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Arduino用シールドをPCBAサービスで作ったらすごい面倒だった話

お仕事でArduino用シールドを作りました。複数台必要とのことだったので、基板メーカーに半田付けをしてもらうPCBAサービスを利用しました
「Arduino用シールドなんて世の中にたくさんあるし、特に問題なく作れるだろう」という見込みで受けたのですが、予想以上に苦戦しました
PCBAサービスでArduino用シールドを作った経緯を書いたので、興味があればご一読ください

ちなみに製作したArduino用シールドはこちらです。トランジスタアレイで出力を強化するシールドです(先方から掲載許可済)


前提知識

注文の経緯を書く前に、Arduino用シールドやPCBAサービスについて軽く触れておきます

Arduino用シールドって?

Arduinoというマイコンボード向けの拡張基板です。写真のようにシールドをArduinoの上に重ねて拡張します

Arduino用シールドは本体の上に重ねて使う

部品の特徴として重ねるための足の長いピンソケットが挙げられます

Ardunoシールド用の基板とピンソケット一式

Arduino用シールドは市場に多数存在してます

またピンソケット単品でも販売されており、例えば秋月電子だとピンソケット一式が計110円で販売されています

PCBAサービスって?

PCBAとはPrinted Circuit Board Assemblyの略語で、日本語だとプリント基板組立です。基板メーカーのPCBAサービスを利用すると、基板に電子部品を半田付けしてもらえます

ただし、どんな部品でも半田付けしてもらえるわけではなく、部品は基板メーカーの部品リストの中から選びます。とはいえ揃えている部品は非常に多く、大抵の部品はあります

Arduinoシールド クライ カンタンニ ツクレルデショー

これまでの前提知識をまとめます

  • Arduino用シールドはArduino本体に重ねて使う。ピンソケットの足が長い

  • Arduino用のシールドやピンソケットは市場にたくさんある

  • PCBAサービスで使う部品はメーカーの部品リストから選ぶ必要があるが、その部品の種類は非常に多い

これらの前提知識を組み合わせ、「Arduino用シールドなんてありふれているし、PCBAサービスで使える部品リストの中に足の長いピンソケットくらいあるだろう」という予想の元、Arduino用シールド製作を始めました。始めてしまいました

ピンソケット「あると思った?ないよ」

まずは基板メーカーのPCBA部品リストからArduino用ピンソケットを探しました。ですが、検索性が悪く探すのに苦戦しました
"Arduino Header(s)" や "Long Header(s)" など検索語句を色々試すも、良さそうなのは見つかりませんでした。仕様検索という機能もあったのですが、足の長さは仕様検索から漏れていることが多く、この機能で探しても見つかりませんでした
結局、ピンソケットの足の長さを一つずつ確認したり、その他の販売サイトで扱っているピンソケットの型番を調べてその型番をPCBA部品リストで検索したりなど、地道な方法でピンソケットを探しました

そして苦戦はしたものの、良さそうなピンソケットが見つかりました。SparkfunブランドのArduino Stackable Headerです

しかし部品リストへの登録はありましたが、在庫は無かったです。しかもシステム上は事前予約が可能なように見えましたが、実際は調達不可でした(2024年7月頃時点)。これで調達出来ていれば、ピンソケットの価格は1台当たり約0.075ドル、約12円で済んだのですが……

部品リストに登録されているArduino用ピンソケット。ただし在庫切れ

ただ、部品リストに無い部品でも海外商社から取り寄せ出来ることもあります

幸い、このピンソケットは取り寄せ出来ました。ただし、価格はかなり上がりました。1台当たり約4ドル、約600円です。秋月なら110円、事前予約出来れば12円だったのに、600円……

海外商社からの取り寄せ画面。値段が高い

以上、検索に手間取り価格はかなり高くなったものの、なんとかピンソケットを調達できました。部品さえあれば、あとは基板メーカーに注文するだけと安堵していました
実際はここからがさらに大変だったのですが

足「あると思った?ないよ」

さて、ピンソケット選定後は順調に基板を設計して、基板メーカーに基板とPCBAの注文をしました。そして届いた物がこちらです

届いたArduino用シールド。足が切断されている

足が無いんですけれど?????

はい。ということで、足の無いArduino用シールドという、何の役にも立たないゴミが届きました。私が苦労してArduino用ピンソケットを調達したのは何だったのか

ここからは推測ですが、自動半田付けの都合で足を切ったのではと思います。足のある部品の半田付けを自動でする際はウェーブ半田付けという方法でやります。これは基板の下面を液体半田に漬けて半田付けする方法です(下記動画1:03から)。この際に長い足が邪魔だったのではと予想しています

始まる値段交渉

こんな基板が使えるわけもなく、基板メーカーに連絡しました。以下がやり取りです。日本語で書いてますが、実際は英語です

  • 私:足が切られて届いたんだけれど?

  • メーカー:ごめんね。次からは指示事項に書いてくれれば工場に伝えるよ。今回はその基板でいい?

  • 私:いいわけないよ。交換か返金して

  • メーカー:xxドル(費用の4割)クーポンで許して

  • 私:xxドル(8割)に上げて

  • メーカー:それは高すぎ。xxドル(6割)で

  • 私:しゃーねーな

……。何というか、海外旅行時の買物みたいなやり取りですね。ちなみにこのやり取りにかかった日数は4日です

また、何か参考にならないかと他の事例を探し、以下の記事が見つかりました。この記事でもクーポンで対応されています

このメーカーの場合、不良に対してはクーポンで対応するのが一般的みたいですね

伝われ日本語(英語)

さて、クーポンの値上げには成功しましたが、手元にあるのは足の無いゴミみたいな基板だけです。正常な品を調達しないといけないので、基板を注文しなおします

メーカーに言われたとおり、注文時に足について色々と細かく指示しました。ですが上手く伝わりませんでした
私は「指示がきちんと伝わっていれば実装方式が自動(ウェーブ半田付け)ではなく、手作業になるだろう。追加費用も発生するかも」と考えていました。ですが、ピンソケットの製造方式を確認したところウェーブ半田付けのままでした。加えて、手作業や追加料金に関する連絡も無かったです

ピンソケット実装方式の確認画面。実装方式がウェーブ半田付けになっている

こちらの指示が伝わっていないと判断して、一旦製造を取り消してメーカーと実装方式のやり取りを始めました。結局3日ほど英文のやり取りをしましたが、上手く伝えられませんでした。
最終的に「この画像の通り作ってくれ」と下記の写真を送りました

基板メーカーに送った指示図

その後、メーカーから「手作業になるから追加費用を払って」と連絡が来ました。私の予想に近い内容だったので、これなら指示がきちんと伝わってそうだと判断し、製造の承認をしました。あとは正常な基板が届くのをお祈りするだけです

長い道のりの果てに

予想より高額な部品の調達、足切断という不良、不良の対応、再注文時の指示。色々ありましたが、ようやくちゃんとしたものが届きました。長い道のりだった……

ちゃんと足がある状態で届いたArduino用シールド

当初の予定より大幅に手間取りましたが、理解のあるお客様だったので問題にはならなかったです。感謝します

おわりに

「世の中に多数あるし、難なく作れるでしょ」と始めたArduino用シールド製作でしたが、いざやるとすごい大変でした。だいたいピンソケットのせい。でもよく考えると、Arduino以外ではあまり見ない特殊な部品ですね、このピンソケット。なら仕方がないのかな……

ちなみにお客様から基板追加の注文が来たので、2024年12月頃に再度注文しました。注文時の指示は簡潔に「写真を参考に前回と同様に作って」とし、その後メーカーから追加費用の連絡もあり、無事に正常な基板が届きました。今回はお客様へ予定通りにお届けすることが出来て一安心です。良かった、良かった

以上、Arduino用シールドをPCBAサービスで作ったらすごい面倒だった話でした。もし似たようなことをやる人がいたら参考にどうぞ
そして、Arduino用シールドを安くてたくさん作った経験をお持ちの人がいたら、どうやって作ったか教えてください

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