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不思議なお客様
知人のアレンジャーを介して
楽器の収録依頼をされたお話
個人でずっとやってきた方らしく、楽器の収録依頼するのは初めてなのだそう。
知人のアレンジを元にこちらに話が来たという恰好である。
なるほどそうですか、と思ったところで打ち合わせをする事に。
楽曲のラフを聞いて、質問事項を予めメモして打ち合わせに臨む。
どういった楽器の音が欲しいのか、銘柄で言えばどれになるのか。
一口にベースと言っても色んな音色が出るし、奏法もある。
具体的なフレーズ提案等も、もしあるなら聞いておきたいと考えている。
依頼者はベースの事が分からない、という事だった。
よって楽器の演奏やフレーズは「お任せ」と話では聞いている。
対話の中で具体的なリファレンスはあるか聞いたが、それも初めて知った事のようだ。それならば、と楽曲を聞いた主観を元に具体的な提案を入れていく。
が、いまいち話が繋がっていかない。楽曲に対しての打ち合わせというよりも、顔合わせとしての打ち合わせだったのかもしれない。少し困ったなと思って居た所で。
依頼者からこんな言葉が飛んできた。
「デモのベースも(アレンジャーの手によって)弾かれているものですよね。87さんのベースとデモのベース、何が違うんですか?」
打ち合わせには知人も同席している。
正直言ってかなり気まずいし失礼な質問だが、こう答えた。
「双方の培ってきた知識、掛けている経験値の数、楽器の習熟度合でしょうか。簡単に言えば人が違います。もう少し突っ込んで言うなら…ですが、例えば私は現場経験が多く、視点としてプレイヤー気質とも言えると思います。
アレンジャーの●さんはアレンジそのものの経験値が圧倒的にあるかと思います。ですが、ベースに対して特化はしておりません。
フレーズの違いや出音の違いはそういった部分から出て来ると思います。手持ちの楽器や、機材によっても勿論変動するかとは思いますが。」
ベースは良く分かっておらず、これを機に学ぶ機会となればとの回答を得る。こちらが依頼されたいとガンガンお願いしてる場ではない。心の中でかなり暗雲立ち込める。
依頼者は発注そのものを楽しみにしているとの事。要するにコラボによるアンサンブルを楽しみにしているとの弁。要するに"私である必要がない"と暗に言われている。
これも中々面白いなと思いながらも
「そういう事でしたら所謂ベーシストに発注を出した際にこんな形のフレーズが出て来るよ、みたいなエッセンスを楽曲の中でちりばめていく形はいかがでしょうか。」
「楽しみにしております。依頼を出すにあたりこうした方がいいというポイントがあれば教えて下さい。」
…?
打ち合わせで何故教えるが生まれたのかと不思議に思うのと同時に、冒頭でどのベースが必要で、欲しいと思うフレーズ案を聞き、入れて欲しい効果があれば聞きたいという事を伝えていたことに対して”全てお任せ”と言っていた。
更に不安を感じたが、初めてなのであれば仕方がないのかもしれない。こちらも自分直のクライアントでは無い為深追いもする訳にはいかず。
打ち合わせが終わり、知人にこの人は大丈夫なのか?と聞くとなんだかふんわりした答えが返ってきた。
まあ、全てお任せでという事ならばそんなに問題が起きる事もないだろう。
納期設定は2週でと伝えたが手前の別件も複数ストックされている為打ち合わせ後からすぐ収録することにした。
収録が終わりデータを送る。
ほどなくして、依頼者からの返信。
「早々の収録ありがとうございました。スラップの部分など恰好いいですね。
ただ、個々の部分はデモフレーズの方が良いと思う箇所があります。
もし修正が可能であれば
ベース音源に87さんの演奏データを部分的に切り貼りしてお渡しし、
この通りにお願いしたいです。とお願いをしたいです。
ただ流用できるとはいえかなりの箇所の収録し直しとなるのでお願いするのも申し訳なく。
難しいようであれば特定箇所のみ採用させていただく流れで考えています。
よろしくお願いいたします。(特定箇所もタイミング変更をしたい箇所があります)」
びっくりした。
要するにお任せで、と言っていた所から
デモのベース案とのキメラを作って欲しいという事で、
それはちょっと気まずいとも思うから特定箇所だけ切り取るのでどう?
そこもちょっと気に食わないところがあるけど。という事だ。
アウトラインに沿った修正は勿論対応する。
予め、デモのフレーズを元に発展させたものを作ってください、という事なら完全にこちらの落ち度になる。
好き勝手やりやがって、ってやつだ。
だが今回のケースは「完全にお任せでお願いします」というフレーズが何度も頻発していた中、トラブルを回避するためにも予め様々な角度からお伺いを立てている。
制作者の意を汲んで制作しますとは伝えたが、作り終わった後元のフレーズのコピーをお願いします。は言われたが事が無い。なんだろうね。
そして打ち合わせとは。
我々はフルハンドメイド、フルカスタムのオーダー品を作っている。
寿司屋で例えればわかりやすいのかもしれない。
予め好き好み、元々どんな寿司が好きなのかを予約時点で聞いた上、
「お任せで」とオーダーを聞き全て出揃った所で
「食べログメニューの別の寿司屋の写真にあった
上にぎりのこの辺だけ、真似して作ってくれませんか?
出も作ってもらうのも大変そうだし、もしダメそうでしたら
今送り頂いたお任せ握りの中の大トロだけ貰えますか?
あ、大トロの見た目気に食わないんでちょっと切り込み入れて下さい。」
と寿司屋の大将に言っている事と同義だと私は思っている。
中々勇気が要る話だとは思う。
読んで頂いた方たちはこの依頼者に対し
その後どのような行動を取るのか
差し支えなければコメントでお伺いしてみたい
ちなみに依頼者はいい年した社会人である
勿論ここでは終わらせないんだが
世の中は広いなととても思った