その意思決定は不完全なデータに基づいていませんか?
どんなときも部分的なデータから判断を下すのは危険なことです。それが人事判断であればなおさら。
さまざまなHRシステムをまたがって管理される採用から退職までの従業員データは、全て連続して相互に繋がっているものであり、組織の実態を把握するためには必ず俯瞰的に分析されなければなりません。では部分的に分析して全体像を捉えなかった場合どうなるのでしょうか。今回は、データを俯瞰的に捉えず分析したつもりになったことで悲惨な結果を招いてしまった企業たちの、教訓ストーリーを紹介します。
V社の採用ジレンマ
V社の採用チームは2018年度第一四半期すこぶる順調で、募集求人の殆どを採用し、素晴らしい結果を残しました。彼らは来期以降さらに採用効率を上げて結果を残そうと考え、採用データ分析の結果、最も一次面接から内定受諾までの歩留まりが良く、労力もかからず採用ができている人材紹介サービスを最も有効な手段だと考えました。よぉし、来期は人材紹介サービスの有効利用とより多くの予算配分をおこなうぞ。
しかし、お祝いムードはそう長くは続きませんでした。第三四半期に入り、V社は頑張って採用している割に企業が成長していないこと、なかでも人材紹介サービスを通じて採用した従業員の多くが会社を早期に辞めたり、低評価に悩んでいることに気づきます。深掘りして見ると、一部紹介会社からミスリーディングな情報が候補者へ伝わっており、入社してから「こんなはずじゃなかった」という事態が少なくないようでした。
どうしてもっと早く気づけなかったのか…採用チームの施策効果検証の分析範囲を採用管理システムのデータと定義し、他の人事データや評価データと分断して捉えていたため、このような事態が起きてしまったのでしょう。
もしV社が勤続期間や評価データも捉えて効果的な採用施策を検証していたなら、人材紹介ではなくリファラル(社員紹介)に目を向けていたかもしれません。当時の内定数はまだ少ないながらも、採用後のカルチャーミスマッチの少なさやエンゲージメントの高さ、離職率の低さなど採用効率を示す他の指標に気づけたかもしれないですから。
もしあの時、人材紹介に予算を振り当てる代わりに、新たにリファラル採用プログラムを構築することに予算を費やしてたなら…その後の退職者や成績不振の従業員を補うのに必要となった多くの経費と時間を節約できたでしょう。
T社のダイバーシティの“思い込み”
多様性は単なる頭数では測れません
T社は自社組織の多様性に誇りを持っており、採用プロセスにおける重要な焦点ともしていました。おかげさまで組織内の完璧なジェンダー比を実現したほか、国籍・人種・性的指向など様々な軸においても多様性を実現することができていました。
多様性における業界リーダーとしての地位を確立したかと思えたT社ですが、実は水面下で致命的とも思える問題が湧き上がっていました。それは、組織全体のダイバーシティ比率に捉われるあまり、細部に意識が向けられていなかったことに誘引されます。
例えば、各役職の男女比率に対して明らかにプロモーションの性別比が偏っていたり、各職務等級の平均在籍期間も明らかに女性の方が長くなっていることに気づけませんでした。T社は半ば短絡的に頭数だけで多様性を捉え、採用比率と従業員全体比率だけを見て「多様性問題を解決した」と満足してしまったのです。
さらに問題に拍車をかけたのは、さまざまなマイノリティグループがそれぞれに徒党をつくり、組織内の他のグループと交流することを拒み始めたことです。これらの水面下の課題により、女性や少数派のグループのエンゲージメントスコアはみるみる下がっていきました…。
もしT社がネットワーク分析手法を取り入れ組織内のコミュニケーションパターンを分析し、分断の傾向やグループの架け橋となっている従業員を特定していれば、組織の分裂に歯止めをかける対策を打てたかもしれません。
しかしT社は結果として、なぜ女性や少数派グループのエンゲージメント低迷が起きているのかわからず、外部のコンサル会社に調査してもらうために多くの費用を費やさなければなりませんでした。
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さて、これらの企業はフィクションではありますが、私たちは世界中で実際にこのような課題を抱える企業をごまんと見てきました。
本来人事も財務やマーケティングや開発と同じように、一部分に捉われず川上から川下までデータを大きく捉え、仮説を検証したりアイディアをA/Bテストできてもいいはずです。なのになぜ、人事分野となると直感と偏見に基づく意思決定がされてしまったり、“木を見て森を見ず”な判断が横行してしまうのでしょう?
みなさんも、上記のV社やT社のような判断を直近でしてしまっていないか振り返ってみてください。もし不安がよぎったら…パナリットがお手伝いできるかもしれません。