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監督インタビュー【音声ガイド制作者の視点から】映画「百年と希望」西原孝至監督へ

6月18日公開、絶賛全国上映中の映画『百年と希望』は『UDCast』方式による視覚障害者用音声ガイド、聴覚障害者用日本語字幕に対応したバリアフリー版の上映を実施します。Palabraは、この音声ガイドと字幕を制作しました。

mini百年と希望_メインビジュアル
映画『百年と希望』ポスタービジュアル


西原孝至(にしはら・たかし)監督にとって今回、「もうろうをいきる」に続いて、2回目のバリアフリー版の制作でした。
前回もご一緒した音声ガイド制作者 松田高加子(まつだ・たかこ)が西原監督にインタビューしました。

こちらのnoteもチェックしてみてください。

映画「百年と希望」 西原孝至監督 音声ガイド制作者からのインタビュー


松田:西原監督にとって音声ガイドとはどんなものですか?

西原:はじめ、「もうろうをいきる」の時、映画は目で見て耳で聞くメディアと思っていましたが、それでは届かない人がいることを知りました。
障害のあるなしに関わらずより多くの人に観てもらえる可能性を痛感しました。
ただ、予算感によって作りたいけれどお金がない、という身もふたもない話が正直なところあって、今回はその予算を確保したうえで作れたのでよかったです。

松田:「もうろうをいきる」の時は、音声ガイドのベース原稿は、西原監督ご自身が書かれました。
今回は松田がまるっと書いたわけですが、何か違いは見出しましたか?

西原:「もうろうをいきる」のときは、振り返ると、まわりにそそのかされて書いたみたいなところがあったんですね。
色々な意味でチャレンジな映画だから、監督自身が音声ガイドを書いたらいいと言われた。僕もやったことないからよくわからず引き受けた。
音声ガイドはどうしても、限られた「尺」の中に詰め込むようなところがあるので、慣れている人に言葉の選択をしてもらう方がいいですね。
松田さんは長年の経験で目が見えない方が想像しやすい言葉を使っていますし、皆さんも、パラブラにお願いしたらいいと思います。

松田:あ、さりげなく(?)宣伝のお手伝いしてくださってありがとうございます!

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松田:そして、今回も「もうろうをいきる」に引き続き、音声ガイドのナレーションを西原監督ご自身が担当されました。
これはどういう経緯でしょうか?

西原:『もうろうをいきる』の時に、「監督の視点でのナレーションが入ると、一緒に映画をみている感覚になる」という声を頂き、とても嬉しかったので、今回も自分がやる事で少しでも喜んで頂ける方がいればと思い、担当しました。

松田:映画というものは、言葉にする代わりに映像化しているものだから、私が書いてもいいのだろうか?と常に迷っているわけですが、例えば、池川さんの駅前の演説の場面などは、言っていただいてはっきりしました。
はじめ、私はなるべく池川さんの演説を聞かせないといけないから、合間の映像は諦めるか、くらいの気持ちでした。
そこに監督から、池川さんにじゃれついている次男をお母さんが引き離していることを入れたほうが面白いかな、と思っています、とご指摘をいただいてハッとしました。
そうだ、それでいいんだ、と。
音声ガイド書きとしては、マニュアル的に、本編の人が話しているのを邪魔しちゃいけないと思ってしまっていましたが、よく考えれば、この作品全体が必ずしも共産党の主張を隅々まで聞かせようとする作りではないので、そこに映っていて私自身が目撃しているものを書かないといけなかったよな、と。
つまり、初見の時、お父さんの演説の傍らでお母さんと幼い息子のやり取りにほのぼのした気持ちになっていたことを伝えるべきだったと。

西原:政治と日常がごちゃまぜになっている感じが面白いと思ったんですよね。その感じが音声ガイドでもでたらいいなと思ったので。

***
松田:「もうろうをいきる」の時の西原監督が書いた原稿に松田がいろいろ言うのは意外とよかったと思いました。

西原:音声ガイドは共同作業だと思うので、音声ガイド制作者が書くところと、監督が面白いなって撮ったところかならずしも一致しなくてもいいと思う。どっちが先に書くにしろ、キャッチボールしながら、音声ガイドの質が高まっていくと思うので。

*松田より補足*
「百年と希望」の音声ガイドは、視覚を使って見れば明確に場所の名称など分からなくても、引っかからない部分にも、
原稿を書き起こそうとすると、最終的に音声ガイドとして読み上げないとしても、事実として登場人物がインタビューを受けている場所や、デモが繰り広げられている場所を確認しなくてはいけなかったため、事前に西原監督とオンラインで、確認作業をさせていただいた上で、モニター検討会を開いたため、精度の高い進め方ができました。


*****

松田:米田星慧 (よねだせいえ)さんの髪型の説明で、監督がおもしろいって笑われて、「あ、違ったかな」と思ったんですが。

西原:いえ、単純に、「あ、そこを拾うんだ」っていう面白さだったんです。
話している内容を聞くと、どういうキャラなのか外見も気になるなあってあの文章を観たときに思いました。
米田さんのキャラクターが伝わる原稿だと思いました。自分で書いていたら、米田さんの外見ではなく、駅前の風景を書きそうです。

松田:服装についての音声ガイドに関しては、劇映画の場合は設定上の服装だから、伝えると人物像がより立体的になりますし、ドキュメンタリーだとその人ご自身が選んで着ている服なのでそこから伝わることもあると感じています。

松田:服装の話で言うと、60年もの間、党員として活動を続けていらっしゃる木村勞(きむら・つとむ)さんがアルバムを見ているところで、シャツの説明を入れたら、監督にその通りだと思います、ておっしゃってくださいました。

西原:よかったんじゃないですかね。まさに60年くじけず続けてきたキャラクターが(意識はしてなかったけれど)シャツの説明によって繋がりました。

松田:私が沢山褒められるように誘導していますが(笑)
今回も、視覚障害モニターさんを交えて、原稿を検討するモニター会がありましたが、「ツーブロック」という言葉を知らないと言われましたね。あまり説明できる尺はなかったのですが、「髪型のこと」と音声ガイドを入れました。これは、音声ガイド的な「視覚的情報」というより、補足説明、という感じですね。

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松田:これは私自身の感想ですが、初見で観終わった時、フラットに知れることが沢山あってよかったと思いました。
ドキュメンタリー映画なので、膨大な映像素材の中から繋ぎ合わせていると思うのですが、監督自身の頭の中はどんな作業なのでしょうか?

西原:最初はあまり構成考えずにおもしろいなと思うシーンを撮りためているんですね。
ある程度たまっているのを見て、もうちょっとこういうシーンがあったらおもしろいな、と言ってどんどんどんどんためていって、そこから構成しますね。OKカットを抜いていき、登場人物が何人かいるので、それぞれのブロックを作って、どっちが先かなど考えながら作っていきます。

松田:どなたに撮影をお願いしてどういったシーンを撮るかというのは偶然?

西原:撮影をすればするほど、対象者と仲良くなるので関係性をうまく築きながら、ですね。
(西原監督自身が)こういう人だってわからないといきなり話してくれないでしょうし。

***
松田:「しんぶん赤旗」内部のことも、出てきて興味深かったです。

西原:共産党の機関紙なので、共産党の考えを広めていくが第一義ですが、権力を監視する、根幹のところは意識として持っていると思いました。

松田:Twitterのトレンドに入ったこと気にしているのがおもしろかった。

西原:志位委員長の写真を選ぶ様子なんかは人間っぽくていいなと思って。

松田:広告のスポンサーに忖度しない分、時事をフラットに書けるのは今の時代には貴重ですよね。でも、圧倒的に男性編集者が多かったですね。

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松田:公明党の候補者が萩生田(はぎうだ)大臣の隣でアンパンマンみたいに両手突き上げてご自身をアピールされていて、何か滑稽なものを見るような気持ちになっていたのですが、当選した後に駅前で、のお一人で頭を下げているのを見て、彼なりの正義を全うしているのだよな、というところもよかったです。

西原:各党それぞれ訴えとか考え方違うけど、撮影するアプローチとしては、どの党に対しても変えたくないというのがあって、共産党はいい人に、公明党は悪者に、とかは描きたくなかったんですよね。

松田:単なる映画鑑賞者の一人としては、誰かに肩入れするタイプのドキュメンタリー映画、それはそれで楽しめる部分はありますけど、今回は、はい、西原監督が飄々と切り取ったものを見せてくれているというように感じました。

西原:バリアフリー字幕のモニター検討会では聴覚障害モニターのチェックバックのコメントに、共産党の演説は普段聞いたことがないので、という声がありました。それを聞いた時にやってよかったなと思いました。

松田:私自身も、共産党ののぼりがあるだけで耳を閉じるようなところがあったので、同じかもしれません。
この映画のお蔭できちんと聞く機会を持てたことは大きかったです。

***
松田:今回は映画館での上映で、日本語字幕付きの回が多めのようですか、それは何故ですか?

西原:内々で開催されたバリアフリーに関する研修会に、公開する映画館、配給、プロデューサーと参加した後、皆で相談して決めました。

この研修の様子はこちらの記事で紹介しています。
ぜひチェックしてみてください。



インタビュー後の松田の呟き

音声ガイドの中に、「旗の隅に、家父長制を批判する言葉。」 という説明があります。 これは実際には、寄せ書きされている旗の中に 「fuck!家父長制」と書かれているものなのですが、 今回はナレーターが監督をしている西原さんご自身だったので、 言葉でそれを発するとまた違うニュアンスを持つように感じました。 それで、私が初見の時に強く批判してるなぁ、 と感じたのでそちらの言葉を採用しました。 普通のナレーターさんに頼んでいたらそのまま読んでもらったのかもしれませんが… このスペースをお借りして、そっとお伝えしておきます。

映画「百年と希望」音声ガイド付きで観るには

音声ガイド
『UDCast』アプリをインストールしたスマートフォン等の携帯端末に、作品のデータをダウンロードして、イヤホンを接続してお持ちいただければ、全ての上映劇場、上映回でご利用いただけます。
日本語字幕
全劇場バリアフリー字幕付き(一部の回を除く)
字幕付きでない上映回では、『UDCast』アプリをインストールした字幕表示用のメガネ型端末に、作品のデータをダウンロードして、専用マイクを付けてお持ちいただければご利用いただけます。
また、スマートフォン等の携帯端末用にも字幕を提供しております。対応劇場を事前にご確認のうえご利用ください。
ご利用の際は、画面の点灯等により、他のお客さまの鑑賞の妨げにならないようにご注意ください。

【キャスト・スタッフ】
監督・撮影・編集:西原孝至
プロデューサー:増渕愛子
録音・整音:川上拓也
録音:黄永昌
音楽:篠田ミル

【イントロダクション】
2022年7月15日に創立百周年を迎える日本共産党。経済最優先の新自由主義をおし進める自由民主党が長く政権を担う日本において、左派政党として独自の立ち位置を貫いてきた。
コロナ禍が続く2021年、本作は日本共産党の99年目の姿にカメラを向ける。夏の東京都議会議員選挙、秋の衆議院総選挙にのぞむ議員たちの活動をはじめ、入党から60年を超える古参の党員、共産党の機関紙である「しんぶん赤旗」編集部、若い世代の支援者、そして党の周りの人々をカメラは追う。東京オリンピック・パラリンピックが反対世論もある中で開催され、その一方繰り返される事業者への休業要請、市民へ自粛を求める風潮に、社会の分断は一層進んでしまった。自己責任、自助努力という言葉が頻繁に飛び交うなか、あるべき政治の役割とは何なのか、いまほど問われているときはないであろう。
本作の監督を務めるのは『わたしの自由について〜SEALDs 2015〜』の西原孝至。2010年代から日本の社会運動を撮り続けてきた西原監督は、人々や風景の中にカメラを構え、声を聞き、時に語りかけ、静かに被写体を見つめていく。経済格差、ジェンダー平等、気候危機…この国の数多くの課題に対して、政治は何ができるのか。そして日本共産党の姿を通して、いまの日本社会が浮き彫りになっていく…。
世界的に、“ジェネレーション・レフト” (左派的な世代)と呼ばれる若い世代が生まれ始めているいま、新しい社会の可能性と、その希望について、本作は世に問いかける。

【ストーリー】
日本の政権を長く担っている自由民主党。1955年の結党以来、野党となったのは4年間のみだ。経済最優先の新自由主義政策のもと、家父長制的な性格を持つ保守政党である。 2021年、世界中でコロナ禍が続く中、日本では繰り返される事業者への休業要請や夏に控えた東京オリンピック・パラリンピックを巡って、世論が二分されていた。一方、自民党政治を最も厳しく批判してきた政党がある。1922年創立の日本共産党は、日本で最も長く存続する政党であり、新自由主義からの転換を目指す左派政党だ。本作は、最古の政党が歩んできた歴史と、それを受け継ぐ若き世代を追ったドキュメンタリーである。

配給:ML9


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