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kissとかhugとか

目の前を外人のガタイのいい男性が満面の笑みで横切っていった。
何事かと思ったら、彼を待っていた奥様とまだ小さい赤ちゃんのもとにかけよってただいまのキスをしていた。
「ただいま〜ハニ〜」「今日もお仕事お疲れ様」「いい一日だった?」そんな会話が聞こえてきそうである。

「いいなぁ。」と心の声が漏れそうになった。

キスする相手がいることに対する「いいなぁ」ではなくて、外国人特有のいやらしさのない身体的接触に憧れたのだ。
混じりけのない「挨拶」のキスはいやらしさがなくて、目撃したとしてもこちらも「あ、お二人の空間にお邪魔しちゃった。」なんて感じる必要のない罪悪感を覚えるまでもなく、スルリと通り過ごすことが出来る。

一方、夜の渋谷や新宿や池袋の改札前等で夜になると目にすることができる昭和でも平成でも変わることのない風景、別れを惜しむかのようにキスし、抱き合っているカップルの横を通る時はちょっと身構える。

声には出さないけれど、「邪魔してすみません。」と思わず言いたくなってしまうようなうしろめたさがある。
キスとかハグとか、そうゆう身体的接触をカップルが愛を確かめる行為としてやるのと、挨拶でやるのとじゃ、部外者の私の感情を波立てたり、そうしなかったりするのだから同じ行為なのに面白いなぁと思う。

その違いは一体なんなのだろう。

一つ思いあたるのは、同じ行為でも「湿度」が違うということだ。

挨拶の時に、きっとエロいことを考えている人はいないと思う。挨拶という行為は、無意識で行われるものだからだ。だからなのか、カラリとしている。
カップルだと、その二人の醸し出す「これからどうする?」的な雰囲気に湿っぽさを感じる。その湿っぽさが私にまで伝染するから、他人事に自分事として足を踏み入れているような感覚があって、だから「おじゃましま~す」だったり、「ごちそうさまです。」と言いたくなるのかもしれない。

私は、外人じゃないから「久しぶりー」と言って、同性であれ、異性であれ相手の胸に飛びこんで行く勇気はない。
初対面だったり、目上の方に挨拶する時は、ペコペコお辞儀をしているだけだろうし、仲良い友達にはあらかた手を振って『久しぶりー』と伝えるにすぎなくて、握手やハグやましてはキスなんてできない。
だから、あけっぴろげに相手の胸の中に飛びこんでいくことが出来る軽さが私は羨ましい。
慣れていないから、そうゆう挨拶は例え挨拶といっても身構えてしまうし、なんならちょっとキョドっちゃう気がするし、意識的にやる挨拶はちょっとの湿度を含む気がする(緊張感からくる湿度であって、決していやらしいことを考えているわけではないということを付け加えたいけれど)。

でも、身体的に距離感がある挨拶よりも、どこか一部でも接触させる挨拶のほうが、伝わるものが多い気がする。これはうまく言語化できない。ETか。

海外にふらりといって、キスとかハグとか抵抗なくできるように武者修行なるものをしてみたい。
いや、そんなの修行に来られても迷惑だよって思われるかもしれないけれど、人との距離感に躊躇してしまうので、そこを潔く打破できるあけっぴろげさがほしい。

そんなことを考えながら、昨夜はこの曲を聞いていた。






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