「黒=モード」と言う勿れ
皆さんはことファッションにおいて「モード系」や「モードファッション」という言葉を聞いてどんなイメージを持たれているでしょうか?
もちろん普段から洋服が好きで、特に世に言うモード系と総称されるブランド群を愛顧し追い求める方々には当たり前に認知されていることかと思います。
「モードって全身真っ黒だったり、黒を基調としたコーデのことを言うんじゃないの?」もしくは「そういう黒ばかりがイメージされるようなブランドの洋服のことでは?」
まんまとそのイメージが固定観念となってしまっていた方にこそ今回は是非読んでいただいて、ファッションにおけるモードという概念、ひいてはファッションというものに少しでも興味を持っていただける一端を担えれば幸いです。
まず、「モード」という言葉は本来フランス語でファッションスタイルから髪型までの最先端、謂わゆる「流行/トレンド」という意味を持ちます。
ではモードとトレンドの違いは何かと言いますと、モードは世界4大ファッションコレクションと呼ばれるパリ・ミラノ・ニューヨーク・ロンドンの4都市にて開催されるファッションウィークに出品するハイブランドやラグジュアリーブランドの打ち出した流行を指します。
これに対しトレンドは、モードが打ち出した流行が世間一般に浸透した、より長期的な趨勢的変動のことを意味します。
トレンドの中でもより最先端のファッションを取り入れたものがモード系ということですね。
故に本来、モードが黒の代名詞である、また黒がモードの代名詞であるということは全くないといえます。
では何故日本において「モード=黒」という強いイメージが定着してしまったのか。
その原因こそ、日本が世界に誇るファッションブランド「Comme des Garcons/コムデギャルソン」と「Yohji Yamamoto/ヨウジヤマモト」にあったのです。
コムデギャルソンのデザイナー川久保玲は慶應義塾大学文学部哲学科、ヨウジヤマモトのデザイナー山本耀司は同じく慶應義塾大学法学部を卒業後各々のブランドを立ち上げ、1981年4月にパリ・プレタポルタ・コレクションにともに初参加しました。
2人に先駆け日本人デザイナーとして「KENZO/ケンゾー」の高田賢三が着物や民族衣装から得た着想をパリモードに持ち込み高い評価を受けており、これに続く日本人デザイナーとして大きく期待されていたのです。
当時のパリモードとは女性をより美しく際立たせ、ゴージャスにみせるという暗黙の了解がありました。
しかしコムデギャルソンとヨウジヤマモトはこれを大きく覆えすような穴だらけのぼろぼろの生地、肩から腰・足元までストンと落ちるような真っ黒なオーバーサイズの服を発表し、ファッションにおける西洋美学の根底を大きく揺るがしたのです。
これは「黒の衝撃」と呼ばれ、「モードに対するアンチテーゼ」だとする好意的な意見もあれど、「こじきルック」「ぼろルック」さらには「ヒロシマシックだ」などと揶揄されます。
しかしその後も変わらぬスタイルを貫き続けた二つのブランドは徐々に市民権を獲得し、日本ではみゆき族に続く「カラス族」と呼ばれる人々をも生み出すことになったのです。
そのあまりに大きい「黒の衝撃」が、今日に至るまで黒=モードという強いイメージを広く定着させることになったということなんですね。
本来のモードというものを形骸化させてしまうほどの影響力は畏敬の念に堪えませんが、今一度その意味を再確認してみるともっと自由な発想があるのです。
さらに言えばモードを追求するということは、そのブランドの掲げる世界観や理念に追従し、毎シーズン打ち出されるスタイルに共感しそのシーズン毎のファッションを自らに纏うことが理想的な形なのですが、そんなことが実際にできるのは真にお金持ちの着道楽にしかできないですよね。
本来のモードとは何たるかを頭の片隅において、これからモード系ファッションに挑戦してみたいという方、興味のある方は是非コレクションを覗いてみてください。
ちなみに自分が最も衝撃を受けたのは「Gareth Pugh/ガレスピュー」の2007年春夏コレクション
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