ショートストーリー? 転生したら女子高生の人面瘡だった件 第13話
小気味よく揺れる通学路。揺れるものだとわかっていればいっそ清々しい気持ちよさすら感じるものだ。水溜りから漂う梅雨の匂い。聞こえてくる信号機の高い機械音。周りを歩く足の振動。どれもこれも新しい感覚ばかりである。人面瘡になっての通学路はそれなりに楽しいものだ。少し調子に乗る僕。すると、
(ガクッ)
調子に乗ればなんとやらだ。どうやらこいつ、石でも踏んだな。おかげで舌を噛んでしまった。しかし、足を挫いてないと良いが。
何処からかうっすらとチャイムの音が聞こえてきた。彼女が少し早足になる。どうやら焦っているな。
早々と学校の門をくぐる彼女。
校舎に入って向かう下足場。靴箱の独特な匂いが顔へダイレクトに襲う。思わず僕はクサッと声が出た。無理矢理、靴箱に顔を押し付けられた。
クラスに向かう彼女。
クラスの生徒達の賑わう声が疎らに聞こえる。流石は高校だな。若い声というのはそれだけで華やいでいる。若さって良いなと思う自分についつい歳を感じてしまう。
がらがらっと扉を開ける音がした。
「……」
途端の静寂。思わず僕は息を呑んだ。さっき迄の明るい賑わいはどうしてしまったのか。しかし、彼女はまるで気にも留めずにに席へと向かう。やがて静寂はヒソヒソ声に変わってゆく。
(どうやら彼女が学校で浮いているのは間違いなさそうだな)
暫くして本礼のチャイムが鳴った。勢いよく扉が開かれる。
「みんなおはよう」
明るい男の声がする。彼女の肌が少しひりつくのを感じた。僕は薄い布越しに男の顔を覗こうとする。しかし、中々にして見る事が出来ない。
出席を取る声がする。順々に名前が呼ばれていく。
「川口」
彼女の番だ。返事がない。
「……川口」
もう一度、男の気まずそうな声がする。
「はい、永見先生」
凛とした彼女の声。どうやら僕に知らせてくれた様だ。しかし、少し声は震えていた。
「お、おう」
永見の戸惑う声。そそくさと次の名前が呼ばれていく。
(あいつか。諸悪の根源は)
まさか彼女の担任だったとは。どうにか復讐してやりたい。彼女には悪いが、僕は女の涙を見ても尚、素知らぬ顔出来る様な薄情な男ではないのだ。永見の顔まではわからない。だが、その声はきっちり覚えた。
ホームルームが終わり、ゆっくりと授業が流れていく。
十数年ぶりに聞く学校の授業は思い出通り退屈であった。
(キーンコーンカーンコーン)
やっと終わった。欠伸を堪える僕。すると、休み時間になって早々に彼女へ話しかけてくる女がいた。
「ねぇ川口さん、ちょっといい?」
女の冷やかな口調に、僕はこれからの学校生活の波瀾万丈さを予感した。
とほほと小さく呟いた。
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