工房むくの木 あすか・あづち展『LIFE is BEAUTIFUL』 / 作家インタビュー
――まずは簡単に、工房むくの木のご紹介をお願いします。
あすか:私たちの父・三尾英明が立ち上げた工房で、元々は新聞記者だった父が、1983年に故郷である付知町に戻って始めたんです。そもそも焼き物やものづくりに興味があったみたいで、本当は陶芸家になりたかったらしいんですけど。この付知町は木材が豊かで昔から木工が行われてきた土地で、風土に根付いた仕事をしようと考えたようです。いろんな人に教わりながら、一から自分で轆轤を使って器を挽いたりしていたそうです。
当時はまだ木に絵を描くのは一般的でなくて、「自然のものに絵を描いて手を加えるのはどうなのか?」などと言われていた時期もあったみたいです。
一般的に白木や無地の器はよく見かけますが、今でも、絵付けされている木のうつわはめずらしく思われることが多いです。絵が取れたりしないか、食べ物をのせたり、洗剤で洗っても良いかなど聞かれたりしますが、塗装もしてあるので、普通の食器同様にお使い頂けます。
ただ当時はなかなか理解されなかったり、展示会を各地でしながら知ってもらっていたようです。
この色絵木工に初めて取り組んだのが父・英明と妻のまさ子でした。数年前に父は他界したんですけれども、今は娘である私たちも加わって、母と三人で制作を続けています。
母は元気なんですけど、今回はあまり新作に手が回らず出展辞退。ということで今回は私たち二人の作品の展覧会となります。
――工房むくの木以前から、双子のアーティスト「ASUAZU」として活動されてます。
あづち:短大時代に私が友達と一緒neutronに行ったことがきっかけで。neutronが三条の地下にある頃、アーティストファイルを友達と見に行ったのが最初でした。通っているうちに主宰の石橋さんとお話をするようになり、私が双子で、それぞれに別ジャンルで絵を描いていることなどを知って「二人で描いてみたら?」って提案してくださったんです。
そこから「ASUAZU」として二人で活動するようになったんです。私はイラストレーション、あすかは油画を専攻していて、お互い全然別ジャンルですし、一緒にやるなんていう発想はなかったんですけど。
でも実際やってみると、双子だからか、自分で描くだけじゃない新しい発見があったんです。もちろん他の人とライブペインティングをやっても、発見はあるとは思うんですけど、それとはちょっと違う。何も気を使わなくても、どこかでお互いのことをわかり合ってる仲ですし、作品を交換して描くのが自分たちでも楽しいんです。その楽しさが続いて今に至る、という感じです。
もしあの時に提案してもらわなければ、こんなやり方は自分たちでは辿り着かなかったでしょうし、それぞれで活動してたんじゃないですかね。
ある意味、あすかとあづちの二人でもありつつ、そこに三人目の絵描きとして「ASUAZU」という人物が生まれるような感覚もあります。
――あすかさんはいかがですか?
あすか:同じものを見て育ってきたはずなんですけど、表現したいものが違うのが面白みですね。元々私は具体的なものじゃなくて、抽象的な作品ばかり取り組んでいましたけど、もし具象のものを描いてたら、ぶつかりあってうまくいかなかったのかな、と思います。二人とも人前に出るのはあまり得意ではないので、かつてはASUAZUとしてのライブペインティングなんかも石橋さんから提案してくださって、いい経験になったな、と思ってます。
――今回は「工房むくの木展」ながらお二人がメインで平面作品もたっぷりです。今回の全体のテーマについてお聞かせください。
あづち:昔は一つ屋根の下で暮らして、目の前で作品を交換しながら描いていたんですけど、今はそれぞれに家庭があって、子育てをしながら別々のところに住んで描いているんです。それぞれの環境で、やっぱり自分たちの中で子どもの存在が一番大きいんですね。
子どもってちょっとしたことで本当にびっくりしたり、感動したり。ちょっと車が走ってるだけ、花が咲いているだけ、公園に行くだけでとても喜ぶんです。
大人になってみるといろんなことが分かった気になって、当たり前の事として忘れてしまう。そういう小さな幸せに気づかせてくれるのが子ども達で、もう一度そういう視線で描いてみようか、と思ったんです。当たり前と思っている生活の中で、どれだけ幸せな部分を見つけられるか、そこにテーマを当てたかったんです。
今もどこかで戦争があったり、コロナ禍以降の時代でコミュニケーションがうまく行かなくなったり。そうした中、みんなで普通にご飯を食べていることが本当に幸せなことで、ちょっとしたことが本当はすごく大事なことなんだ、ということを見つけられるようなテーマにしたかったんです。絵画もうつわもそんな思いから描きました。
――平面だけでなくてうつわも繋がるんですね。
あづち:やっぱりうつわはご飯を食べる為に毎日使うものですし。スーパーのお惣菜でもうつわに入れ替えるだけでも美味しく見えるし、お気に入りのうつわであれば一人で食べる時もなんだか気持ちが豊かになったり...自分自身が普段使う中でそんな風に思うこともあるので、なにげないことですけどちょっとした幸せな気持ちを見つけてもらえたら嬉しいです。うつわに絵があって温かみがあって、ご飯を食べながらみんなでうつわの話をする。
そんな風に繋がってくれたら嬉しい、と思って描きました。
あすか:テーマは二人で考えたんです。やっぱり生きていること自体が幸せなことで。DMの絵の中で、あづちがお誕生日の子どもを描いていたんですけど、お誕生日だけじゃなくて毎日が特別という感覚ですね。そういうところに気づきたいという思いで描いたんです。
目に見えるものだって、何気ない普通の形とか当たり前の色とか、その時々によって見え方も本当に違いますし、見る人によってそれぞれの形の捉え方だったり、幸せの形もそれぞれです。
うつわで新しい絵付けのものもあれば、いつも描いているものもあるんですけど。父が「使い手がうつわを育てる」とよく言っていたんです。自分たちが作って、買ってもらって終わりじゃなく、使ってもらうことで、使い手とうつわが一緒にすごしてくれたらいい。自分たちが作った思いだけで終わらず、使ってもらうことで、それぞれの日常の物語にうつわが寄り添ってくれたら嬉しいんです。そういう思いも込めて制作しました。
――お話とタイトルも繋がってますね。段ボールが支持体になっている新作平面作品もあります。
あすか:いつもの絵画作品は支持体がパネルとかですけど、テーマを設定せずにドローイングしたりとか、身近にあるもので送りあって描く作品もあるんですね。段ボールの作品は元々は未完成のままあったんですけど、なんだか新鮮に思えたんです。今までちゃんと発表したことはなかったですし。
あづち:昔から、テレビを見ながらとか音楽を聴きながら、チラシとか段ボールにちょこちょこ描いたりはしていたんです。それこそ子どもと一緒に描いて遊んだり。元々コラージュ作品も好きで、段ボールの破れたディテールも面白く見えるんですけど、普通に身近にある存在。その雰囲気がよく思えて取り入れたんです。
普段荷物を入れる箱が誰かの手によって絵になったり、何か違うものになったりするその感覚が楽しいんです。普段パネルに描く前の段階で、段ボールに試しで落書きすることも多いんですけど、今回はそこから派生したものを作品として仕上げて、何点か出展してます。
――「身近な物事に幸せや面白さを発見する」という今回のテーマとモチーフ、そして素材のもつイメージが合致しますね。
あづち:身近な存在がくれる影響は大きいですよね。私とあすかの描くモチーフや描き方も身近なものというか、自分たちの生活にあるものから生み出しているパターンが多いので、特に今回は子ども色が強いかもしれない。
――お二人で描く時は、まずテーマ設定ありきなんですか?
あづち:大体は展示のテーマを作った上で作品制作をするんですけど、同時に普段の生活にあるモチーフがアイコンとして出てくるので、今の自分たちをそのまま表現した形になるんです。テーマも今の自分たちが自然と出せるもので描きました。
――それではうつわの方のお話をお願いします。まずは新作のお抹茶椀から。
あすか:二年ほど前に木工旋盤を習い始めて少しずつですが、うつわらしいものが作れるようになりました。ただまだ自分の機械を持っていないので、月に一回くらい場所を借りて作っているんです。普段の器は、外部の木地屋さんにお願いしています。
展覧会の始まるしばらく前に、今回はお茶会があると聞いて作ったんですけど、もうちょっと早く聞きたかったですね・・・笑
普段は抹茶を飲んでいないので、お抹茶をいただくうつわってどんなのだろう、というところから始まって。手探りで色々調べながら、あづちの作品用に一個と自分用に二個くらい作ったんです。
裏側に「DRAWER」って描いてあるのは私が削ったものです。「むくの木」って書いてあるのは外部で挽いてもらったものですね。
あすか:亡き父との思い出で、小学生くらいの頃、父は着物を着て、お正月にお抹茶を点てて和菓子を出してくれていました。子どもながらに抹茶の苦味と和菓子が美味しかったのが思い出されます。
なんだか少し特別な気持ちにもなりました。またその時に父が集めた抹茶碗を見せてもらい、私とあづちにそれぞれプレゼントしてくれた作家物の抹茶碗もあって、年に一度それを使うのが楽しみでした。
今自分が親になって、子供にも同じことをしてあげられたらな、と思っています。
かしこまった感じじゃなくてもいいし、日々過ごしていく中でお気に入りのうつわでお茶したり、おやつを食べたり、そこから会話が生まれたりして。そんなところに幸せを感じます。日常的にそんなお茶会があってもいいのかなと。気軽に使える木のうつわならではかもしれません。
あづち:抹茶椀は、カフェオレボウルみたいなボウルタイプとあすかの木地とで絵付けをしたんです。そのうちひとつに『メメントモリ』というタイトルをつけたんですけど、外側が生きてるモチーフで、内側は死のモチーフになってます。
もともと、私が描くガイコツモチーフは怖いイメージではなく、自分自身の中にあるもので親しみを込めたアイコンとして使う事が多いんです。
今回、抹茶椀に絵付けする時に考えたのは、人によっては日常的だけれどちょっと特別な、お茶の時間に少しだけ生死について感じてもらいたい、ということです。
あづち:お茶を飲み干した時に出てくるガイコツは、いつ死ぬかわからないからこそ今を大事に、今ある全てに感謝して、生きることを楽しんで欲しいという気持ちを込めました。
何気ない日々が、同じ事の繰り返しでなく、特別であることを感じてもらえたらと思います。
(子どもたちがハッスルする声)
すみませんうるさくて・・・
――いえいえ、どこの家でもそうですよ。
あすか:自分が生地から挽いた作品は、形から考えて作っているんです。抹茶碗の鏡モチーフは、木目を鏡っぽく見せた絵付けをしてます。私は物語性のあるものが好きで、形そのものからも物語が生まれる雰囲気が大事なんです。
木地を作り始めてから、絵付けするのが勿体なく感じて、木目や色を見てると何を描いたらいいかわからなくなる時もあるんですけど。やっぱり自分が好きで絵を描いてきて、何も描かないと自分らしさが見えなくなってしまいます。木地と自分のドローイングをどう合わせるかは難しかったですけど、楽しいですね。
自分のうつわでは動物モチーフが人気で、お子さんにも見てもらいやすいんですけど。今回は形そのものをモチーフに絵付けをした作品を多めにしたので、そこを見て欲しいですね。
――おちょこも新作なんですね。
あすか:お酒のうつわも普段はあまり作らないですね。あづちの作品で前に出したこともあるんですけど。わたしは作ったら湯呑みたいになっちゃって。小鉢とか、使う側の人に決めてもらう感じでお願いします笑
あづち:おちょこも普段の絵っぽいのを取り入れたんですけど、お酒を飲む時もみんなで話して、見て楽しんで欲しいんです。使いながら、いろんな角度で眺めながら楽しんでもらえるように絵画チックな絵付けもしました。
――それぞれソロの平面作品についてもお話を伺います。
あづち:最近は一人で描くことも少なくて。ずっと二人で描いてきたんで、一人で描くと物足りない感じがするんですよ。先ほどの話と重なりますけど、自分が生活する中で見たものだったり、子どもが好きな何かだったり、今の自分が見ている世界を平面に置き換えることが多いので、そうしたモチーフをコラージュしたパターンの作品を出品しています。テーマがあるというよりは、普段の生活の中で見ているものや、好きなものそのものを題材にした作品たちです。
あすか:随分前の未発表作品も混ぜているんですけど、私の描く絵はあまり変わってないんです。昔から丸三角四角とか、抽象的な形に自分は惹かれているんです。普段自分たちが目にしているものも抽象化したらシンプルな形になっていますけど、人によって丸いものや特定の色が柔らかく見えたりとか、それぞれ違う受け取り方がある。そうしたそれぞれのストーリーが好きで、「形」をテーマに描きました。アンティークの本を買って、それにドローイングしたり刺繍したりという作品もあります。ドアとかクロスのモチーフもよく使うんですけど、器の絵付けにもその形を持ってきています。ドアは新しい世界とかスタートとか、日常にあるけれども特別というか。それもテーマに繋がると思って選びました。
――それぞれに新作と定番モチーフもあり、器の作品もたっぷりと揃います。お弁当箱とか小箱なんかの変わり種アイテムもたくさん。いろんな作品があるので、ゆっくりと楽しんで選んでいただきたいですね。
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