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ショートストーリー 転生したら女子高生の人面瘡だった件 第7話

僕はゆっくりと目を開けた。

縦長の鏡台。そこに写っていたのは一人の女であった。ピンクのダボったいパーカーを着た女が柔い脚を露出して立ち映っていた。整った顔立ちをしていた女だ。しかし、僕はその女の特徴を余り詳しく捉える事は出来なかった。鏡に映るもう一つの顔を見つけてしまったからである。
目が離せない。
その顔は、驚いていた。
のっぺりした顔立ちに、左目の下にある小さな黒子。少しぶ厚目の唇は、母だけがいつもセクシーだねと褒めてくれる唇。その驚いた顔を僕は知っている。おそらく、鏡に映るその顔も僕を知っている。

毎日見てきた僕の顔。

毎日と違う事といえば、まるで麗若い乙女の様な艶のある肌。そして、女の左脚、膝小僧にあると言う事である。気持ち悪い。それは先程まで感じていた嘔吐する様な気持ち悪さではなく、吐くことの出来ない気持ち悪さだ。現実が脳に入ってこない。遠のきそうな意識。すんでの所で女が呼び止めた。

「どう言う事ですか、これは?」

少し、僕を責め立てる様な思いが伝わる。いや、伝わり過ぎる。まるでこの女の感情が自分事の様に流れ込んでくる。それがより僕がこの女の一部になった事を本能で感じてしまう。 

「すみません……」

何に謝っているのかわからないが、気づけば口から溢れていた。思考がくぐもってくる。鏡に映る男の顔は今にも泣きそうだ。

「あなたは一体なんなんですか?」

矢継ぎ早の質問。僕が知りたい。僕は何なのか。最早、考えたくもない現実をいきなり押し付けられる。

僕は吉田健介だ。僕は吉田健介だ。僕は吉田健介だ。僕は吉田健介だ。僕は吉田健介だ。僕は吉田健介だ。僕は吉田健介だ。僕は吉田健介だ。僕は吉田、僕は吉田、僕は吉田…

僕は…僕は…頭の中で主語部分のみが反復する。
僕は今日、一番の弱弱しい声で答えた。

      「僕は人面瘡です。」

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