Dos Monosという未確認フロウ物体
【リレーコラム】新型コロナウイルスと私たちの生活 by 荘子it & TaiTan(Dos Monos)|僕はさなぎの中の液体になりたい - FNMNL
「こんな濃密で面白い文章を書く人達がいるんだ!」と、このコラムを読んで遅まきながらDos Monosの存在に気づいたのはつい先日のこと。実際は少し前にSpotifyでチェックしていたのだけど、それっきり頭の片隅から抜け落ちていた(よくある)。
1993年生まれの3MCによって2015年に結成されたDos Monos(スペイン語で2匹の猿を意味する)は、Spotifyに1万人のリスナーを持ち、YouTubeのMVの最大視聴数は10万ビューを記録する。それらはネット上の数値にしか過ぎないが、彼らが日本のヒップホップ・シーンの中でどういうポジションに位置しているかは、今のシーンにコミットしてない僕のような門外漢はよくわからない。
いくつかのMVやライブやインタビュー、2019年にリリースされたデビュー・アルバム「Dos City」をザックリと観たり読んだり聴いたりして、僕は彼らのフレッシュでフリーキーでフレキシブルで多面体な魅力にすぐにトリコになった。豊富な語彙力から繰り出される3人によるリリックとフロウは抜群に耳に残る。
「In 20XX」は、セロニアス・モンクのピアノ・フレーズを引用したトラックに、「ラーラララー♪」という調子ハズレのコーラスと、ヘッドバンギングするゾンビめいた3人の動きが絡む。映像にはヴェイパーウェイヴ以降のインターネット世代らしい同時代性が伺われるし、タイラー・ザ・クリエイターのトボけつつ自分自身にツッコミ入れるような醒めた感覚にどこか通じるところもある。
Dos Monos - 20XX
「Dos City Meltdown」は、太いブレイクビーツに乗るパンキッシュでハッチャケた90年代なノリがビースティ・ボーイズのソレを強く感じさせ、「それぞれの基地から/撃つミサイルの差異は/モビー・ディックのサイズではない/重力の虹の意味/ストップ・メイキング・センス/とりあえず韻踏み/燃やせ歌詞の意味/華氏451」というフックのパンチラインにシビれる。
Dos Monos - Dos City Meltdown
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のアフロ・フューチャリズムを学ぶコースでサン・ラについて研究し、パンクとカンパニー・フロウが好きだと言う没。
ドラマー出身で演劇の経験があり、発話とリズムとお笑いが好き、ナンセンスありきで暴力と知性の両方が入ってるのがDos Monosだと定義するTaiTan。
トラックメイカーでありプロデュースもこなす荘子itは、「Dos Monosで使っている言葉は、ある意味で世間を捨てた時に出てくる言葉なんです。本質的に非社会的で非政治的な言葉の使い方をしている」(*1) と、「共感」がマジックワードと化したSNSとユーチューバーの時代に抗おうとする。
*1=インタビュー:もうひとつのシティ・ポップ Dos Monos『Dos City』 - CDJournal
中原昌也やジャック・デリダの本から、ラップが本来持っている批評性やツッコミ芸を感じ取り、フランク・ザッパやキャプテン・ビーフハートのような特異な音楽家、ギル・エバンスやチャーリー・ヘイデンの集団演奏やオーケストレーションから曲作りのインスピレーションをもらう(*2)。ジャズ・サンプルをいくつも重ねてカオスのような歪んだ音風景を描き出す手法は、パブリック・エネミーを手がけたショックリー兄弟を思わせなくもない。
*2=大田区にある荘子itの実家に集まった3人が影響を受けたアーカイブについてざっくばらんに語り倒す動画「オタク IN THA HOOD」参照。
荘子itはDos Monosの音楽が売れることよりも、過去から未来へと連綿と続くアーカイブの一部になれたらいい、とも語る。それは謙虚さと同時に野心でもあり、自分たちを大きなムーヴの点ととらえる客観的視点や饒舌で旺盛な批評意識を、彼らはあくまで3MCの古典的なラップの枠組みの中で育もうとしている。
デビュー作「Dos City」をリリースしたロサンジェルスのレーベル、Deathbomb Arcには、JPEGMafia、デス・グリップス、ジュリア・ホルターと、オルタナな異分子と言える多様なアーティストが在籍する。荘子itは、Warp Records30周年プレイリスト企画で、ダニー・ブラウンとエイフェックス・ツインを挙げ、後者について「強烈なビート・ミュージックの中に異化効果を忍ばせる」と書いてもいる(*3)。
*3=「MY WXAXRXP PLAYLIST」参照。
Dos Monosが「Organized Konfusion(コントロールされた混沌)」を合言葉に、その異質な存在をシーンやジャンルにどう投げかけ越境するのかしないのかは現時点では全く未知数。だからこそ、楽しみだし、注視していきたい。
「Don’t be afraid of nonsense/Our choice is coolよりもfool/それがDos Monosのanthem」(「In 20XX」)
「消費されやすく、メディアのりもよい、いくらか面白みもあり、その対価として甘い蜜をもらえるような、かりそめの成体/変体のホログラムを夢見る/見せる、安全な自室で布団にくるまった芋虫のような僕やあなたが、その場しのぎで延命することを止め、外敵から無防備なさなぎの段階に入り、完全な変態を遂げることができればいいと思う。それは本当に長い時間を要するが、縮小再生産ではない全く新しいものは原液からしか生まれない。」(荘子it)
Dos Monos - Dos City
*このテキストを書くに当たり、Twitter経由で、山崎君と岸田さんにたくさんのヒントと助言をいただきました。ありがとうございます。本文中、敬称略。(富樫信也)