2020年に観た映画ベスト10
ワースト10に引き続きベスト10を。
今年は観た本数がいつもより100本程度多く、いい作品も多くてすごく悩んだんだけど、なるべく最近よりの、総合的に評価できる作品を優先してなんとか10本に絞った。全く言及しないには惜しい作品もたくさんあるので、最後に作品名だけでも載せておきたい。
*今年観た映画=2020上映の映画以外も含まれる
**個人の感想です
・ベスト10
ロッジ
シングルファザーの親子とその父親の彼女が訪れた別荘で、父親が離れてからに吹雪で外界と遮断されてしまった後に色々と奇怪なことが起こる、ヘレディタリー×シャイニングな怪作。
この監督コンビ、前作のグッドナイト・マミーもなかなか秀逸だったけどこれで一皮むけた感じ。そして描いてるものはほとんど地続きというか、家族というものの繋がりと子供の無垢な?悪意が今作でもテーマになってて、前作で描かれなかった側面を今作に持ってきてて、そのつもりで繋げて観ると色々面白かった。
音響を中心にかなり上手く演出された息苦しさは観ててかなり喉に詰まる感覚があり、ドラマティックに見せない分へレディタリーより重かったかもしれない。
ライリー・キーオの目の座った演技も今作で炸裂しててよかった。彼女の演技では一番かも。
ちなみにちょうどトロントの吹雪の日に観に行ったものだから、凍えながら映画館ついてほっとしたら映画のなかもずっと吹雪いてて死にそうになった。勝手に4DX。
・ベスト9
ポゼッサー
カナダの鬼才デヴィッド・クローネンバーグの息子であるブランドン・クローネンバーグの長編二作目。他人の意識を乗っ取って暗殺を行う機関のエージェントが、任務中のトラブルで乗っ取り先の人格に囚われてしまうSFホラー。
いやーここまで潔くクローネンバーグの血を受け入れて見せつけてくれるとこちらも気持ちがいい。特殊効果や映像、音響効果には大満足。キャスティングも満点。ブランドン・クローネンバーグは自分の撮りたいものと観客の求めてるものが完全に一致してて凄い。完全にフェチってるゴア描写も思わずニヤける不必要さ。
話はどこかで聞いたような要素の寄せ集めで全く新鮮味はないけど、この題材と彼のテイストが合いすぎてて新鮮に映る。
あとトロントの地元のロケーションが次々と出てきて嬉しくなる。
ちなみにこの映画は2回観に行ったんだけど、初回はトロントの映画館が次の日からまた閉鎖されちゃうってことで急遽滑り込みで近所の劇場に来たところ機械トラブルとかで始まらなくて、1時間待たされた挙句に今日はちょっと無理だわと追い出された。今日はって明日からやらないですよね。で諦めてたんだけど、トロントの外ならまだやってるってことで郊外までわざわざ足を伸ばして観に行った。どんだけ観たいんだよと自分でも面白くなったけど、そこまでした甲斐のある作品だった。
・ベスト8
ニュー・ミュータント
Xメンシリーズのスピンオフ作品。隔離病棟に囚われたティーンのミュータントたちが、そこで遭遇するさまざまな謎や怪奇現象から逃げたり立ち向かったりするホラー風味の青春映画。
かなり待たされてただけにちょっと不安だったけど、Xmenのアイデンティティをしっかり継承しつつ、よくまとまった青春SFホラーになってて、個人的には結構納得できる出来だった。
そもそもXメンってのはマイノリティの苦悩や差別を描いたシリーズで、社会から異常者のラベルを貼られた彼らが自身のアイデンティティや社会的地位をどう築いていくか、というのがテーマ。今回はそこをティーンエイジャーの成長に絡めて、自身の能力(人との違い=個性)によって間接的に自分を苦しめた若者たちが、大人からの矯正に負けず、自分自身と向き合う/自身に対する恐怖と向き合う、という結構ド直球な青春ものを、ホラーテイストでやっていくというなかなか興味深い内容だった。
正直ホラーとしてはかなり物足りないものの、ネイティブアメリカンをフィーチャーしてたり、同性愛を絡めたりのポリコレを嫌味なく取り入れつつ、印象的なセリフや分かりやすいメタファーなど結構伝わりやすさも重視してたり、なによりアニャ・テイラー=ジョイの近年まれに見る中二病ど真ん中キャラに萌えられたりと見所を詰め込みつつ、90分ちょいにまとめてスピーディに観られるお得感。特にアニャの中二ぶりがかなりリアルで、そういえば前にわざと英語になまり入れて話すイタいティーンの知り合いいた事を痛烈に思い出した。こっちでの中二あるあるなのかな。
とにかく現代の青春ものとしてかなり上手くできてる秀作だと感じた。
やはりXメンに当たりは少なくない。
ちなみにめちゃくちゃ見たかった訳でもないのに何年も公開を待たされ続け、無駄に期待値の上がってしまったこの作品、実はようやくチケット買って行った日に劇場で停電起きて一度帰されたのだった。こうなったらもう一生見られないんじゃないかと疑いつつ再挑戦してついに鑑賞が実現した時は感無量でした。
・ベスト7
タクシー運転⼿
実際に起きた韓国の歴史的な事件、光州事件を描いた作品。
すごいな韓国映画。民主化された時代の世代が現役だからというか、民主主義の恩恵というものを国民が実感してるからこそこういう映画が作れるしヒットするんだろう。その状況がすごい。
過去の独裁政権の批判と勝ち取った民主主義の大切さをどストレートに描いてて、こんなの日本では完全に作るのも無理だし観る人もいなさそう、と、作品が良かっただけに逆になんだか情けなくなってしまった。日本も昔はゴジラとか日本のいちばん長い日とかたくさん作れてたのになー。
作家性は結構低いので作品としての面白みはあまりないんだけど、その分ストレートに描かれたストーリーが刺さる。とはいえかなり盛り盛りな感じはあり、韓国映画らしいエモい展開があったりとフィクション要素も割とある。まぁ映画として楽しむ分にはあり。というか商業映画としてこの内容を描くにはそうするしかないんだろうけど。
・ベスト6
ヤング≒アダルト
中年の女性ゴーストライターが故郷のパーティに呼ばれて色々イタいことをする、自分探し系”ホラー”映画。
今年ハマった監督のひとりにジェイソン・ライトマンがいる。これはそのキッカケになった作品。主人公が色々と勘違いなイタい人間で、彼女の痛々しい行動をコメディタッチで描いてるんだけど、破壊力が凄すぎて観てる間ずっと刃物で切りつけられてるようだった。こういうやついる〜みたいに笑ってられるうちはまだいいんだけど、完全に他人事じゃないところがまた危険で、だんだん彼女の気持ちも分かってしまうし心当たりのあるところも出てきてしまって、まるで自分の一番醜いところを映画にして見せつけられてるようで思わず観てる間身をよじってしまった。
監督の作品は前にも数本観てたけどそこまでハマらなくて、これで衝撃を受けてその後他のも観たり見返したりしたけど、どうやら30過ぎて分かってくるような作風だったようだ。それもその年代の未熟なところをぶっ刺してくるような凶器的作品たちばかりだということにも気づいた。
・ベスト5
バーニング
村上春樹の短編に発想を得た、韓国の巨匠イ・チャンドンのヒューマンドラマ。
初イ・チャンドンだったけどこれは確かに凄い。しっかりとした感想を言うのが難しい作品なのでとりあえず観てもらった方が早いんだけど、全てが最初のパントマイムのように、存在しない幻を掴むような話。姿の見えない猫や焼かれたはずのビニールハウス、失踪した彼女から果ては主人公自身のアイデンティティまで、見えるものと見えないものの境をひたすら行き来する。
「そこにそれがない事を忘れる」ことでようやくこの映画は理解できるのかもしれない。
どのシーンも抽象的で印象深かったけど、特に陽が沈むまでの一連のシーケンスは映画として今まで見たことなくてかなり良かった。不穏だし美しい。
主演三人の演技も素晴らしかった。
・ベスト4
はちどり
今年話題をさらった新人監督による半自伝的作品。高度成長期の韓国で、時代のうねりにとともに成長していくひとりの少女の物語。
高評価も納得の上質なドラマ。社会と少女の世界の距離感がめちゃくちゃ上手くて、ものすごくリアルで驚いた。
丁寧に社会を個人の視点から描いていて、当時の韓国を形作ったいろんな出来事が描かれてるけど、あの事件まではそれはどこか彼女のリアルな世界とは離れていて、直接的にそれらの影響を受けることはない、少なくとも受けている実感はないように描かれている。そこからのあの事件で急にそれらのどこか遠かった社会というものが彼女に人生に入ってくる、その展開というか距離感が絶妙。始終描かれていた家父長制や女性差別(不平等さ)、男性への社会的重圧なども結局は社会が個人へ押し付けてきたものだし、社会と個人との切れない関係性を、少女がそれに気づくという過程を持って観客へ伝えてくる、その伝え方の丁寧さに唸らせられた。
こんなに社会性のある個人のドラマは初めてかも。主演の子の演技もうますぎて逆に素人なのかと思ったし、いろんなものが上質で良い映画だった。最近の韓国映画は国をあげて後援してるせいもあるのかほんとに勢いが止まらないな。
余談だけど先日友達と話してて、最近リベラルの中でやたら韓国映画が持て囃されてるみたいな話を聞いたけど、気がつけばしっかり韓国映画がここにも3本ランクイン。おそらく友達の危惧してるところは日本に対する批判の道具としての安易な韓国映画のヨイショということで、それは普段日本の悪口ばかり言ってる自分も気をつけなきゃなって感じではあるんだけど、それにしてもワーストで言及した邦画たちの残念さと最近の韓国映画の質の良さはどうしても比べてしまう。
・ベスト3
燃ゆる女の肖像
18世紀のフランスを舞台に描かれる、女流画家と良家の娘の愛を描くドラマ。
ここ最近観てきた恋愛映画、クィア映画、女性を描いた映画としては間違いなくトップのひとつ。
燃ゆる女とはよく言ったもので、ドラマティックな演出を極力控えた(出すとこは出すからより効果的)静かな空気が登場人物の息遣い、表情、身体の動きなどを際立たせて、その感情の起伏がまさに炎のように燃えていくのが画面から伝わってくる。特に音響がすごくて、常にそれぞれの息遣いが聞こえてたり、環境音がかなり鮮明に描かれてたり、音楽の代わりに音響がその場面の空気をコントロールしてて面白かった。
詳細に描かれる生活様式や絵画制作の過程なんかもとても丁寧で作品にリアリティを与えてたし、こういう地味というか主張しないところでのクオリティがこの作品の完成度に大きく貢献してると思った。もちろん主演二人の、抑えつけられた感情を体現する演技は秀逸の一言。
劇中に出てくる神話のオルフェウスは振り返ることで愛する人を永遠に失ってしまい、この映画の主人公も振り返ることで抗えない現実を認知してしまうのだけど、そこからのラストのシーケンスで交わされる(言葉通りに交わされてはいないけど)コミュニケーションというか弔いは、描いてる内容自体はベタベタながらもめちゃくちゃに美しくて、まさに炎の揺らめきのような熱さと儚さを映し出していた。
・ベスト2
アイスと雨音
中止になった舞台をめぐる、次元の壁を破壊するワンカットのメタ青春ドラマ。
パンデミック下でYouTubeで開催されてたオンライン映画祭で、全く情報知らずに適当に観てみたら、面白過ぎて呆気に取られ、エンドロールの間しばらく動けなかった。
知らない間に日本にこんな奇跡みたいな映画が生まれてたなんて。トリアーのドッグヴィルをアップデートしたような映画と舞台の壁を破壊するメタ構造にライブ(音楽)の次元が加わり、さらにワンカットの技巧と緊張感が合わさって今までの人生で経験した事ない映画の体験になってる。
舞台の世界をベースにしてるのでかなりエモくて、舞台独特の厨二感がちょっと痛々しいけど、そのエネルギーがこの映画のテーマと手法にがっちりハマってる。
少年少女たちの演技も凄いし、密室ワンカットで充分すごいところを飛び出して、見てるこっちが心臓痛くなるような野外撮影までやってしまう製作陣の気合いも熱い。
サイタマノラッパー3の数倍面白くて、カメラを止めるなの100倍面白い。
こんなすごい作品知らない人が居ちゃダメだ。とりあえず日本人みんな見ろ。
・ベスト1
ザ・ファイブ・ブラッズ
世紀の巨匠スパイク・リーの最新作にして個人的に最高傑作。ベトナム戦争の帰還兵たちが、戦地に残された金塊と戦友の亡骸を目指して巡礼していく。
告白すると、彼の作品は今年に入るまで観たことがなかった。観るのに膨大なバックグラウンドの知識と気力、体力が必要そうで、正直言って少し敬遠してた。ただ、今年のBLM運動に伴ってやはりここで観ないでいつ観るって感じだったのと、カナダのシネコンCineplexがBLMを応援して、黒人問題についての映画を無料で公開していたのがきっかけでついにドゥ・ザ・ライト・シングを観たのが最初。それから続けて彼の監督作を観ていった先にこの作品があった。ほんとはもう今年観た彼の全作ランクに入れたいくらいどれも物凄かったんだけど、代表として一番尋常じゃなかったこの作品を選ばせてもらった。
分かり切ったことなんだが、やっぱりスパイク・リーは凄い。彼の作品を観る度に圧倒されるこのパワー。皮肉だけど彼のエンジンである黒人差別についての怒りがいつまで経っても枯渇するどころか、むしろ近年の警官による暴力やトランプ政権の元で勢いを増してきた白人至上主義勢力など、さらにどんどんガソリンが追加されてしまっているという状況。そうしてできた今作は、BLM運動が最高潮に達した2020年にタイミングを合わせたように公開され、しまいには主演のひとりで役としても殉職してしまったチャドウィック・ボーズマンの死までついてきたいろいろと普通じゃない作品。映画の中でも次元の壁を越えてスクリーンの向こうから訴えかけてくるシーケンスがあったけど、ほんとに映画のパワーがスクリーンから溢れ出て現実とリンクしているような感覚に陥る。
そして善悪二元論になりがちな黒人差別問題についても相変わらず層が深すぎるし、ベトナム戦争においてのアメリカの立場、そのなかでの黒人の立場、戦地であるベトナムとの関係、フランスとの関係、ベトナムの戦後の状況、戦争の遺産(遺骨、地雷、土壌汚染、孤児、現地人と兵隊との子供たち、PTSD)など目が回るような情報の濁流。むしろこれで2時間半もないんですか?
彼の映画の個人的に面白いなと思うところは、あれだけ反則技のような触接的なセリフ、映像などを使いまくって、もはやプロパガンダのような強烈なメッセージを映画にこめているのに、なぜか観てて引かないというか、拒否反応が出ないところだ。もちろん主張の真っ当さや問題の根深さ、しっかり多面的なところなどが他の啓発的な映画たちとの差になってるのは分かるけど、結構本来苦手なノリなのにいつも引き込まれてしまうのは毎回ほんとにすごいなと思わされる。
一点、フランスを取り上げておいて意外と日本についてはそこまでつっこまないのね、と思ったけど、あくまでベトナム戦争にフォーカスしてるからWW2中含めそれ以前とは切り離してるのかな。
以上。ちなみに今年は結構ドキュメンタリーも観たのだけど、あまりに凄惨な世界の状況を描いた作品たちはもはや評価とかしてる場合じゃないと言う気分になってしまって、ランクからは外させてもらった。作品で言うとラッカは静かに虐殺されているや娘は戦場で生まれたなど。これらの作品を観た後は、ああいう惨状が起こってることを知った後に日常をどう過ごしたらいいのか分からなくなってしまって怖かった。
あとは、オンラインの映画祭でチケットを買った、日本が誇る大林宣彦の遺作、海辺の映画館―キネマの玉手箱も、オンラインの分かりにくいシステムのせいで途中で時間切れとなってしまい、最後まで鑑賞できなかったのでランクからは除外した。途中まで観たところで言うとめちゃくちゃに素晴らしくて泣きそうだったんだけど。いつかちゃんと観られるチャンスがくることを願う。
さて、今年は世界がパンデミックで映画みたいになってしまって現実味のない一年だったけど、本数増えたのものあるけどいつも以上に面白い映画にたくさん出会えたような気がする。そのおかげか、この混沌とした状況においてもそこまでストレスなく過ごせた。映画すごい。
まだしばらくこの状況は続くと思うので、2021年も肩の力を抜いて、映画を観ながら楽しく生き抜こうと思う。
では最後に、かなり面白かったけど断腸の思いでランクから外した秀作たちを紹介しつつこの記事を終えたい。
いやしかしいつも以上に長くなっちゃったな。最後まで読んでもらってありがとうございました。
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