田村一個展『山山人山山』 / 作家インタビュー
【田村一の過去インタビューはこちら】
――白白庵での個展は通算七回目、去年の『Appetite for Abstraction』を経てこの一年でどのような変化がありましたか?
より抽象的になったと思うんですけど、どうですか?あはは笑
――抽象的という意味では今回「山」にまつわる新作が多くラインナップされています。特に象徴的な『山に落ちてたから拾った』『山に落ちてて拾いたくなるもの』『山に落ちてたので拾った』とありますが、まずはそれぞれのシリーズについてお聞かせください。
両方とも基本的には『ドラゴンアイ』シリーズからの発展系なんですね。
轆轤で挽いたあれを叩いて伸ばして、ナンみたいにして。それをくるくる巻いて作ってるんですよ。
これがなぜできたかというと、秋田にヤマモという味噌醤油の蔵があって、そこでは酵母を使っていろんな食材を味噌とか醤油のようなものにしたり、さまざまな発酵食材を作っているんです。最近は発酵食材を使ったコース料理を提供することも始めて、そこで使う器やカトラリーレストを作って欲しいというオーダーを頂いたんです。そのカトラリーレストは鉱物とか生物をイメージして作って欲しいというオーダーで、どうしようかなと何種類か作ったんだけど、なかなかうまくいかず。
元々、「ドラゴンアイ」のアプローチにはまだまだ可能性があるな、ってずっと考えていてたんです。去年の個展ではそれを利用した茶碗も作ったり。
それをさらに発展させて、丸い状態の粘土をやわらかいうちに板に打ち付けて伸ばしていくんです。延皿って言われるお皿の作り方ですね。そういう風に伸ばしたやつを巻いてみたところ、なかなか香ばしい感じになったわけですよ。
昔、子どもの頃山に入ると石とかかっこいい木の枝とか拾ったじゃない?
そういうイメージが浮かんできたので、「これって山に落ちてたら拾いたくなるよね」ってオーダーして頂いた方と話をしていたら盛り上がって。ヤマモがあるのは秋田の湯沢市といって内陸の南の方なんですけど、「鹿嶋様」というでかい藁人形を神社に祀っているんですね。ネットで調べるといっぱい出てくると思うんですけど。そういう風に稲藁で何かを作っている場所だから、そういうイメージがと繋がるのでは、と思ったのが最初だったんですよ。
で、拾いたくなるものを拾ってきてじゃあどうするかね?と。DM用に送った最初の作品だと欠片みたいなものに乗っけたんですけど。ああいった形の本体に対して乗せる台を幾何学的な、くっきりした形にしてみると面白いんじゃないかと思ったんです。ハンス・コパーがああいうの作ってたんですよね。それにブランクーシも。そういうイメージがあってできたのが『山に落ちてたので拾った』
落ちてたものにもう一手間加えたものですね。
――落ちてたものにより意図的な人の手を加えたものなんですね。
そう。そしてその土台は轆轤で作っちゃえ、と。そうすると動きに対比が出てきますよね。だいぶ昔に白白庵で見せた円錐とかのオブジェと繋がるイメージです。それと最新のピースを組み合わせてます。
――『山に落ちてて拾いたくなるもの』の方がカトラリーレスト的なイメージなんですね。
なんてことのないものなんですけどね。カトラリーレストにもなるものもあれば、滑って乗らないものも多い。でもカトラリーレストにならない方が作品としては正しいんです。『山に落ちてて拾いたくなるもの』だから。あれはいいね、これもなんかいいね、って感じで作ったんです。用途とかなくても目にして触れた時に何か引っかかる面白い感じがあれば良いんじゃないかと。
(にゃーー)
――さっきから猫元気ですね。僕はこのタイトルが気に入ってます。『山に落ちてて拾いたくなるもの』いろんな記憶が刺激されてとてもワクワクします。
タイトルからそういうイメージの拡がりを持ってもらえたら嬉しいですね。道具ということだけじゃない方向に拡がってくれればと思います。
――先程の『ドラゴンアイ』シリーズについてお聞かせください。
この何年も天草陶石と信楽の透光陶土を合わせた土をずっとメインで使っているんです。天草オンリーと透土を混ぜたものと。磁器単味よりも透土を混ぜると荒くなるから土肌が出てくるんですよ。
轆轤で皿を作る時って、粘土の玉を平らに叩いてそこにコテを当てて伸ばしていくんだけど、ある時に水分が足りなくてちょっと引っかかった時があったんですね。それで土の表面が毛羽立ちになって、「あれ?これは面白いのでは?」と。それでわざと毛羽立ちさせたお皿を作ったんですけど、それを人に見せたらドラゴンアイみたいだね、と。
秋田に八幡平っていう山があって、その山頂近くにカルデラ湖があるんです。高い山で冬になるとカルデラ湖が凍って雪が積もるんですけど、5〜6月くらいになって溶けてくると周りに水があって真ん中に氷とか雪が残るんです。それがドラゴンアイ。
今回も何枚か出してます。
で、それを柔らかいうちに板に打ち付けて伸ばしてくるくる巻いたのがさっきの『山に落ちてて』シリーズ。
――なるほど。その別の発展形としての茶碗があるんですね。
これから焼くものなのでギリギリの持ち込みになりますが今回も茶碗がいくつかあります。
お茶会もありますので、使う作品についてはイメージが繋がるように準備しています。
――個展タイトル『山山人山山』だけに「山」と関連する作品が多いですね。
『山道』シリーズの話をすると、抹茶碗の口縁を「山道」っていうじゃないですか。あれをもっと強調させるイメージで作ってます。あれは皿を轆轤で伸ばす前に口の部分を何箇所かつまんで、均一にしないように挽くと凸凹のまま轆轤が回ってくれる。そういう造形です。
――『山道』シリーズは口縁の凸凹を見立てたタイトルなんですね。
そうそう。黒田泰蔵さんもこういう口のゆらぎを見せてたじゃない?それを極端にした感じですね。黒田さんの場合は粘土の状態で均一に上がらないからああなってるんだろうけど、自分は意図的にやりました。
だからあの口縁の動きは削って整えたわけじゃなくて挽きっぱなしです。他のお皿でもそうで、高台の畳付きの内側くらいしか削ってないんです。
そういう風に生じさせた動きだから、真横からみると山の尾根の連なりみたいな遠近感が出て綺麗です。
――そのイメージを持ちながらぜひ手に取って眺めて欲しいですね。
そう。それが大事。
手の動きを感じながら触って欲しいです。インスタには轆轤で挽いた直後の写真もあげてて。水がうるうるしてる感じも山を感じられてすごく良い。
――『山の』とついたシリーズはどうでしょう?
緑の釉薬をメインでかけた新作ですね。緑は織部の釉薬なんですけど、普通は酸化焼成するところを全部還元で焚いてるんです。『山に落ちてて拾いたくなるもの』を作る時、試しに還元焼成してみたら、酸化で焚くより面白くなったんです。
――還元なのに緑のままで赤くなってはないんですね。
一部は赤くなってたりするんですよ。織部だけじゃくてマット釉とか他の釉薬も重ねがけをしているから、重なったところの色が複雑になったり、眺めていくと揮発して色が薄くなっている部分もあるし、まだらに赤くなった部分もあったり。酸化で焚くよりも不安定な揺らぎがあるんですよ。その雰囲気がこの季節に山がうるうるしてる感じみたいだな、とふと思ったので『山の』とタイトルをつけました。
これから焼く単の皿もそうなる予定です。酸化で焚くより印象が強く見えるから面白いんですよね。
――酸化焼成じゃないのに緑が強く出てるのは不思議です。
(にゃーーーーーーーー)
緑の釉薬には3%くらい銅が入ってるんです。普段、同じ銅ベースの釉薬でも辰砂をやる時は0.5%とか0.8%くらいだからかなり大きい違いですね。
揮発して薄くなってるところとか、他の釉薬がかかってパーセンテージが下がってるところは赤くなったり、鉄で黒っぽくなるところもある。
――色がまだらに入り組んでいるのは壺に顕著ですね。色味がぐにゃぐにゃしてます。
でかい作品はそういう変化が見やすいと思いますね。釉薬の掛け方を変えてたくさん作ったから今回はいろんなテストができてて楽しいです。
(にゃーーーーーーーーーーー!)
――ずっと猫鳴いてますね。
もうすぐご飯の時間だから。ちょっと待ってて。
〜中断〜
――再開です。
そう、まだらの中でスポットで緑が残ったりしてて、これは楽しいのでは、と思います。ちょっと毒々しいくらいのトルコブルーみたいな色も出てどうしようかなって笑
普段の青磁では絶対鉄しか使わなくて、生地と長石の鉄分だけで発色させてるんです。全然添加してないんですよ。
――今回の灰釉についてお伺いします。
今はアク抜きが終わってる灰がほとんどなくて、灰釉はちょうど全部切らしてしまってるんです。今回送ったのは「ヤマジュ」っていう十和田湖近くのゲストハウスのアカシアの灰で作った釉薬です。今回送った器系にはいくつかそれをかけてます。
――近年ではいろんなところから灰を入手して釉薬を作られてますね。
ヤマジュの灰はこれで終わりです。2023年の灰は今四種類くらい仕込んでいるんですけどまだアクが抜けてなくて。今は四種類くらい仕込み中です。
灰の中身によって発色も変わるので、いつのどこの灰かをナンバリングしています。同じところから頂いた灰でも年によって別物になります。
今回織部釉の作品が多いのは灰釉があまり準備できてないのもあるんです。とはいえ織部を還元で焚くと面白くなることを発見したのでそれをメインにしてます。
『山のグラス』も凄いことになってます。内側の結晶とか流れ方がかっこいい。
――確かに釉薬の流れ方は『山のグラス』のが一番すごいと思いました。
あれも下に織部釉で上に白マットや青磁釉を重ねて、掛け合わせでテストしてるから面白いと思います。
――そうしたディテールを一点ずつ、手に触れて比べていただきたいですね。
今回の出展作品はいつもの自分とは全然違って、より一点もの感がある上がりになってると思います。一個ずつ焼き上がりが違う。
ここまでの窯焚きでだいぶ掴んだので、会期前で最後に焚く次の窯ではその雰囲気をコントロールしようかと思ってます。
――『水煙』シリーズについてお伺いします。
去年か一昨年くらいから耳付きの器をちょっとずつ作ってまして、数を作ってるとだんだん呼吸がわかってきて変化もしてきてる。
蕾の水煙も追加で持っていきます。それはまた窯で色味が変わるはず。
――耳付き、かわいいですね。
かわいいでしょ?今回は手より耳を多めにしました。
縄文土器に「水煙土器」っていうのがあってそれをモチーフにしてます。こんな風にくるくるしたのがついてるんですよ。
――ところでDMのあの大きな片口は何を思って大きくなったんですか?
でかいの作りたくなったんですよ笑
やっぱ定期的にちゃんとでかいの作らないとダメだなと思いますし、作りたくなるんですよ。今回大きくても形として破綻もしていないし。
――通常サイズの片口とシルエットの印象が同じなんでびっくりしました。
でしょ?そういう風に大きいのを作るのはなかなか難しいんですよ。
――「アタマ」はどのようなイメージで?
10年くらい前に秋田のアートフェアでアタマシリーズを作ったんです。昔白白庵で出したこともあるんですけど。その時には磁器オンリーでやってたので、今使っている透土を混ぜた素材でも作ってみたかったんです。
なのでこれもアプローチとして『ドラゴンアイ』の延長で作ってるんです。お茶会で怪談もしますからね。葉っぱとか石が顔や手に見えてくるような感じが、自分の制作にとってはすごく大事な要素だから。そしてこれも山に落ちてたら拾いたくなるようなものとしてイメージしてます。マケットみたいなもので、『ドラゴンアイ』『山に落ちてて拾いたくなるもの』とも繋がる。何かの頭かもしれないしそうでもないかもしれない。
この先ではもっとでかいのも作るかもしれないですし、山に落ちてそうなものが繋がっていろんなイメージが生まれたら面白い。
今回は初日にお茶会もあるので、そういう繋がりを体感してもらえたら良いな、と思います。