「彼女は頭が悪いから」/【読書report】
読後感が悪い本だと帯に書いてあった気がする。
あらすじを読んで、何度か買うことを躊躇した。
何度か手に取っては戻し、
…でもやっぱり気になって購入して読んで…読後感は、やっぱり悪かった。
東大生5人で、女子大生1人にわいせつな行為を行い、逮捕・起訴されるという事件がどのようにして起こったか、というストーリー。
「どうせ東大生狙いだったくせに。なに被害者ヅラしてるんだ」
「女が尻尾ふってついていってる。OKサインでしょう。なんで逮捕?」
「部屋に自分で行っておいて被害者ヅラの女子大生の親より、せっかく東大まで行かせたのにこんなことで実名出された男5人の親の方が、すごく怒ってると思う」
目をそむけたくなる、ネットの書き込みの数々。
昔から性被害には、神話がある。
「女性がみだらな格好をしているから狙われる(どんな格好をしていても暴行する権利はない)」・「断らなかったのだから仕方がない(断れない状況に巧みに誘われることが多い)」・「死ぬ気で抵抗すれば何とかなったのに抵抗しなかったのは、合意だったから(死ぬかもしれない恐怖の前ではフリーズすることが生き延びる道)」などなど。
被害にあった女性が悪い(もちろん加害者も悪いけど、と言いながら)、
と考えることを、世の人たちは好む。
それに加えてこの強制わいせつ事件は、被害者が非エリート大学の女性で、加害者がエリート代表格・東大生だった。
それがネット住民の心の何かに火をつけたようだ。
もし、加害者がフリーターだったり、中堅の私大生だったならば、ここまでコメントが被害者に攻撃的になることもなかっただろう。
それにしてもなぜ。
「被害者が悪い」という論理はおそらく、
「被害を受ける方に原因がある、だから自分は大丈夫」と自分の不安から身を守るための逃げ道なのだろう。
「男の部屋に行きさえしなければ被害に遭わないはず」と思いたいがために、「行った方が悪い」と論理をすり替える。
そこまではわかる、気がする。
難しいのは、被害者を「東大生狙いのあざとい女」という位置に貶めたくなる心理。
人々は、「エリート達には落ち度がない」「むしろ被害者は東大生」と思い込みたいようにも思える。多くの人は、「エリート」と呼ばれる人達に対して、コンプレックスがあるのかもしれない。
だから、東大生側を「学歴だけ高くても人間的にダメだね」と否定してしまうことは、何か、やっかんでいるように見られそうで、実はやっかんでいる自分を受け入れたくないがために、東大生を肯定する…とかだろうか?
なかなか難しい深層心理。
まだまだ未熟者の自分には、今は結論が出せそうにない。
ただ、性被害×加害者がエリート という構造が、この事件の最も闇な部分だということがわかる。
最後に作者は、当の東大生たちに、このように語らせる。
「公の場では口にしないけどさ、単細胞からヒトまで、頭悪いやつ、身体が弱いやつ、不自由なやつは弱者なんだ。弱者は淘汰されるんだ。弱肉強食なのが自然界なんだよ。なんでこの真実を覆い隠すわけ?(略)強者の余裕で弱者をかばってあげるんだよ。上から目線?けっこうじゃない。ボランティア、慈善、福祉、みんな上から目線のたまものだろ」
「自分が輪姦されそうだとでも思ったわけ?あんたネタ枠ですから。誰も、あんたとヤリたいなんて思ってませんでしたから。あんたの大学で、あんたの顔で、あんたのスタイルで、輪姦されるとでも思ったんすか?思い上がりっすよ」
全く反省していないだけでなく、ものすごく露悪的で、ここまでのことを本気で思っている人が、エリート男子の中にたくさんいるとは考えたくない。
だけど、「こんな奴いるかよ~(笑)」と切り捨てることもできない。
ここまで極端でなくとも、似たようなことを密かに感じている人は確実にいそうだし、
案外自覚していないだけで、自分や同僚や周囲の人の中にも、相似形で存在している考えなのかもしれない…という不安を感じさせるからだ。
このストーリーを読めば、被害女性は、普通の「善き」娘で、
このような誹謗中傷を受ける言われはない、ということが痛いほどわかるようになっている。途中までは、うぶな女子大生の恋愛小説。
したがって、構造的には加害の学生や、ネット住民は、「悪役」どころなのだが、上記のような意味合いで、読み手は「悪役」である東大生男子を否定してスッキリすることはできない。
だから、非常に後味の悪い小説なのであった。