卒業にあたっての振り返り
通っていたトロントのカレッジを卒業した。2年のプログラムだったけど、休みを挟まずに連続して受講したので結果1年と4ヶ月ほどの学習期間だった。
これを書いている今は最後の試験から3日ほど経った週末で、本格的に就活を始める前にひと休みしているところ。忙しくなる前に学生生活とそれにまつわる日常のことを振り返っておく。
3月にロックダウンが始まった前回の記事からあっという間に半年以上経ってしまった。初めてのロックダウンに翻弄されたウィンターセメスター(冬学期)は、オンラインに無理やり移行したせいか試験がオープンブック(資料参照可の試験形式)になったりとゆるめになって結果的に助かった。その前の中間試験がかなりハードだったので。
そしてそれから約5週間の休みに入った。本来学期間の休みは3週間程度なのだけど、オンライン移行のためのプログラムの改変など、学校の都合で休み期間が延びたのだった。
トロントというかカナダの当時の状況としては、じわりじわりと感染者数が伸びてきて、ロックダウンをきっかけに人々の意識がガラッと変わっていった時期だった。こっちではつけてる人を見ることが全くなかったマスクもあっという間に広がり、お互いに近づくのを恐れ始め、急かされるようにzoomなどのツールを覚えていった。
そんな状況のなか、パンデミックが始まったばかりで心が落ち着いてなかったのもあるけど、全然何かをしようとする気が起きず、オンラインの学習コースなどを自分で買って進めたりはしつつも特に大きなアクションは起こせず、ひたすらに映画を観ていた。いつのまにか朝飯後に1本、夕飯後に2本のルーティンができていたりと、これまでの人生で一番映画を観た期間、というか年だったと思う。
自習と映画以外では、だんだんと暖かくなってきたのと、あまりに運動不足で体調崩れないか心配だったのもあり、外を歩いたりサイクリングしたりが習慣になった。郊外に住んでいるおかげで家の周りにはたくさんの公園やトレイルがあり、探索する場所にはしばらく困らなかった。これがダウンタウンのコンド(コンドミニアム=マンション)だったら相当大変だったろう。実際、ダウンタウンの公園が晴れの日に混みすぎて危険なので、市が芝生に等間隔に円を書いてそこに留まって距離を開けるように指示するなどギャグな試作が施されたりしていた。
近所の散歩道
気温や天気の関係で毎日外に出られるわけではないので始めた筋トレも結構効果があり、Tシャツの胸元がちょっときつくなってきたりして、このパンデミック下でなぜか身体的にこれまでの人生で一番健康的な生活を送ることになった。
休み期間のうちに観た映画が70本をこえた頃にようやくサマーセメスターが始まった。完全オンラインに移行した初のセメスターだったけど、教授によっては全然適応できてなかったり、提供されたプラットフォームの使い勝手が悪かったりと結構技術面で戸惑うことが多かった。一方で、適応できてる教授のクラスではかなり快適に授業が進んだ。自分がコンピューターサイエンス学科ということもあり、自宅の自前のシステム下で授業を受けられるのは助かったし、通学にかかっていた往復2時間(×5日の週10時間)が浮いたのはかなり大きかった。
授業の様子
悪い面としては集中の出来なさが結構辛かった。多くの授業がただスクリーンに映されるスライドと音声を摂取するだけの退屈な形式で、話し手の姿を見ること、あちらから見られている(かもしれない)ことを意識することの重要さを実感した。教授が自分の顔ワイプで出してるだけで全然集中力が違った。
それから、ガイダンス/サポートの貧弱さと、アンバランスな課題の量。授業の合間やオフィスアワーなどにさらっと補足の質問をしたりが全くできないのは地味に痛かったし、日々出される課題についての不明点を聞くだけでメールのやり取りのため数日を費やさないといけなかったのはかなりストレスだった。それから基本的にWindowsベースの授業だったので、Macユーザーの自分は学校の仮想マシーンを遠隔で使わざるを得なかったり、めちゃくちゃに効率が悪かった。体感だけどおそらく他のWindowsユーザーの生徒と比べて2倍の時間はかかってたと思う。
あまりいないかもしれないけど、もしMacユーザーでカレッジのコンピューターサイエンス系に行くという人がいたら声を大にして言いたい。学校はMac完全無視だぞ。Windowsを買え。
そして課題の量についてはフィジカルにクラスを受けてた頃に比べて量が増えていて辛かった。まぁ授業で学べることが少なからず限定される上でその分課題で補填しようという気持ちはわかるけど、既述したようにオンラインならではの障害や効率の悪さによって、結果的に単純に生徒を追い詰める結果になっていたと思う。その辺は自分から言うまでもなく、日本でも色々と議論がされていたのを見かけた。
それと、今でも納得していないのは学費。オンラインに移行した後も、なんと全く学費に変動がなかったのだ。あり得ない。それについて問い合わせた答えには、オンライン移行に伴うプラットフォームの構築/運用費なんかが挙げられていたが、絶対そんな金かからないだろ、フィジカルでキャンパスを運用していた時とプラットフォーム作って動かすのとなんで同じ金かかるんだよ、と全く納得できなかった。そもそもカナダは基本学費を政府が税金で補填するのでカナダ国民にはかなり安く提供されている一方で、留学生はその4, 5倍の費用を払っているのだ。具体的に自分の場合だと、いちセメスターで9000ドル近く(70~80万円)はかかる。
まぁ今までフィジカルに働いていた従業員(例えば清掃員や図書館の職員など)にも補償しないといけなかったり、なんだかんだ金がかかるのは分かるが、金額が金額なだけに凄くフラストレーションが溜まった。政府からの補償も出てたろうに。
パンデミック下における金銭的なサポートについてはかなり言いたいことがあるので、余裕があれば別途まとめたいと思う。とりあえず国の留学生に対する扱いのひどさは、"カナダLOVE〜"だった自分にもかなり衝撃的だった。
そんな障害たちを飲み込みながらサマーセメスターを終える頃には夏真っ盛り。オンラインで続行されると通達があった、プログラム最後のセメスターまでの数週間、少しパンデミックの状況が落ち着いてきて規制も人の意識もゆるくなってきたこともあり、ビーチや公園で久々に友達と会ったり、アウトドアに遊んで過ごした。ちゃんと自習やポートフォリオの作成もしてたけども。
チャリで行けるところにあるビーチ
都内近郊にあるドライブイン形式の映画館
この頃にはレストランやバーなんかも屋外の席(パティオ)や屋内も一定数までは営業OKになったりして、なんとか日常を取り戻そうと商売も消費者もやっきになってたように思う。特にトロントというかカナダは元々冬が長く、活動的になれる時期が短いので、みんな夏をなんとか楽しもうとしていた。
しかしまぁ当たり前だけど、9月に入り自分の最後のセメスターが始まってからだんだんと感染者数も上がり始め、10月の後半にはロックダウンではないけどまた屋外営業が禁止され、映画館なども閉まり始めた。
自分はといえば結局学校が始まれば勉強に追われてしまってあまりそれ以外のことはできないので、そこまで生活に影響はなかった。ただ同居人がレイオフ(一時的な解雇)されたりして、状況が悪くなっているのは実感していた。
最後のセメスターはクラス数も多く内容も難しそうだったのでかなり身構えていたのだけど、確かに内容はヘビーだったけど、理論よりも実技のクラスが多く、個人的には比較的やりやすいセメスターだった。自分の受けていたソフトウェア・エンジニアリングのプログラムでは卒業プロジェクトとして、これまで学んだプロジェクトマネージメントの手法とプログラミングスキルでもって自分たちで企画してアプリを作ったりした。もうすでにバイトは諦めて、貯金を切り崩しながら勉強に集中すると決めていたので、莫大な量の課題もなんとかこなせられた。
このパンデミックで、当たり前だけど状況の不安定さや孤独感、未来への不安で精神的に落ち込んでしまう人たちが増えていくなかで、それにさらに学校からの重圧を抱え込む学生、特に異国の地で身よりのない?ままそれと戦わなくてはいけない留学生の精神は結構脆く、プログラム中に体調を崩したりドロップアウトしてしまうクラスメイトも少なくなかった。そういった状況を見て、自分でももちろんプレッシャーや不安を感じるなかで、自分にとって救いだったのはやはり映画というか、自分をリセットするスイッチみたいなものを持つことで、自分の場合はそれが映画を観ることだった。
あとは心理的にも少し考え方を変えたというか、いい意味で手を抜くというか気軽にやる、ということを覚えた。これ結構大事で、特にやはり日本というか東アジアの文化的なところで成績至上主義的な刷り込みがあるので、そこと意識的に一定の距離を保たないと辛くなってくる。結局就職する条件にオールA+なんてないし、成績良くて使えない(実践的でない)卒業生なんて掃いて捨てるほどいるだろう。というか、もう死ななきゃとりあえずOKだということは忘れてはいけない。自分は辛くなったら、まぁ学校ダメだったら最悪日本帰れば生活できるし、くらいに考えるように努めていた。ほんとは日本帰るのなんて死んでもごめんだけどね。
*一応自分のエゴのために言うと、それでも常に成績はよかったので負け惜しみではないです。気構えの話。
そうしてなんとか課題とプロジェクト、テストを乗り越え、3日前に最後の登校日?を迎えた。最終日とはいえ特に何もセレモニーや挨拶などはなく、テストを受けてzoomを退席して終了。そのせいかあまり達成感やエモーショナルな感情なんかは湧かず、少しだけボーッとした後にいつものようにキッチンへ昼食を用意しに出たのだった。
あとは来週に出る最終成績を確認して、それをもって審査されたのちに来月に送られてくる卒業証書を待つのみだ。
自分はこのままカナダに移住するつもりなので、PGWPという、公立のカレッジを出ることで発行されるオープンな就労ビザを取得して、それでもって就労経験などの移民に必要な条件を満たしていって永住権を申請する流れ。
なので次の壁は就職。日本と違い経験が最重視されるこちらの就活マーケットにおいて、自分の職種に近い就労経験がカナダではない自分は雇う側からしたら全然魅力のない人材な訳で、自分のやれることをどう提示していくかがまずは大きな課題。ひとまずポートフォリオを作って公開しつつ、そこにどんどん自習の結果を足してくとかかな。
あとは結局コネが一番強いみたいなので、ネットワーキングをしっかりやらないといけない。知り合いの繋がりそうなところにはざっと声をかけたけど、LinkedInとかSNS使ったりしてアピってかないといけないらしい。疲れそうだけどやるしかないか。
就活についてはせっかくなので、状況を何かしらで公開していきたい。YouTubeとかにアップしたら儲かるかな。とかヘラヘラ思っている。
もう12月も半ばで、この生活中ずっと続けていた散歩も防寒具なしでは辛くなり、気がつけば散歩道も木々の葉がすっかり枯れ落ちて見通しが良くなっていた。
すでに雪の日もそこまで珍しくなく、日が暮れるのは4時台だ。それでも晴れの日は空気が澄んでいて気持ちが良く、自分も含め人々は日光を求めて公園に出てくる。
最初にカナダに留学+ワーホリで来てから5年。帰国を挟んで改めて戻ってきてから1年半ちょい。いつのまにかカナダでの生活も合わせて3年を超えた。
いやはや、学校で英語はおろか勉強なんてまじめにやったことがなく、職場で海外からの電話に「お待ちください」が言えずなぜかとっさに「リピートアフターミー」とか言っていた自分がまさか海外の教育機関出るなんて、ちょっと言われても信じられないだろうな昔の自分。自分の意思と貯金があれば割となんでもできるもんだな。
永住をゴールとするとまだまだ先は長いけど、ようやくひとくぎりついたかなというところ。おそらく就活はある意味学生生活より厳しいものになると思うので、まだまだ辛いことがあるかもしれないけど、映画をちゃんと観て、生きてればOKの精神でなんとかやり切ろうと思う。
5年前、渡航したてで初めてダウンタウンに行った時の自分。
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