

少し床が軋む音。これだけで足音の持ち主の感情が伝わってくる。

ダンッ

机を叩く強い音。ついこの間聞いたばかりのこの音に僕は溜息が出た。

「ね、川口さん。どうして学校いるの?」

低くドスの効いた声。これは本当に女子高生の声かと思う。

「まだ下校時刻じゃないけど」

彼女は言葉を返す。おそらく、この女の言葉の意味は別の意味を持って発されている気がする。しかし、彼女もそれを知ってて敢えて言い返している気もする。

「は?違うだろ。なんで平気な顔して学校に登校してんのって事。頭も悪いんだね」

怒髪天を突く様な女の怒り。僕なんかよりよっぽどこの女の方が妖怪だと思う。そんな女に対し、彼女はくすりと笑う。

「ね、何で私に突っかかってくるの?もしかして嫉妬?すっごい惨めだよ」

どうやら妖怪はこの部屋に三匹いた様である。わざと作る冷たい声色。さながら雪女vs鬼女と言った所であろうか。

ぐっ

彼女の呻き声と熱い痛みが僕を伝う。そして、梅雨を切り裂く罵声の雨。どうやらこの女も永見の事が好きだったんだろう。嫉妬に支配されるのは怖いね本当。

しかし、幾らなんでも酷すぎないか?

彼女は何も抵抗しない。反抗したのは初めの一言だけ。心はずたずたのはずなのに。
何となく彼女のプライドって言うか生き様な気がした。気高いな。
でも、その気高さは彼女の気高さである。僕の気高さではない。僕の人面瘡としての生き様は彼女を泣かせない事。どんな理由がこの女にあったとしても彼女を傷つけて良い訳がない。 あの日、勝手に決めた約束の為、僕は勝手に彼女を守る。

僕は口をもぞもぞと動かす。イメージするのは小学校の頃の理科の思い出。水溶液の性質を学ぶ時間。鉄がじわじわ溶けていく様子。
感覚が大切なのだ。何となく出来る気がした。

ぺっ

包帯の隙間から女の膝めがけて酸を吐く。美しい弧を描く僕の吐瀉物。生憎な事に女の上靴に着地した。

しゅわしゅわしゅわしゅわ

少し焦げ臭い匂いが僕の鼻につんときた。
どうやら上手くいったみたいだ。それにしても思ってたよりも酸性は強かったみたい。上靴からは女の靴下が少し見えた。ビオレくらいをイメージしてたんだけどな……。
少し間を置いて、異変に気付いた女の叫び声が聞こえてきた。何が何だかわからない様子。
女の声は教室の外へと逃げていく。
呆然とする彼女。暫くの間、沈黙が続く。

ねぇ、吉田さん何かした?

僕はいいやと返事する。小さな嘘。きっとこの僕の嘘も梅雨が洗い流してくれるはず。
人面瘡は笑う。

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