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昨年(2019)の4月に、以前少し住んでいたカナダのトロントに出戻りしてから早1年が経とうとしている。

思いがけずCOVID-19の影響で先週から鎖国状態、自宅謹慎となり時間ができたので、この機にこれまでのカナダ生活を振り返ってみようかと思う。


2016年末に日本に帰ってから約2年半ぶりのカナダだった。

運良く拾ってもらったいい会社での仕事と安定した生活、うまい食べ物でもってダラダラと過ごせていた日本を離れるのに心残りがなかった訳ではないけど、自然災害の多さ、暑すぎる夏、クソみたいな国民性に耐えられなかったのと、長い目で見てどう考えても日本がこれから経済的にも文化的にも衰退していくのは明らかだったので、それに巻き込まれたくないというのが理屈で、それとは別に単純にカナダの日常の中で受けるダメージ、フラストレーションが少ないライフスタイルが恋しかったというのが感情的な理由としてあった。

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日本に帰ってる間にまとめていたマインドマップ。


とはいえ勝手の知れた日本の生活のなかで、時の流れとともにカナダへの帰国への情熱は薄れていき、「目標」が「理想」に変わっていくのを肌に感じながら、それでもほとんど意地と惰性で移住について相談したり、英語の勉強を続けていた。

そんな意地にのせられて2018年の末に受けたIELTSという英語の試験の点数が、国立のカレッジに入れるギリギリのレベル*だったことをきっかけに、試験結果を受け取ってからダッシュで2019年の年始にかけて色々と具体的に話を進めた。

*正確に言うと、カレッジ直で入学するには少し足りず、準備コースを受けて十分な成績を出すという条件付きだった。

正直なところ、この試験の結果が全然ダメだったらもう諦めるかという気持ちもあった。ので逆にこうなったら行くしかないなと思ったのだった。


2019年、年明けにビザなど諸々の手続きを終えて、4月の後半に渡航。散々まわりに好物のアピールをしていたこともあり、渡航前ひと月くらいの間ほぼ毎日明太子を食べていたせいで頻尿ぎみになり、体調もすぐれないままの渡航となった。


ちなみに今回初めてデトロイト経由だったのだけど、乗り継ぎ時間が確実に足りなくて、果たして無事につけるのか不安だった。結果的には必死でコンコースを走り抜け、職員に裏道を教えてもらって列をスキップしたりしてなんと45分で乗り継ぎという新記録。そして無事懐かしのトロントへ。


自分の中では割と晴れてさわやか(夏)なイメージだったのだけど、日本かってくらいついてから数ヶ月はしばらくずっと雨続きだった。友達のカナディアンからもこれだけ雨が続くのは珍しいと言われた。天気にかなり気分を左右されるので、久々のトロントを懐かしみつつも、しばらくはなんだか陰鬱とした気分だった。

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霧の立ち込めるトロントのダウンタウン


最初に入学したカレッジ準備コースの学校はトロントでも一番厳しいと評判の学校で、入れられたクラスはそのコースのヘッドティーチャーのクラスだった。

性根が自堕落なので、厳しいとこ入るくらいじゃないとな〜と気軽に選んだのだが、これが想像をこえるハードさで、在学期間の3ヶ月は心を折られっぱなしだった。

カレッジの準備とは:論文のフォーマット覚えたり、レポートの書き方覚えたりという所謂アカデミックライティングを勉強したり、プレゼンテーションやセミナーをやったり。あとはカナダの教育システムを理解してそれになじむ訓練という感じ。日本のノリで受講、勉強してると噛み合わないので。

五日でエッセイ書きつつ毎日国連のレポート読んでプレゼンしたりとか、普通に日本語でやってもハードル高そうな内容を次々ぶっこまれ、あれ、これ物理的に辻褄が合わないぞ、みたいな場面もたくさん経験した。

寝る時間はどんどん短くなり、それに反比例して効率は悪くなり、自主的に復習する暇などもちろんなく、はたしてこれ無事卒業できんのか?と毎晩不安になりながら朝を迎えていた。

渡航時の予定だと働きながら学校に通う流れだったのだけど、とてもじゃないけどそんな余裕などなかったので、大人しく学業に専念することにした。幸い金の蓄えも一応あったし、生活もこれだけ勉強ばかりだと使うこともあまりないのでちょうどよかった。

プログラムも終盤に差し掛かる頃にはようやく天気も夏らしくなり、恋しかった湿度の低いカラッとした晴れの日が続いていたのだけど、いかんせん勉強につぐ勉強だったので、平日はもちろん週末もなかなか出かけられない憂鬱な日々を過ごしていた。

それでもその合間をぬって、たまに地元の友達とライブ(という名のジャムセッション)をしたり、映画を観に行ったりしてなんとかガス抜きをしていた。

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公園で適当に開催されたホームメイドライブ

ちなみにこちらの映画の料金は日本より断然安く、日本円で安い日には650円程度で観れる。それでも前住んでた時より値上がりしていた。地価の爆上がり、最低賃金の上昇に伴って、以前よりもいろいろなものの値段が上がっていて少し痛手だった。


そんなこんなで7月後半になんとか準備コースを卒業。人生でほぼ初めてといっていいほどマトモな勉強をしてすっかり痩せ細った心と身体を引きずって、カナダの夏を満喫、するのではなく、彼女のいる韓国へ渡航。カレッジが始まるまでひと月弱の夏休みを、ソウルでヒモをして過ごすことにしたのだった。

ようやく東京の湿った地獄の釜のような夏から逃れられたと思ったら、ソウルもほぼ東京と同じような気候で、滞在中ほぼ毎日体感温度40度越えという罠。潔癖症で汗をかくのが本当に嫌なので、毎日が本当に辛かった。ただ、暑さを除けば、比較的馴染みのある味の安くてうまいご飯やチップのいらないいいサービスを楽しめたし、何より迫りくる課題から開放されて遊び呆けるのは極楽だった。

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こんな日が毎日

とはいえ韓国語でマトモに挨拶もできないので、自分ひとりでは自由に遊びに行けるわけでもなく、平日彼女が仕事に行ってる間は近所の図書館で、カレッジの始まる前のアセスメントテストの予習をして割と地味に過ごしていた。

ちなみに準備コース卒業のお墨付きをもらってるので入学できるのは保証されてるんだが、改めてカレッジのレベル査定(アセスメント)テストみたいなものを受けて、受講するプログラムの基準値を越えないといけない。パスできないと追加のクラスを取らなければいけなくなり、いちクラス10万円近くかかってしまう。というかそもそも追加のクラスをこなせるほど要領も良くないので、確実にパスしないといけないのだった。


毎日いろんなうまいものを食べさせてもらったり遊んでるうちにあっという間に休みは終わってしまい、後ろ髪を引かれつつも乾いた夏にワクワクしながら8月中旬にカナダへ帰国。9時過ぎまで日の沈まない、汗をかかない最高な日々を遊んで過ごしながら試験を受けなんとか合格(苦手な数学はあと一問で落ちるところだった)。少しだけ涼しくなってきた9月に無事カレッジがスタート。

カレッジはもちろんいろんな人に聞いていた通り、次々出てくるクイズや課題に毎日追われる毎日だったんだけども、準備コースほどむちゃくちゃなペースではなかったのでそこまでパニックにならずに取り組むことができた。

選んだカレッジのキャンパスはScarboroughという、トロントの東隣に位置するド田舎にある。そことトロントのダウンタウンの中間にある自宅からカレッジへの往復をする毎日を送っていると、トロントに住んでる感じがしなくてすぐ退屈してしまうので、なるべく週末はダウンタウンに行って友達と遊んだり、映画や音楽イベントを楽しむようにしていた。

トロントのいいところは、文化的なイベントにあまり金がかからないこと。まぁ東京と比較しての話ではあるんだけど。こちらは食費や家賃などの生活費が高いかわりに、そういった文化イベントは安くすませられるので、自分のようなライフスタイルを送っていると実は東京より全然安くすませられる。

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お気に入りのローカルシアター。毎週金曜にマイナーなホラー映画をフリー上映してくれる。


カレッジのプログラムはソフトウェア・エンジニアリング。前の職がウェブディレクターで、自分自身は技術職ではなかったけど曲がりなりにもITの仕事をしていて知識は最低限あったのと、一緒に働いていたデベロッパーの人たちの魔法使いのような仕事に憧れを抱いたのと、将来に希望の持てる職につきたいという動機があった。

プログラミング自体は思ったより楽しめた。今や副業に成り下がったDTM作曲と割と似た感触があって、手を動かして何か形のあるもの(実態という意味でなく)を作るのは満足感があった。

逆に、ソフトウェア開発理論みたいな読み物、概念系のクラスは英語のレベルが高く、いまだに読解力に難ありの自分としてはペースが遅れがちになってしまい、なかなか思ったように勉強ができなかった。そもそも日本語でもよく分からなかったと思うけど。

そんなこんなであっという間に秋が過ぎ、日照時間は日に日に短くなり、サマータイムが終わる11月にはもう雪が降り始め、すっかり冬になってしまった。韓国で買ってもらったイモムシのようなダウンジャケットなしでは過ごせなくなった12月初頭に最初の期末テスト期間があり、それをなんとかやっつけて一学期が終了。

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初雪の朝。11月初め。


冬になってからのカナダはとにかく寒いし日も短いのでやることがない。勉強に集中するにはいいかもしれないが、精神的に不健康なのでやはりなるべく週末は遊びに行くようにしていた。

トロントは終電後もバスが主要な道はカバーしていて、実質24時間交通機関がまわっている。いちいち説明するのも面倒なのではぶくけど、(マトモな)クラブカルチャーが好きな自分としてはありがたいことこの上ない交通事情だった。しかしタイミングを逃すと、極寒の深夜に路上で30分バスを待ったりするので命が危険。気温がマイナス10度台に入った頃にはクラブ巡りも諦めるようになった。

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ダウンタウンのクラブ。東京より数は全然だけどいくつかいい音楽の聴けるクラブがある。


気がつけば2019年も終わりだった。息をつく暇もなく2020年。

カレッジの休みの合間に、小遣い稼ぎにUber Eatsを始めた。まさに底辺って感じの肉体労働だけど、マトモにスケジュールを立てられない学生の、空いた時間の有効利用としてはこの上なくハマる仕事だった。特に年末は時給のレートが高かったので、週に数回、一回につき2, 3時間ほど働いて、ひと月分の家賃は余裕で貯められた。


年明けから始まったセカンド・セメスター(2学期目)は急にハードになった。というのも、インターナショナル生として必修の英語のクラスを追加で取らないといけなかったり、他のクラスの内容もグッと複雑になったりで自習する時間がこれまで以上に必要になったからだ。さらに、軽い気持ちで始めたトロント大学のスタートアップのインターンにも時間を割かなくてはいけなくて、かなりキャパを圧迫する毎日になってしまっていた。


幸い?インターンの動きが鈍かったので、そちらはしばらくしてから休むことにして、カレッジに集中することにした。

毎日のように降る雪にうんざりさせられながら、カレッジの図書館に缶詰になりつつようやく中間テストを突破。ようやく一息ついて後半も生き抜くぞ、

というところでやってきたCOVID-19。日本の意図的としか思えない反応の鈍さとは裏腹に、カナダは感染数も少ないうちから国境も封鎖。生活必需品を売る店やテイクアウトの飲食店以外はどこもかしこも完全に閉店してしまい、国民も基本的には自宅待機というかなりシリアスな状況になってしまった。

カレッジももちろん休校で、どうやらオンラインに移行して今学期はそのままやりぬく予定のようだ。この辺の対応力はさすがというか。

これを書いている今は休校期間の最終日で、明日からオンラインでの授業が始まるというタイミング。はてさてどうなることやら。

自宅篭城が始まってからのこの一週間は退屈も退屈で、勉強もなかなか身が入らず、久々に映画を観まくってしまった。天気の良い日にはちょっと散歩に出たりしたけど、やっぱりまわりの人の雰囲気が心なしかピリピリしていて疲れてしまった。


鎖国の影響はものすごく、この4月にワーホリで渡航予定だった友達も、鎖国によりキャンセルせざるを得なくなったりで気の毒。そして心配なのはローカルの店たち。ただでさえ地価が上がってどんどん地元の店が閉店していってるのに、ここにきてのこの閉鎖は下手したらほとんどのローカルビジネスを一掃してしまうんじゃないだろうか。今後住むはずの街から文化がなくなり、タワマンとチェーン店だけの街になってしまうのは見るに耐えない。政府も補償を計画しているようだけど、どれくらいの助けになるのやら。


そして実はこの最悪のタイミングで風邪を引いてしまっていた。実際には学校の閉鎖される一週間前くらいだったのだけど、少し熱っぽいな、と思っていたら咳が出始め、心配ですぐに学校のクリニックで診察を受けた。ここでようやくマスクを入手(どこにも売ってない)。とりあえずと適当に出された薬を飲んだら一瞬で熱が下がり、逆に恐怖を覚える。

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洋画でよく見ていた憧れ?のピルケースに入ったドラッグ

一応出された分飲み切るかとそのまま服用していたところ、薬が相当強かったようでアレルギー反応が出てしまい全身に湿疹ができる。さらに精神にまで影響を及ぼし始め、すっかり風邪の症状が治った頃になぜか急に自分がコロナでもうすぐ死ぬという妄想でパニックを起こしてしまう。ハウスメイトの助言を受けて薬をやめてみたところ、湿疹もパニックもすぐに落ち着いた。

しかし慣れないことはするもんじゃない。カナダに来てからずっと病気もせず健康体でやってきて、このタイミングで風邪をひいてしまいすっかり動揺させられてしまった。熱が出てからは大事をとって予定も全てキャンセルして自宅に篭っていたのだけど、もしコロナだったらどうしようとひとりで不安になり、どんどんネガティブの沼にはまっていっていた。



うん。

そんなこんなであっという間の1年だった。これまでの人生のなかでも間違いなく濃密な期間だったと思う。これからやってくる今後の学生生活、就活はもちろんだけど、このウイルス騒動がどんなふうに今後の自分のカナダ生活に影響を及ぼしてくるのか心配、というかある程度予測して動くしかないけど、なんとかやっていこうと思う。




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