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線の恋病 1話

 川が流れてゆく。見下ろす水面には等間隔の人影が果てしなく続く。影の隙間から見える淡い町並み。絢爛な美しさ。手を伸ばせば波紋の中に消えてゆく。眺めるだけの町。

         

 ゆるりと佇む河原町にひらりひらりと雪が舞い散る。町を白く染める雪は石畳へゆっくりと染み溶けてゆく。仄かに白が溶けゆく町はまるで白粉を覚えたばかりな生娘の様であり、酒気帯びた色とりどりの店灯りが町を照らしてゆく。恍惚と光る町並みは頬を染めたかのようであり一層艶かしく映る。
そんな美しくも古めかしい町並みには赤や緑の装飾が所かしこに混じり合っている。冬の風情に合わせてハイカラな文化を身に纏っている訳だ。全く持って似合わない。その姿はまるでユニクロCMに出る海外モデルの服をそのままに着る勘違い女の様ないでたちだ。
町の上には鴨川通りから流れくる量産的な装飾が闊歩する。
今日という1日は、1年の中で最もこの町を世俗に貶める1日である。

僕は河原町を町角2階のラメーン屋から、曇るガラス越しに見下ろしていた。見下ろす僕の顔はさぞ不細工な顔だったであろう。肩肘を着く気怠げな顔は今日という日には不恰好である。周りから聞こえてくる野太い注文の声とらーめんを啜る咀嚼音だけが僕にとってのクリスマスソングであった。
 らーめんを啜りながら、僕は町行く男女を探しては服装や顔の不出来を批評していく。批評していく男女の中には明らかに男女で不釣り合いなカップルも混じっていた。およその事、風俗嬢と鼻の下を伸ばしきった中年との金銭絡みでの関係なのであろう。きっとそうなのだからそう楽しそうに歩き行かないでほしい。
 こんな風に勝手に男女を批評している事は何の意味も持たない事である。しかし、1人でらーめんを食べながら出来る事等こんな事しかない。冬の冷たさに震える体を汁の熱気で温めながら、僕はふと物思いに耽った。

(なぜ、僕はガラスの向こうにいないのであろうか)

そう頭を過ぎりはしたが、答えは自分の中で既に出切った疑問である。僕には何も無いのだ。秀でた学も、端正な顔立ちも、突進した面白さもありはしない。そんな僕みたいな男が匆匆と歩き行く女達の目に留まるわけもない。きっといつまで経っても僕の体を温めるのは人肌ではなく、熱々のらーめんの汁なんだろう。
美しく彩る町の景観の一部にすらなれない不出来な僕は、そっと会計の伝票を手に取る。背中越しに響く景気の良い礼だけが、やけに耳にこだました。


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