映画の感想(みなに幸あれ)
※映画のネタバレを含みます。
そこまで引き込まれるようなタイトルではないものの、内容を想像しにくいがゆえに興味が湧き視聴。(アマプラ)
平和な日常に潜む違和感から始まり、『黄龍の村』同様、いわゆる因習系ホラーと呼ばれる田舎特有のしきたりや掟、絶対的な排他思想に直面する恐怖へと終息していくように思えたが、見終わってみると「誰かの犠牲の上に成り立つ幸福」という現代社会にも通じる闇の側面を極端に可視化した作品ともいえる。
作中に意味ありげに登場した「自家製味噌」。
その生産過程ははっきりと描写されていなかったものの、内容から察するに二階奥の部屋に縛り付けられていた男性から搾取されたものだろう。
(いやいや人体からどうやって味噌が作られるんだ、という疑問はさておき。)
誰かが生きるために口にする味噌汁一杯。
それは別の誰かが生み出した一杯でもある。
主人公の女子はその構図を目の当たりにし、嫌悪感を示し、抵抗し続けたものの、最終的には受け入れ次の犠牲者を家に迎えた。
自分たちが今までと変わらぬ幸福を得るために。
そして作中で特に不気味さを放っていたのが、犠牲者に対する家族の反応。
廊下ではいつくばっていようが、車に撥ねられようが無関心。
「あー、死んじゃったか。困るなぁ」
「あなたあれが人間に見えるの?」
もう、グロテスクなまでの無関心。
とんでもねぇ家族だ、と最初こそ思っていたものの、現実社会の私たちも同じような事をしていないだろうか…?
また、作中では「搾取する側」の目線でストーリーが進んだが、その間犠牲者には搾取されている自覚はあったのだろうか?
この映画では一方的なギブアンドテイクが描かれていたが、現実社会では誰もがギバーにもテイカーにもなり得る。
他人に自分を値踏みする資格などないのだ。
「みなに幸あれ」
このタイトルは満たされた側からの無責任な祈りではなく、同じ現実社会を生きるギバー兼テイカーからの「自分の幸福は自分で見つけよ」という激励であると信じたい。
まとめ:こんな因習系もあるんだ
無知→恐怖→嫌悪/抵抗→諦念→受容
主人公の女子大生が辿るこの心理状態の変遷を見事に演じきった役者さん、本当に素晴らしいです。