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陽だまりの鳥(西軍:木下昌輝、川越宗一、今村昌弘)

(お題:カエル)

第1章(木下昌輝)

「おだまり! ノトリー!
 おだまり! ノトリー!
 あなた、くだらない両生類のくせして、何様のつもりなの!」
「けど、神様、僕はやっぱりノトリーという名前はどうかと思うのです」
「ひだまり! ノトリー!
 ひだまり! ノトリー!
 醜い尻尾を持った両生類のくせして、私に口ごたえする気。オダマリをヒダマリと言い間違えるぐらい怒っちゃったわ。私がヒステリーを起こすと、『お』を『ひ』と言い間違える癖が出ちゃったじゃない。まあ、いいわ。どんな名前がいいの」
「はい、ムラカミハルキという名前が」
「ひだまり!ノトリー!
 ひだまり!ノトリー!
 そんなノーベル文学賞を取りそうな名前はいけません。お前なんて、サイトウタイチぐらいがせいぜいよ」
「そんな、人を殺しそうな名前は嫌です。お願いです、神様。醜い両生類の私に、もっといい名前をつけてください」
「ひだまり!ノトリー!
 ひだまり!ノトリー!
 歌うこともできない、醜い両生類のくせに。
 どうしても欲しいというなら、名前を探す旅にでなさい。さっさとこの池から出ていくのよ」
「そんな、神様、けど私は醜い尻尾はあればこそ、池を出て歩く足がありま……」
 どうしたことでしょう。醜い両生類のノトリーに足が生えているではないですか。
「おだまり! ノトリー!
 おだまり! ノトリー!
 あなたなんて、この池から追放よ。この池から出ていきなさい」
 ノトリーは生えたばかりの足を使って、生まれたばかりの池から出ていきました。
「神様、ありがとうございます。僕は自分の名前を探す旅に出ます」
「おだまり! ノトリー!
 おだまり! ノトリー!」
 心なしか、神様の声は涙ぐんでいるように思いました。
「おだまり! ノトリー!
 おだまり! ノトリー!
 歌を歌うこともできないくせに。あなたなんか、どっかへ消えておしまい。醜い両生類のくせに」
 ノトリーは池と神様に背を向けて、歩き出しました。
 背後から神様の声が聞こえてきました。

 おだまり! ノトリー!
 おだまり! ノトリー!
 おだまり! ノトリー!
 おだまり! ノトリー!

 聞こえなくなっても、まだノトリーは耳を澄まし続けました。

第2章(川越宗一)

 耳。
 これがノトリーにとって一大問題であった。
 耳があるがゆえに、ノトリーは外界で起こったことについて、気づかないわけにはいかないのだ。
 耳がなければ、神の叱責に知らぬ振りを決めむことができたのだ。ムラカミハルキでいられたのだ。神の声を聞いてしまったばかりに、ノトリーはムラカミハルキと名乗る権利を奪われ、まだあったことがないサイトウタイチという名を持つ誰かが、アカンことのたとえになってしまっている。
 ところが、ノトリーを叱責し、サイトウタイチなる名がせいぜいであると言ったのは、ほかならぬ神である。七日目に休まれたこと以外は、せっせとこの世界を造りたまいし神である。
 1日目から数えて7の倍数の日以外は勤勉に働く神がノトリーを叱責したのは、何日目のことかはわからない。だが、7の倍数でない限りは、世界を造った情熱を持ってノトリーを叱責したのだろう。
 世界を造った叡智を持って、今のノトリーをサイトウタイチと評したのであろう。

 サイトウタイチ。

 神(多神教という意味においての)か仏か、救いか滅びか、正であるか邪であるか。知恵の実すら与えられず神のみ元を逐われたノトリーは、決心した。

 サイトウタイチに会わねばなるまい。ノトリーの耳にサイトウタイチはないを告げるのか。

 まだ見ぬ世界に対する期待、知らぬ世界に逐われた絶望。
 ノトリーが行くべき世界には、いくつかの扉がある。その最初の扉が、サイトウタイチなのである。自分がサイトウタイチであることがアカンことなのか。あるいは神が、初めての誤謬を犯すのか。

 それはサイトウタイチが握っている。

第3章(今村昌弘)

 池を出たノトリーは先々でサイトウタイチについて話を聞いた。初めて歩く池の外の世界は木々の匂いに覆われ、様々な動物がいた。

キツネと名乗る毛並みの美しい動物にサイトウタイチについて尋ねると首を傾げた。

「サイトウタイチ? さあ、知らないね。」

体のたくましいイノシシはこう答えた。

「知らないね。ムラカミハルキなら知ってるけど」

 その他、様々な森の生き物について聞いてみたが、ムラカミハルキの名を知っているものは多々いれど、サイトウタイチを知っている者は皆無だった。

 ノトリーは疲れ、ほとほと困ってしまった。

 僕、自分の名前を探していたんじゃなかったっけ? なんでサイトウタイチなんて探しているんだ。

 途方にくれるノトリーだったが、森の賢者だというフクロウが有意義な情報をくれた。

「サイトウタイチだって。大昔にその名を聞いたことがある気がするぞ。しかし詳細は思い出せん。ただ……」

 フクロウは言葉を切る。ノトリーは固唾を飲んで続きを待つ。

「どうも、ひどく縁起の悪い名前だった気がする。ハリーポッターの例のあの人みたいな感じじゃ。サイトウタイチが絡むととにかく良くないことが起きるのじゃ。あんた、誰からその名を聞いたが知らんが、気をつけたほうがええぞ」

 ノトリーはフクロウに礼を言い、その場を離れた。

 なんだか嫌な気がする。どうしよう、サイトウタイチ探しを、いや名前探しを止めるべきだろうか。

 その時だった。

 木の影からシューシューという音が聞こえた。

 ノトリーが恐る恐る振り向くと、ぎとぎとと恐ろしげな光沢を持った巨大な生き物が、赤い舌をのぞかせながら彼を睨んでいた。

 ヘビだ。カエルの天敵。

 大口を開けて襲いかかってくる。ノトリーは悲鳴をあげた。

 ガッ!

 しかし、いつまでも痛みは訪れない。ゆっくり目を見開くと、ノトリーに襲いかかろうとしていたヘビが、大きな鳥のくちばしに捕らえられ、もがいているではないか。

「神様……!」

 ノトリーは叫んだ。

 ゆっくりヘビをたいらげた神様は言った。

「ごめんなさいね、ノトリー。森の中は弱肉強食なの。この森は近頃私の食べられる動物が減ってきていた。餌を獲るためには餌の餌を放つしかなかったのよ。幼い頃から知っているあなたを使うのは気が引けたけど」

 ノトリーは思った。

 やっぱりサイトウタイチに関わるとろくなことがない。

                              

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1月19日(土)17:00から、京都 木屋町「パームトーン」で開催された「fm GIG ミステリ研究会第3回定例会〜ショートショートバトル大会」で執筆された作品を、こちらで公開します。

顧問:我孫子武丸
参加作家陣:木下昌輝、水沢秋生、最東対地、川越宗一、尼野ゆたか、今村昌弘

司会:冴沢鐘己、曽我未知子、井上哲也

上記6名の作家が、東軍・西軍に分かれてリレー形式で、同じタイトル(今回は「陽だまりの鳥」)の作品を即興で書き上げました。

また、それぞれの作家には当日観客からお題が与えられ、そのワードを組み込む必要があります。

当日のライブ感あふれる様子はこちらをご覧ください。

「陽だまりの鳥」は、本来こんな曲です。



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